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トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第8章 混沌の魔王と冒険者たち

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167 デビルロード

 僕らは軟禁されすぎじゃないだろうか?

 ジェノヴァ大学でも、ここでも。

 僕らの連れてこられた天幕は一応客人用という体だったけれど、入口に3人、周囲に10人のモンクが警戒に当たっている。


「それで……どうするのよ、ノロット」

「う~ん」


 参ったな。ジェノヴァ大学と違ってここはただの天幕。しかも駐屯地のど真ん中だから、まったく気づかれずに脱出するのは難しそうだ。

 かといって10日間動けないというのはちょっとあり得ない。こんなことになるなら「光神ロノアの極限回廊」へ先に行けばよかった……。距離的には明らかにマヤ王国のほうが近かったからなあ。


「ご主人様。いっそのこと従えばどうでしょうか? 積極的に戦いに関与すると。モンスター討伐ならわたくしたちの得意分野でしょう」


 僕はそんなに得意じゃないんだけど。


「戦闘の合間で山頂を目指しちゃうってことかな? さすがにそれは見抜かれるんじゃないかと思うけど……それに僕らを戦いに加えてくれるかって言うとそこもね。計画にはなかったことだろうし」


 計画的な人たちだもんな。

 ああ~~どうしよう。

 ごろんと、置かれてあった布団に寝転がる。


「ゾックはどこに行ったのよ、ゾックは」

「友だちに会いに行ったよ……」

「なにあいつ! あたしたちだけ放っておいて!」

「さすがにもう、ゾックさんに頼れないところでしょ、これは。――せめてモンスターの情報くらいわかればなにか有効な作戦の提案でも……いやあ、ダメかなあ? 半年前から準備してたって言うしなあ」

「そうですね……15年も戦ってきた集大成ですものね」

「――え?」

「モンクたちの練度も高く作戦の成功率は高そうに感じました。であれば10日間ではなくもっと早く終結する――」

「リンゴ!」


 飛び起きた僕にリンゴが目を丸くする。

 リンゴも驚くときがあるんだな――っと、それはどうでもいい。


「今、なんて言った?」

「モンクたちの練度のことでしょうか」

「違う、その前! 何年前!?」

「え、ええ……確かに部隊長は15年前から悪魔と戦っていると……ゾック様は10年以上前という言い方をされていましたが」

「そうか……15年前、15年前なんだ」

「?」


 僕の中でひとつの仮説が思い浮かぶ。

 それを解決するためには――バッグを漁って1冊の本を取り出す。

 いつだってこの本は僕の道しるべになってくれた。


「もしかしたら、ここになにかヒントがあるかもしれない」




 夜半、訪れた僕らを見て部隊長は怪訝な顔をした。


「……いったいどうした? 天幕でおとなしくしているようにと命じたはずなのに」

「無理を言って連れてきてもらいました」

「計画にはなかったことだ……」


 僕は、少しだけ眠そうに困惑した部隊長を見てこの人にも若干の表情があると安心する。


「モンスターを率いている悪魔を、封印する手段があると言ったらどうします?」

「…………」


 疑う気持ちももっともだ。

 15年間、戦ってきた彼らが知らなかった方法を、今日、やってきた僕が知っていると言って信じられるものか。

 そう、15年だ。


「15年前――僕が生まれた年です」


 ますます部隊長は怪訝な顔をする。


「言っていませんでしたが、僕の父は冒険者です。神の試練をいくつか突破しています」

「ほう……?」

「『聖者フォルリアードの祭壇』も、です。15年前、父はここの神の試練を突破しました。悪魔タイプのモンスターが出現したのもこのとき。なにか感じませんか?」


 部隊長の瞳に真剣な眼光がきらめいた。


「話を聞こう」


 そうして僕らは、最初に部隊長と会った天幕へと通された。

 明かりが灯されゾックも眠い目をこすりながらやってきて、エリーゼににらまれている。


「この本、『いち冒険家としての生き様』。赤ん坊だった僕が捨てられたときにいっしょに置かれてあった本だそうです」

「孤児なのか? さっき父親と……」

「いろいろあって見つけたんですよ。望むと望まざるとかかわらずね」


 皮肉っぽく言ってみたけど、意味のない皮肉だと僕にもわかっている。


「……ともかく、この本には表紙が2枚あって、特殊なインクで書かれた紋様がありました。父が描いたもののようです」


 部屋を薄暗くすると浮かび上がる紋様。

 ツタのような、幾何学的なような、僕らには意味を理解できない紋様だ。


「? なんだ、この紋様は」

「『聖者フォルリアードの祭壇』……その最奥にある祭壇に描かれている紋様です」


「女神ヴィリエの海底神殿」を突破するときに必要です、と言おうとしたけどその言葉は出てこなかった。

 神の試練の内容に関することだから。

 さて。

 僕は唇を軽く湿らせた。


「先ほどまでこの紋様は光を放っていませんでした。それが、ここにきて発光しだしたんです。明らかに『祭壇』に反応しています。15年前に父がここの試練を突破し、紋様を書き写した。それ以降、モンスターが発生している――神の試練になにかカギがあります」


 ひとつだけウソをついた。

 ここに来る前から紋様は光を放ったことがある。

 推測に信憑性を加えるためのディテールってヤツだ。

 ただ、父の行動とモンスターの発生とは何らかの関係があるのは間違いない。神の試練は毎年ぽんぽんと突破されるような代物でもないからだ。


「…………」


 たっぷり1分は黙りこくった部隊長は、


「……わかった。ではこうしよう。明日の作戦開始後におぬしらは山頂を目指す。山頂方面はモンスターの影が濃いが十分な戦力を我々も当てているから、突破できるはずだ……計画にはなかったことだがね」

「部隊長!」


 モンクたちがあわてたように声を上げる。

 きっと、この人が計画になかったものを受け入れるということに驚いているんだ。

 でもこっちとしては万々歳だ。

 ほっとした。10日間も足踏みしないで済む。


「ただし、条件がある」


 と、部隊長は付け加えた。


「おぬしらには私が同行する。――ゾック、おぬしもついてこい」




 部隊長が戦場を離れてもいいのか、という疑問については、そもそも部隊長は戦力としてカウントされていなかったらしい。全体の指揮を執るわけだからね。で、その指揮官がいなくなってもいいのかという疑問が新たに湧くのだけれども、それについても「すべて計画通りに動くから指揮を執ることはない」のだそう。モンク部隊における指揮官の存在意義って。

 夜明け前に行動開始となった。

 軍隊の作戦開始って、なんかこう……みんな集まって指揮官が激励の言葉を述べて「作戦開始!」みたいな声をかけるんだと僕は思ってた。

 でもモンクたちは違う。

 いつもと同じように起き、食事をし、身支度を調え、5人1組のチームになると、定刻には散らばっていく。


「予定通りだな」


 淡々と部隊長がうなずいた。

 ここから山頂までは片道で10時間程度だという。

 どんな試練があるのかわからないから食料は5日分用意してある。


「行こう」


 まだ暗い中、僕らは駐屯地を出た。

 大きな石も転がっている悪路が続く。

 30分ほども経ったころだろうか。遠くでなにか巨大なものが崩れるような音が聞こえてきた。


「始まったか」


 ぽつりと部隊長が言う。作戦の一部なのだろう。

 ふと気づけば辺りは暗いままだ。もう日の出の時間なのに。


「光が遮られているのは悪魔による目くらましだと言われている」


 僕の疑問に気づいたように部隊長が言う。


「だが明かりを点けようものなら、いい標的になる。我々としては暗くても我慢して進むしかない」

「なるほど」

「聞かなくていいのか?」

「……なにをです?」

「我々がどこまで『聖者フォルリアードの祭壇』についてつかんでいるのかを。知りたいのだろう」


 思わず立ち止まって振り向いてしまう。

 部隊長は僕の横をすり抜けて先へと歩いて行く。


「足を止めるのは時間の無駄だ」

「えっと、あのー」

「おぬしたちが『祭壇』についてなにも知らないことくらいはわかっている」


 げっ。

 僕が言ったのがハッタリだってこと、バレてたの?

 だからか。

 おかしいと思ったんだよな……あっさり解放してくれたし。


「驚いたかね?」

「あー。驚きましたけど、考えれば当然ですよね」

「当然とは?」

「今日から作戦開始で、警備が手薄になる駐屯地に残しておいたら僕らは脱出しようとするでしょう。それによる混乱はあなたにとって『計画外』のこと。だったら、直接監視下において山頂を目指させたほうがいい」

「ほう、鋭い。そのとおりだ」


 あまりにも淡々と言われるのでまったく褒められた気がしない。


「昨晩、ゾックに話を持ってこられなければ手足を縛ろうと思っていたがね」

「え?」


 昨晩、って……ゾックは友だちに会いに行ったんじゃ。


「お、おいおい部隊長、そいつをここでバラすのかよ」

「ずいぶんと買っていたじゃないか。近年まれに見る期待の冒険者だとか、あいつらなら神の試練をすべて突破するぞとか、安心して行動させてやれとか」


 え、えぇ……? 友だちに会いに行くと言いながら部隊長のところに行ってたのか。

 エリーゼは「当然」みたいにふんぞり返って、リンゴは「ご主人様なら当然です」という顔をしている。


「あー……もしかして僕らが行かなくても案内してくれる気でした?」

「そうなる」


 ぐは。わざわざ交渉をしかけに行った僕がバカみたいじゃないか……。




「おいでなすったぜ」


 ゾックの言葉に、僕も気がつく。

 薄暗い――もうとっくに日は昇っている時間帯だというのに。

 かすむような視界の中に現れた、岩石の塊。

 そこに黒い煙が噴き出ている。

 モンスターであることは間違いないけど、これって動けるのか……? と思っていたら、


「!」


 びゅうん、と飛びだしてきた。

 僕が横に飛びのいて避けると、


「はああああぁぁぁぁぁぁ……」


 部隊長が重心を落とし拳を握りしめる。


「ああああああ!!」


 正拳突きが岩に突き刺さるや、無数のヒビが走り、欠片になって岩は吹っ飛んだ。

 ふぅ、と息を吐いた部隊長の右腕は、布が巻かれてあるだけ。

 拳だけで割っちゃうのかよ……と僕がドン引きしていると、


「次はわたくしの番ですね」


 リンゴがなぜか対抗心を燃やしていた。ちら、ちら、と僕のほうを見てくる。いやいや、がんばってもらって成功されても僕は引くだけだからね?

 他に出てきたモンスターは、ハゲタカ、背中に火を背負った野犬、土中から現れる蛇――といったタイプ。

 それぞれサイズがでかい。

 だけども、大きいだけだ。

 僕らは危なげなく倒していく。


「……戦闘力としては十分だな」

「な? 思ったよりつえーだろ?」


 部隊長とゾックがそんなことを話している。

 きっと“予定”よりも早く進んだのだろう。

 駐屯地を出発してから8時間ほど――ちょうどお昼時に、山頂が近づいてきた。




 腰を下ろして昼食をとる。駐屯地で仕入れた焼肉の切り身を、パンで挟んだものだ。酢漬けの野菜も付け合わせとしてある。

 モンクたちは食事の制限は特にないらしく、ただ飲酒だけが禁止されていた。


「我々モンクたちが来ているのはここまでだ」

「山頂まであとちょっとですけど……山頂は見ていないんですか?」

「悪魔があそこを根城にしているからな。今日は姿が見えないが、我々の作戦に対応しているんだろう」


 確かに、僕らが出会ったモンスターは単体ばかりだった。

 統率がとれているという話だったから首をかしげるレベルだったんだよね。

 でもここに悪魔がいないのなら好都合だ。

 樹海都市パラディーゾにいた悪魔は、とんでもない戦闘力だった……モラがいたからなんとかなったようなところがある。

 僕ら全員で戦えば十分勝機はあると思うけど、消耗するのは避けたい。エリーゼの剣だって折れたままだしなあ……。


「さて、それではそろそろ出発しよう——」


 と部隊長が言いかけたときだった。


「!」

「!!」

「!!!」

「!」


 僕らは全員はっとする。

 感じる。

 高速でこちらに向かってくる存在に。


「小賢しいな……人間ども」


 そいつは黒い霧とともに上空から降ってくると、僕らの前に立ちふさがった。

 黒の霧はマントとなってそいつを覆い隠す。

 肌の色は紫で、目は塗りつぶしたような黒。

 魔力の粒が浮遊している——上位悪魔だ、とすぐにピンときた。

 おそらく、デビルロード。

 悪魔を束ねる魔法の主。


「わしがいない間に山頂へ向かおうとしたのであろうが、そうはいかぬ。わしを出し抜くなど100年早いわ!!」


 声とともに発せられる障気がこちらの体力を削いでいく。

 だけど、僕らのうちでひとりだけ、違う表情を浮かべていた。

 部隊長は——メガネの位置を直すとこう言ったんだ。


「計画通りだ」


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