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トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第6章 神の試練

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122 神の試練 - 女神ヴィリエの海底神殿 最奥(2)


「……ノロット、ノロット!」

「あ、う、うん」


 エリーゼに肩を揺すられて我に返った。

 今、僕はなんていう言葉を聞いた?


「あの、僕の父を……知っているんですか?」

「はい」


 がん、とぶん殴られたような衝撃に頭がくらくらする。

 僕の父親だぞ。生まれて以来、物心がついたときにはすでにいなかった僕の父親だぞ。


「……名前は、なんていうんですか」


 気がつけば、聞いたこともないような声が僕の喉から漏れていた。


「え?」

「名前を教えてください」

「え、と、でも、あなたのお父様ですよ?」

「……僕は、父に捨てられたんです」

「!」


 ヴィリエが口を手で押さえる。


「まさか、そんな……」

「僕の父の名前はなんていうんですか」

「…………」

「ヴィリエさん。僕の父でしょう? 僕が知らなくてどうしてあなたが知っているんですか! 僕に知る権利はありますよ!!」

「ノロット、落ち着いて」

「リーダー!」


 エリーゼとレノさんが両サイドから僕の肩をつかむ。

 ……興奮しすぎた。心臓がばくばく言ってるもの。


「ノーランド、と名乗っていました」


 ノーランド。

 聞いたことは……ない、な。僕の記憶にはそんなヤツどこにもいない。


「ノーランドさんは、私たちの試練のうち、4つ目まで到達していました」

「4つ……僕の——父が?」

「はい」


 冒険者だった? しかも神の試練のうち4つ目まで……。


「おかしいです、そんなの。だって神の試練の存在は怪しまれているほどなんですよ。4つも踏破した冒険者がいたら話題になっています」

「証拠がありますよ?」

「証拠が!?」

「ええ、あなたの持っている本です。あれは祭壇にたどり着いた者にしか描けない紋様。祭壇は4つ目の試練」

「…………」


 あの本は、「いち冒険家としての生き様」は、僕が物心ついたときには持っていた。

 そして何度も何度も読み込んで……それこそ革の装丁が切れるほどに読んだ。誰の持ち物だったかは覚えてない。


「……捨てられたときに、所持品として持たされていた、ってことですか」

「おそらくは。ノーランドはこう言っていました。自らの志が断たれそうだと。ノーランドの偉業に目を留めた故国の貴族に命を狙われていると。もしもこの先に進めないことがあるのなら、自らの息子にこの先を託したいと。……きっと、自分と同じように嗅覚の優れた冒険者になるだろうから」

「そんな……」


 そんなの。

 今さら……。

 今さら知らされてどうするんだ。

 僕は——僕は、ひとりで生きていけると思ってた。

 両親を知らなくても冒険者として生きて、死ぬ。

 それでいいんだ、って。


 今さら、知らされてどうするんだよ……。


「……ごめんなさい、あなたを結果的に傷つけてしまいました。この記憶を忘れることもできますが、どうしますか?」


 後悔のにじんだヴィリエの声。


「……いえ、覚えておいたほうがいいように思います」

「わかりました。……答えられる質問はそう多くありません。残りの時間はあと……5分程度です」

「そうなんですか?」

「私たちはこの世界に意識体だけを残しています。肉体はとうに滅びました。試練を行うときにだけ覚醒するため、長くはいられません。——それと先ほどの質問に答えていませんでしたね。私たち……私、オライエ、フォルリアード、ロノア、アノロ、ルシアの6人はサラマド村の出身です。そして非常に優れた冒険者としての資質を有していました。私たち6人は、運命に導かれるままに、世界を破壊しようとしていた混沌の魔王を倒しました」

「創世神話!」


 レノさんが声を上げた。


「それ、創世神話だよ! 聞いたことあるよ!」

「神話……そうですか、神話になっていたのですね。ですが私たちは人。人がなした業です。——他に質問はありませんか?」

「あ、あの、どうしてあたしの攻撃はオライエに当たらなかったの? 皮膚に弾かれたような感覚があって……」

「憑魔状態ですね。魔力を体表に漂わせることで身体能力を底上げできます。オライエはとても得意でした」


 へええええ、とエリーゼが大げさにうなずいている。


「もう、質問はいいですか?」

「……正直に言えば、質問したいことが多すぎてなにから聞いていいかわかりません……」

「そうでしょうね……私たちも予想外でした。私たちの試練がここまで情報不足になって遺ってしまうとは。まずはひとつ助言を。あなたたちは、オライエの石碑に向かうべきです。そこで試練が示す方向性を理解できます」

「…………」


 僕らは顔を見合わせた。


「あ、あの……オライエの石碑はどこにあるんですか?」


 ヴィリエは両手で頭を抱えてうめいた。


「……わ、わかりました。お教えしましょう。私たちが生きていたころは、ルセット山脈とリードル山脈に挟まれた土地に、ガルガンドという国がありました。そこです」

「調べてみます」

「ああ、もう、あなたたちには謝罪を。こんな状態で試練を終えてしまわなければならないなんて……」


 ヴィリエの身体が——いや、部屋全体が白っぽく霞む。


「1つ忠告です。ここで起きたことは他者に話すことができなくなります。あなたが、心から信頼している者以外には。試練を簡単に突破されるわけにはいかないので」


 もう、ほとんど見えない。

 僕の視界が白に染まっていく。


「あとは、この試練を突破した証拠に——あなたたち————いちばんの才能を————」




 …………。


 …………。


 …………。


「——ット様…………ノロット様!」


 ひゅおうっ、と肺の中に息が入ってくる。

 目が覚める。

 僕は寝かされていたらしい。


「リンゴ……?」

「ご主人様! お目覚めで……」


 リンゴがぽろぽろと泣いている。珍しいな、ここまで涙を見せるなんて。

 あれ……僕はなにをしてたんだっけ。

 そうか、「女神ヴィリエの海底神殿」にいるのか。

 ……ヴィリエと話したのが遠い昔のことのように感じられる。


「……もう、イヤです。ご主人様を送り出してこれほど心配が絶えないのなら、わたくしはこの身が滅んだとしてもご主人様についていきます」

「リンゴ……」

「お許しください。わたくしのワガママを」

「ワガママなんかじゃない。ありがとう」


 そうか……本気で心配してくれている人を、「復活できないかもしれないから」という理由で置いていくのは、残酷なことなんだ。

 ……でも。

 もしも……また同じような状況になったとしても……僕は、リンゴを連れていかないと思う。

 どれほどリンゴを傷つけても。

 取り返しのつかないことが起きたら後悔じゃ済まない。


「他の人たちはどこに?」

「リーダー! 起きたか!!」


 ラクサさんとゼルズさんがいる。

 ラクサさんは斬り飛ばされた腕も足も問題なくついていた。よかった。服はちぎれていたみたいだけど。

 もちろんゲオルグを始め他の冒険者たちもいる。

 エリーゼとレノさんは僕の隣に寝そべっていた。


「どうだった。俺たち目が覚めたらなにも覚えてなくて……」

「あ……やっぱり覚えてないんですね」

「やっぱり、ということはリーダーも……」


 ラクサさんが言いかけると、ミートンやペパロニは失望したような、それでいてほっとしたような表情を見せる。


「えっと、エリーゼとレノさんと3人で突破しました」

「……え?」


 きょとんとしたラクサさんだったけど、


「うおおおおおおおおすげえええええええええ!」


 代わりにゼルズさんが大声を上げる。


「さすが、と言うべきか、いっしょに行けなくて悔しいと言うべきか……」

「くっそ、レノの野郎がどうして!! くっそあの野郎!」


 あ、やっぱゼルズさんの気になるポイントはそこなんだ。レノさん、ゼルズさんじゃなく自分だけ生き残ってオライエを倒せたことに大喜びしてたもんね。


「ご主人様が突破されることをわたくしはこれっぽっちも疑っていませんでした」


 いや、今泣くほど心配してたよね?


「リーダー、それはそうとタラクトは?」


 僕がタラクトさんだけ海底炭鉱の入口まで転移させられたことを説明していると、


「突破しただと!? どうやったんだ!」

「ノロットさん、詳細を」

「信じてねえけど聞いてやるぜ!」

「ほんとうに女神はいましたの?」


 ゲオルグ、ミートン、ペパロニ、ソイとこちらに寄ってくる。


「ノロット様、プライア様は——」


 セルメンディーナが切羽詰まった表情で聞いてくる。


「お、落ち着いてみんな。エリーゼとレノさんが目覚めたらできる範囲で説明するから。……でも、先に言わなきゃいけないことがある」


 僕はまずセルメンディーナに伝えた。

 転移魔法の不具合は修正され、このエントランスに転移するようになったこと——と話していると、プライアパーティーの残り全員がいきなり転送されてきた。

 もちろんそこにはプライアもいる。

 身ぎれいではあったけど全員が衰弱していたのは食料切れによるものだろう。

 セルメンディーナが驚きのダッシュでそちらに向かい、


 あと、神の試練の内容を話せないことも伝えた。話してしまうと突破が簡単になってしまうから、というのが理由だ。

 実際に話そうとすると、なーんか言葉が出なくなっちゃうんだよね。発音が阻害されるというより、話そうとした言葉が煙のように消えてなにを話していいかわからなくなる。

 心底信頼できる相手なら話せるらしいから、あとで限られたメンバーで話をしてみよう。


 でも、僕の説明を聞いたら露骨にゲオルグなんかは、


「……そういうことか。突破できなかったんだろう? それを、『話せない』というウソで誤魔化した」

「えーっと……今、プライアさんたちが転送されてきましたよね? 転移魔法が修正されたことの証明になるんじゃ」

「偶然かもしれない。大体俺は、毎回ここに転送されている」

「まあ……そうですね。正直、僕も信用されないかなとは思っているのでそこは仕方ありません」

「…………」


 おとなしく引き下がると、ゲオルグはムッとした顔をした。

 反証すると疑い、認めると怒る。どうなってんだ。

 僕としては僕らがほんとうに神の試練を突破できたかどうかを、他人に認めてもらう必要はないと思ってる。

 面倒だし。大々的に宣伝されても。

 でも……この場所は公表されるんだろうな。事実上初めてだね、神の試練の場所が特定されるのは。それだけで大騒ぎか。

 まあ「63番ルート」を踏破するのがまず大変なんだけども。海底神殿には地上への裏道なんてないし。


「セルメンディーナさん。全員、ですよね?」


 僕が声をかけると目に涙を浮かべたセルメンディーナはうなずいた。

 まあ、まだ気を失ったままだけどね。それでもうれしそうだ。

 プライアはこんな状態になっても美しい……とか思っているとリンゴが背後から僕の肩に両手を載せた。怖い。振り返りたくない。

 やがてエリーゼとレノさんが目覚める。プライアパーティーも次々に目を覚ます。

 話を聞いてみると「豊穣の女神に殉ずる」ルートにも時間制限に近いものがあったらしく、声が聞こえて一気に転移させられたみたいだった。


「ともかく——これで、救出作戦は完了ですね」


 僕は締めくくった。


 神の試練に関する情報。

 ヴィリエたち6人の冒険者。

「勇者オライエの石碑」のありか。

 僕の父のこと。


 いろいろな情報がもたらされたけど、とにもかくにも今やるべきは——。


「グレイトフォールに帰りましょう」


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