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トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第6章 神の試練

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113 神の試練 - 女神ヴィリエの海底神殿(1)

「ご主人様。わたくしは反対です」

「……わかってる」

「反対ですからね。大反対ですからね」

「……はい」


 かなりくどくリンゴに反対された。

 そりゃそうだよね……いくら他人の命を救うためとはいえ、自分の命をさらすことになるんだし。

 でも、リンゴが反対するのにはさらにもうひとる理由があったんだ。

 僕がリンゴを「連れていかない」と言ったから。


 だってさ、転移魔法が人間に働くのはわかっているけど、オートマトンも対象かどうかはわからないじゃない? むしろ「対象ではない」と考えるほうが理に適っていると思うんだ。

 僕が転移に失敗する確率はそこまで高くない、はず。まあ、そんな不確実な博打を打ちたくはないってのが本音だけど。とはいえリンゴが転移するかどうか実験する気にはまったくなれない。


「ノロットさん……ほんとうにありがとうございます」


 さっき僕にすがっていたセルメンディーナは、いくらか落ち着いていた。

 感謝されても、正直なところ気分はよくない。

 あんなふうにさ……周囲の目があるところで言われてもさ。


「それで、実際の探索だけど、行くメンバーは――」

「俺たちは行くぞ。大体、セルメンディーナ様にそこまで言わせなくても行くつもりだった」


 食い気味にペパロニが言ってくる。


「『知識』のほうなら行ってもいいかな、ぼくらは」

「わたしは……」


 ミートンは参加希望、ソイは迷っているみたいだ。


「あの、行く前にひとつだけ皆さんに言っておきたいことがあります。僕は、皆さんといっしょに行動するつもりはありません。セルメンディーナさんも連れていきませんから」

「はぁ!?」

「え?」

「…………?」


 硬直するペパロニ、ミートン、ソイ。


「もちろんゲオルグさんとも行きません」

「…………」


 苦々しい顔でゲオルグが僕を見たけど、


「……ふん、好きにしたらいい」


 とだけ言った。

 いやさ、だってさ、こんなふうな状況でみんないっしょにってわけにはいかないよね。

 ミートンはまだしも、ペパロニなんていつ暴走するかわからないし。

 かといってミートンだけいい、と言ったらまた険悪な空気になるし。


 それに、なんだか……ここに来てみんなのテンションが変わってきている気がするんだ。

 やっぱり神の試練を前にして、気持ちが違うんだろう。冒険者にとってはさ、名前は聞いたことはあれ、実際に見たことのない遺跡だ。

 連携も取れ始めていたパーティーだけど、ちょっとでも不審に思ったりすると簡単に関係は崩れる。

 信用できないならいっしょに行動しないほうがいい。


「え、それじゃああたしとノロットがふたりっきり!?」

「エリーゼ嬢、俺たちのことナチュラルに忘れるなよ……」


 タラクトさんが苦笑する。


「タラクトさんたちは無理してついてこなくていいですよ。僕がひとりで行くでも構わないですし……何度も言いますけど、転移魔法が完全だという保証はないです。気持ちとしてはついてきてほしくないかな」


 セルメンディーナの顔が強ばるけど、構うことはない。僕は正直に言った。


「あたしは行くからね! ノロットがひとりってことはないから!」

「うーん、そうだな……それじゃあ行きたいヤツだけ行くか。リーダーについていきたいヤツは挙手」


 タラクトさんが言うと、エリーゼ、タラクトさん、ラクサさん、ゼルズさん、レノさんはみんな手を挙げた。

 リンゴも挙げてるけど……ほんとうにゴメン、リンゴ。


「わかりました。じゃあ僕らは6人で行きましょう」




「女神の知識に挑む」――とヴィリエ古語で書かれている看板の前に立った。

 ヴィリエ古語はヴィリエ語に近いので僕でも大体読むことができた。

 戦闘はないとゲオルグは言っていたけど、もちろん武装解除で行くわけもない。加えて、リンゴから5日ぶんの食料と水をもらっていた。


「ご主人様……」


 泣きそうな顔でリンゴが僕の袖をつかむ。


「わたくしも、やはり連れていってください。ご主人様の身になにかが起きたとしたらわたくしは生きていけません。ご主人様を守って破壊されるほうがマシです」


 リンゴの目に涙が浮かんでくる。

 心がぐらりと揺らぐ。……ダメだ。一時の感情に流されては。


「わかって、リンゴ。僕だってリンゴが破壊されて……戻ってこなかったら……後悔してもしきれないよ」

「……ご主人様、それほどまでにわたくしのことを」


 リンゴが頬を染める。……別に愛の告白とかじゃないよ?


「行こ、ノロット」


 ぐい、と僕とリンゴの間に入ってくるエリーゼ。


 僕は扉の前に立つ。

 そして冒険者認定証をかざす――話によればこのまま光が放たれ、転移されるはずだ。

 金色の扉から光があふれ僕らを包み込む。







 ……あれ?



 ……どこだ、ここ?



 転移、したのか、してないのか。

 僕の周囲は暗闇だった。

 手をまさぐってもなにもつかまない。歩こうとしても足がふわふわする。

 目を開いても閉じても真っ暗だ。


『……我が知識に挑戦する者よ』


 声が聞こえてきた。胸の奥に直接注がれるような温かな声。

 涙で、思わず視界がにじみそうになる。


『“部屋”に長居はしないことです……“部屋”での刻の流れは、通常の10倍……我が教えは…………』


 声が遠ざかる。浮遊感。僕は落ちていく――。




「――ハッ!?」


 落ちてない。立っている。

 足下には床――木の床?


「おお、すっげえな。どうやら転移したみてえだな」


 僕の横で快活に笑っているのはゼルズさんだ。

 周囲には、エリーゼ、タラクトさん、ラクサさん、レノさんもいる。


「ゼルズさんは今の声、聞きました? 最後のほうが聞き取れなくて」

「声? 光ってるときになんかあったか?」

「えーと、光ったあとです。転移してここに来る前」

「?」


 ゼルズさんが「わからない」という顔をする。

 僕の話を聞いていた他のメンバーも「わからない」という顔をしていた。

 僕は、たった今起きたことを話した。

 けれども全員体験していなかった。


「ノロットが聞いた『部屋』ってずばりここのことじゃない?」


 エリーゼが見回す。

 そう。ここは確かに部屋だった――部屋?


 天井は白く塗られていて、ほんのり明るくなっている。天井そのものが光を放っているように感じられる。

 左右には……ずうっと本棚が続いてるんだ。高さは3メートルくらいの。

 僕らは広めの通路にいるような感じで、本棚が壁になっている。通路の幅も3メートルくらいだろうか。

 不思議なのは通路は真っ直ぐじゃないんだ。

 左にカーブしている。結構急なカーブで、先まで見通せない。

 背後は、本棚だ。出口はない。

 部屋と言えば部屋……かな?


 ……うん、イヤな予感がするね。

 プライアが行った中央の扉は、歩いていくと後ろの壁が迫ってきたわけだろ? でもって正体不明の攻撃を受けた。


 ともあれここから、僕らの「知識」への挑戦が始まる――。




 ――と思っていたら、


『残り時間、59分』


 声が響いてきた。


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