112 英雄的行為
プライアたちが真ん中の扉の向こうにいる――そう聞いて真っ先に発言したのは、
「行きます! プライア様を救出しに!!」
セルメンディーナだった。
「俺も行くぜ!」
次にペパロニたち。
そんなペパロニに、複雑そうな視線を向けるソイ。
ため息をついたゲオルグ。
「……お前たち、バカなのか? あの扉には入れない」
「えっ……?」
「俺が認定証をかざしたが反応はなかった。大体入ってどうするつもりだ。聞いたところ、治癒術師でもない限り助けにはならないだろう」
途端に落ち込むセルメンディーナ。
「だ、だけどよ、他に方法はねえじゃねえか! ここで待ってるだけかよ!」
「……ないとは言えない」
ちらりとゲオルグが僕を見た。
僕も――その可能性に思い当たっている。でもそれを僕から言う気にはなれなかった。
「他の2つの扉だ。そのいずれかを踏破することだ。たいていの遺跡は最奥に至ることで他のルートにもアクセスが可能になる」
そのとおり。
遺跡というのは「最奥には秘宝」があり「最奥には出口」がある。そして「最奥には迷宮の仕掛けを自由に操る機能」があるものだ。
もっとも、この神の試練が同じだと言えないけど……。
でもなあ。
神の試練、なんだよなあ。
仮定でしかないんだけど……僕は直感的に思ったことがある。
この神の試練がさ、ほかの遺跡の源流なんじゃないかな、って。
神の試練を体験したずうっと昔の人たちが、それを真似た。でもって、いろんな遺跡ができた。神の試練の場所は忘れられても他の遺跡はどんどんできあがり、残っていく。そうなると後世の人たち――つまり僕らは、「遺跡ってそういうもの」だと思い込む。
だったら、この「女神ヴィリエの海底神殿」は遺跡らしく、「最奥には秘宝があり出口があり迷宮の仕掛けを自由に操る機能がある」んじゃないかと推測できる。
プライアを救うことだってできる……。
仮定に仮定を重ねてるし、しかもこれを口をしたら「じゃあ挑戦しよう」っていう流れになるから言いたくなかったんだよね……ほら、リンゴがすごい目で僕を牽制してる。
「ノロットさん……」
セルメンディーナがすがるような目で僕を見る。
ほら……こうなるのがイヤだったんだ……。
「無理ですよ……。プライアさんたちだって苦戦してるんでしょう?」
「でも、プライア様はまだ戦っています! 苦戦していても進んでいるんですよ! プライア様を見捨てるんですか!?」
命を盾に取られるときつい。
「ノロットさん、あなただけが頼りなんです。転移してもここに戻れるのなら、挑戦する価値はあるのではないですか?」
「転移を完全に信用できないことは、セルメンディーナさんもわかってるでしょ?」
「おかしくなっているのは中央の扉だけです。ゲオルグさんは数度、『覚悟』の扉に挑戦し、必ずここに戻ってきたと――そうですよね?」
「ああ」
ゲオルグが楽しそうな顔をしている。くそっ。
こちとら約束してるんですよ。金色のカエル――元カエルと。伝説級以上の遺跡には挑戦しないって。
自信もないし。転移魔法が不安定すぎるからリスクしかない。
「でも……」
「ノロットさん!」
「あー! 俺たちが行く! セルメンディーナ様、見ててください。俺たちがプライア様を救出しますから!」
言ったのはもちろんペパロニだった。
「臆病風に吹かれた野郎はここにいたらいいんだ」
僕を忌々しげに見る。え、えぇー。僕としては妥当な選択をしてると思ってるけど。
「行くぞお前ら!」
「おおっ!」
ペパロニパーティー9人が「女神に覚悟を示す」の扉へと向かった。まあ、そうだよね。「知識」とかいうタマじゃないしね、彼ら。
またもソイが複雑そうな視線をペパロニに送っている。あれ、もしかして本気でペパロニに惚れちゃったんだろうか。
それに気づかないペパロニ。
扉に冒険者認定証をかざすと、彼ら自身が白く発光して消えた。
「なにあいつら。バカじゃないの?」
「自らの愚かしさを悟ればいいのです」
エリーゼとリンゴが呆れたように言ったけど、たぶん、怒るほどのムカつきも覚えなかったんだろう。
救出作戦を英雄的行為みたいなものと勘違いしてるのかな。
「きゃっ!?」
ソイパーティーのひとりが声を上げた。
振り返ると、ペパロニパーティーの魔法使いが白い光とともに現れた。
続いてローグ、大盾……順に現れ、10秒ほどあいてから最後に大盾とペパロニがいっしょに転移されてきた。
「…………」
もうやられたのか……。めっちゃ気まずい。
「俺はひとりでも、30分はもったがな」
なんの感情もなくゲオルグが言うと、
「もう一回だ!」
ペパロニが鼓舞する。9人は再度チャレンジ。
さっきよりも早くに戻ってくる。
「も、もう一回……!」
「止めようよ、リーダー。無理だよ。痛いのもうやだよ……」
魔法使いが泣き出した。そりゃそうだよね。一応、中では死ぬわけでしょ。痛いよね……。しかも装備がボロボロになってるしね……。
「……ノロットさん!」
「セルメンディーナさん、勘弁してくださいよ……」
結局またこっちに矛先が向いてきた。
それから僕らは帰り道の確保をした。
一度ミートンのところに戻ろうとすると、入口は閉まっていた。どうやら神の試練に挑戦すると扉が閉まるみたいだ。
でも内側からでも、冒険者認定証が3枚あれば開けられることがわかった。
「それで、どうする気だ」
一通り食事も終わって人心地ついたのか、ゲオルグが僕に聞く。
「ゲオルグさんは帰るんですか?」
「……ここの遺跡は、ひとりで挑戦するには分が悪すぎる」
「ですよね」
ゲオルグはたぶん強いんだと思う。でもひとりだと限界がある。
「だがな。お前と組めば踏破はできるかもしれない」
「は? 無理ですよ! 数百体もの騎士――」
僕はちらりとリンゴを見る。「まあ、倒せなくも……」みたいな顔してる。
いやいや、できるわけない。そう言ったらリンゴは「できます」と言い張りそうだけど。
同じように「余裕じゃん?」みたいな顔してる元貴族令嬢もいるけど、無視。
「違う。『覚悟』ではなく『知識』のほうだ」
「『女神の知識に挑む』……の扉ですか?」
「ああ、そちらも一度確認している」
ゲオルグが言うには、そこは戦いなどがある場所ではないらしい。
魔法トラップが多くあるので、それさえ解ければ進めそうということだ。
……僕が魔法に詳しいって思ってるのかな?「魔女の羅針盤」を探してたから? あるいは戦闘力がなさそうなのにダイヤモンドグレードだから?
僕じゃないんだよなあ。
カエルのほうだったんだよなあ……。
「俺とお前が組めば、『知識』の試練を突破できるかもしれない」
ゲオルグが人差し指で自分を指し、それから僕を指した。
この期に及んで上から目線のゲオルグさんすごいです。でも僕は参加したくないです。モラがいれば別だけどさ。
「ノロットさん」
ほら、ゲオルグが変なこと言うからセルメンディーナが本気になってしまった。
「ノロットさん……あなただけが頼りなんです。お願いします……お願いします……もしプライア様を救出できたら、私にできることはなんでもします……この命を捧げろと言われれば捧げますから……」
ぽろぽろと泣きながらすがってくる。やつれた感じの美人がすがってくる。膝を地面について、僕の腰に巻き付くように。
「ちょっと、あたしのノロットに抱きつかないで!」
エリーゼがぷりぷりしながら言い、リンゴはすでにセルメンディーナの首根っこをつかんでいる。
それをペパロニたちが嫌悪感を込めて見ている。そこまでしている相手を冷たく突き放すのか、お前は、という感じで。
いや、いやいや。
なんだこれ。なんで僕らが悪者になってるの。
それから交渉すること数度。
結局、1回だけ挑戦することになりました。




