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夢の後に  作者: 中島 遼
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接触6

「こんな所に逃げ込んだって、袋のネズミなんだよ」

 下卑た笑いと共に細川の声がした。

 そして銃口を彼の眉間につきつける。

「そんなところで通せんぼしたって無駄さ。奥にいるガキは結局は掴まる。お前は悪あがきしただけなんだよ」

 もう抵抗する必要はなかったので、彼は黙ってそのスペースから引きずりだされるままになった。

 通り道が出来たのを見て、深崎が奥へと進む。

「本当は生きたままここでばらばらにしてやりたいところだが、そういう訳には行かないんでな」

 と言うことは、これからスポンサーの尋問があるということだろう。

(……そいつらも、暁と夕貴についての情報を欲しがっているのか)

 村山がそう思った時だった。

「細川さんっ!」

 少し震えを帯びた深崎の声が後ろからする。

「ガキがいませんっ!」

「そんなわけないだろ、良く探せよ」

「探す場所なんてないし、ガキが一人で上に登れるとも思えないし……」

 高津の能力を知られる危険を減らすため、村山はわざと小さく笑った。

「暁なら下に降ろしたよ」

「な、何だとっ!」

「マスターが降臨するこの場所が待ち合わせ場所になるんじゃないかと思って、前から用意していた」

 後頭部に銃の存在を感じたまま、村山は前に歩かされた。

「何のことだ?」

「大分前からあそこにロープを置いておき、こういう事態に備えていたんだ」

「出任せを言うなっ!」

「嘘だと思うなら下に降りてみたらどうだ?」

 死臭がする。

 もうすぐ赤尾の死体の側に着くのだ……

 少し怖くなって立ち止まると、ぐいっと頭を金属で押される。

「さっさと歩けっ」

「いいわよ」

 その距離、三十メートルほどの意外な近さで声がした。

「その辺で止まってくれれば」

 場違いな若い女の声に、一瞬村山は耳を疑う。

「しかし……」

「いいの」

「こ、こいつ、ガキを逃がしやがったんだ」

「え?」

 心底驚いたような声で女は応えた。

「どうやって?」

「ロープをあらかじめ用意していて、それでガキを下に降ろしたらしい」

「まあ……」

 微かな笑いが風に乗って届く。

「素敵だわ、ファンタスティックね」

 深崎の懐中電灯は村山に向けられたが、そのお陰で対角線上にいる女の姿が露わになった。

 ほっそりとした若い女だ。ワンレングスの髪が風になびく。

「いいのか、それで?」

「貴方はともかく、私は平気よ。別にあの子に姿を見られたわけでもないし」

 舌打ちをして、細川が銃を村山の頭に食い込ませた。

「とりあえず、こいつを殺したいんだが、もういいよな?」

「お待ちなさい、ただ殺したらもったいないでしょ?」

「何だと?」

「赤尾と差し違えてもらう死体が必要なのを忘れないでね」

 くつくつと笑う声がした。

 それは細川ではなく、深崎の声だ。

「なるほど、な」

「そういう演出は得意なの。例えば細川さん、ちょっとこっちにいらしてくれる?」

「俺が動くとこいつが逃げる」

「大丈夫。村山先生にはさっきからジャックが照準合わせてるから。」

 女は細川を手招きした。

 彼はその手に吸い込まれるようにそちらへ近づく。

「ね、その位置から赤尾をみてごらんなさい」

「ここから?」

 村山は目を見開く。

「細川っ、駄目だっ!」

 しかし村山が声を出したときには既に銃声が鳴り響いていた。

「詰めが甘い男は嫌いよ。子供はちゃんと拘束しておいてくれないと困るわ。先生を脅すネタがなくなっちゃったじゃない」

 突然、岩のように見えていた赤尾の後ろの黒い陰が動いた。

 立ち上がった大きな黒い男は手に持った銃を突っ伏した赤尾の手に握らせる。

 そしてそのまま静かに立ち上がると、今度は別の銃を倒れ伏した細川の手に一度握らせた後、再び上からそれを地面に落とす。

「これで相打ちは完了」

 茫然と立ちつくした村山の後ろで、深崎が彼を懐中電灯で押した。

「さあ、行こうか」

 しかし村山は動かずに女を見つめる。

「……ここまで計算づくで人を二人も殺した割にはお粗末なエンディングだな」

 女は不思議そうに頭を傾ける。

「どうして?」

「結局目的は何も果たせなかった。誘拐しようとしていた相手はいなくなり、労力だけを消費して……」

 くすりと女は笑った。

「私が欲しいのは貴方なの」

「なに?」

「細川にはそう約束したわ。計画が成功したら、子供は細川に、そして先生、貴方は私たちが好きにするって」

 愕然とした彼の脳裏に、ふとこの場にはそぐわないような名が浮かんで消えた。

「……英莉子、なのか?」

 女は少し彼を見つめた後、むっとしたように肩をすくめる。

「貴方に呼び捨てにされるいわれはないわ」

「残念だが、俺は君の名字を知らない。教えてくれたら言われたとおりの敬称で呼ぼう」

 再び女は小さく笑った。

「わかったわ。私もこれから貴方のことを涼って呼ぶ、それでいい?」

 村山は後ずさりしようとしたが、深崎の懐中電灯に背中があたった。

 その瞬間、彼は肘を後ろに振って深崎の顔面を痛打する。


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