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第6話【勝って兜の緒を締められる】

 今回の関東大会、会場は九段下の日本武道館…だとよかったのだが、実際は綾瀬にある東京武道館の方で行われている。


 矢野に怒られたことを他の1年生はボロクソに文句を言いながら寮に帰った。


「ちきしょー!ハムの野郎、言うだけ言いやがって」


「ホントだよ!いっつもムッとして、勝ってるときくらい笑ってみろやっての!」


 綾瀬から横浜まで距離があると人はここまで気が強くなるのか。特に尾道おみち夛田ただは日頃から剣道でも日常生活でも叩かれているものだから、止まらなくなっている。


 ハムとは矢野公太の公から取ってつけられてたアダ名だ。考えたのは夛田ただで、ガッチリとした体格とやたら防具の紐をきつく締めるところから名付けられた。


 矢野たちが負けていたら今日は帰って稽古になっていただろうし、俺は黙って聞くだけにとどめた。



 翌日、個人戦の準決勝戦で渡会わたらい星辰大学日立せいしんだいがくひたちの中島に敗れた。


 中島はかなりの変剣で、構えからしておかしい。一人だけ地軸から外れているのではないかと思うほど剣先が開き、猫背になっている。


 打突に飛距離こそないものの、これでもかというほど右手を使った打ち方で、その場打ちなれど異常に力強くスピードもあった。


 あの剣道を個性的という言葉で片付けていいのかは疑問が大きいが、とにかく渡会わたらいは中島の正体を掴む前に打たれた。


 中島はそのまま優勝した。


 さて、気を取り直して団体戦。


 トーナメント1回戦は宇都宮うつのみや鶴嶺かくりょう


 先鋒の春田が引き分けたものの飯野に代わって出た笠原が2本勝ち。


 中堅の矢野も2本獲って、副将が引き分けると、大将戦を待たずして準々決勝に駒を進める。


「橘負けてんじゃん!」


 片倉が大きな声を出した。


 南和大橘なんわだいたちばなが副将戦を終えて0-1。相手は荏原えばら学院。


 橘の大将、2年生の柳が荒れに荒れている。


「こりゃキツいんじゃないか」


 荏原えばらの桑原が柳の猛攻に必死に食らいついている。


 しかし、ところどころ当てられていて、危なっかしい。


「1本勝ちで代表戦か…。逃げ切れるか怪しいぞ」


 夛田ただも食い入るように見ている。


 しかし、柳が終盤にガス欠を起こす。手足がバラバラで動きにキレもなくなる。結局1本が遠く、南和大橘なんわだいたちばながベスト16で戦列から離れた。


「神奈川で残っているのってうちだけか?」


 関東予選で光誠学園に準決勝で負けた金沢学院や、県5位と6位も昨日のリーグ予選で負けている。


 確かに県勢で準々決勝戦に臨むのは光誠だけだ。




 ここから光誠はスルスルと勝ち進み、あっさりと優勝してしまった。


「矢野さん強ぇえー…」


 終わってみれば矢野は全試合2本勝ち。特に決勝は圧巻の内容であった。


 思わず口に出して称えた夛田はもちろん、厳格な姿勢不満はあれど、1年生は実力で黙らされてしまった。


「渡会さんと矢野さんはもちろん、金本さんも団体じゃ調子が戻ってたし、インハイ予選も勝ったようなもんでしょ」


 自分が出てもいないのに自信満々勝つ余裕綽々な表情の尾道おみち、早速スマホゲーがやりたくてうずうずしている。やりだしたが最後、矢野にチクってやろう。


 優勝の記念撮影。こんなものは当たり前とまでは言わないが、強豪校らしく過剰に浮かれた様子はなかった。


 監督の徳田が全員を集合させる。長い話の最後はこう締めくくられた。

「今日勝ったことが次の勝利を保証するわけではない。兜の尾を緩めるときはない。帰って稽古だ」

 1年生は全員耳を疑った。2年生はまたかとため息をついた。3年生は粛々と受け止めた。


 徳川の竹刀は今日綾瀬で振るわれた高校剣士の誰よりも強くしなやかで、部員らは選手と応援の隔てなく、1時間たっぷり汗を流させられてた。

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