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第58話【君、強いね】

 最終日個人戦の第1試合、準々決勝戦が始まった。外田くんの相手は坂出高校の菱田くん。2年生だ。あらら、すんごい癖のある構えで、僕らが1年生のときの関東個人チャンピオンの中島さんを思わせる変剣。変な角度から飛距離がゼロだけど、やたら速い打ちをしてきてる。


 この難敵を前にして、彼はあっという間に2本勝ちをしてしまった。相手のフェイントを足捌きと竹刀操作で危なげなく防いで、打つ手がなくなって足が止まったところでしつこくメンを意識させ、強烈な引きドウを叩きこんだ。2本メンは自分の打ちたいときに打ちたい技を決めたようなものだろう。菱田くんだって厄介な選手だったけど、経験の差で圧倒してしまった。




 準決勝戦の相手は同い年の櫛枝くん。確か彼は全中個人準優勝。全中のときは外田くんとは逆側のトーナメントで、直接の対決は僕の知る限りない。

 一方、僕はというと、公式戦はともかく、遠征で何度か剣を交えている。対戦成績は僕の勝ち越しで、印象としても苦手意識は皆無。なんとかタイミングを見て手を伸ばしたら、当たってくれるイメージ。


 その僕にとって相性のいい相手に、外田くんは打つ手なしでかなりてこずっていた。4分間で全くと言って良いほど当たる気配がない。別に櫛枝くんが決定的な技を放っていたわけでも、攻めが強かったわけでもないが、ひたすら長く構えてられていることで、外田くんが勝手に苦しんでいた。

 相性ってあるんだな。全然届いていないや。


 こりゃ長丁場になるな、と思っていたら延長が始まってすぐにそのときは訪れた。何度かコテを見せて、竹刀を開かせたところで強烈なツキメン。打ったままの勢いで突っ込んで、体当たりからの引きメンでフェイント、そこで櫛枝くんの手元を上げて引きドウが鮮やかに決まった。

 この技、僕だったら喰らわないだろう。だってツキメンの後の体当たりでひっくり返るか、そうでなくても盛大によろけるから、引き技が当たらないくらい吹っ飛ばされるもん。威張って言うことじゃないね。




 それにしても、ここまで人のことを応援したのはいつ以来だろう。手が真っ赤になるくらい拍手をして、爪が食い込むくらい握りこんでいる。

 決勝戦を目前にして今、彼は柴田くんと何かを話している。柴田くんは1年の冬からレギュラーになってたっけ。長いこと外田くんの隣にいたんだよね。君の代わりに僕が光誠学園の施主だったら、団体戦も最終日までも勝ち残れたんじゃないのかな。

 確か中学は関東の出身だったはず。何回外田くんと公式戦で当たったの?僕は彼の隣にはいたことないけど、向かい合ったことはたくさんある。


 嫉妬だか何だかわからない感情で、彼らを眺めていた。正直、外田くん以外の光誠学園の選手のことを少し侮っていたかもしれない。

 ただ、二人の様子を見て考えを改めた。当然ここからじゃ何を話しているのかは聞き取れない。それでも真剣に会話をしている姿は、他のものを寄せ付けない雰囲気がある。決勝戦直前の確認なのだろう、シャドー剣道をやっている。二人の真剣さがひしひしと伝わってくる。恐らくこの姿は剣道未経験者の人が見たとして、奇妙に映ることがあっても滑稽に映ることはないだろう。それは二人だけの世界だった。

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