第56話【雌雄を決す】
試合も終わりに近づきつつある。お互いに間合いは詰まってきて、打つタイミングもまとまってきている。俺が横から大回りで放り込んだコテは少し腕の方に外れた。内海の飛び込みメンも浅い。だが、徐々に決着の臭いが濃くなっているのは確かだ。
ここまで体感で延長10分といったところか。こいつはメンで俺を仕留めようとしている。内海のしばしば挟んでくるコテがうるさく感じる程度には厄介だが、やはり最後はガツンとメンでねじ伏せる気なのは分かった。
内海が単純な試合の組み立てでも勝ってきたのは、そのメンが相手の技をカチ割って叩き潰す破壊力があるから。ふと思ったのは、このシンプルな強さに一場だったらどういうテクニックで対抗するのだろうか。
内海が必殺の一撃を放つ機会、その一瞬を作り出そうと俺の間合いを侵してくる。俺がそれを嫌って間合いを前に出て潰すというやり取りが2度続いた。
そろそろか…。
再度間合いを詰めてくる内海に対して、俺は剣先を上から被せながら下がる。それを払ってくる内海の竹刀の裏から
「ツイタ、ツケェッ」
片手ツキ。外れた。無防備になった俺に対して、内海は攻めを強めて間合いに入ってくる。その圧を引き込みながら「来い、来い」と心で呟く。
「ンメダァアアア!!」
来た!右に体を捌いて、メンを寸でのところで避ける。そして
「ドォォァアアアアア!!!!」
ガラ空きになった内海のどてっ腹に竹刀を叩きこんだ。乾いた音と手応えは快心のそれだ。内海が前に出る勢いと、俺の体捌きの勢いとを利用して、一気に薙ぎ払う。
ドッと凝縮されたものが破裂するような歓声が沸く。内海に集中していた神経が現実に引き戻された。
決まった…!
開始線に戻る。主審が焦眉ありの声とともに旗を降ろす。それは舞台の幕引きのようだ。
内海と向かい合って蹲踞、納め刀をして立ち上がり3歩下がって礼。ありがとう。心からお前に感謝と敬意を示したい。今日まで全身全霊で磨き上げた俺の剣道で、お前の剣道とぶつかり合えたこと、本当にありがとう。
そして、決勝戦だから会場に向かって礼もする。光誠学園のみんなにはこれまで支えてくれたこと、そして観客の人々には俺たちの剣道に拍手を送ってくれたことに心からの感謝を伝えたい。
そうか。礼に始まり礼に終わるってこういうことなのか。こんな、素晴らしい気持ちなのか。




