第二話 ウルトの北国生活体験談
僕がここ、旧帝国領のスカンジナ地方の〘オスロ〙村にやって来て、2年の月日が流れました。
父が男爵に叙せられ、ヒーロー男爵領を拝領したからです。
ここは、僕の生まれ育った土地から、遥か北にあり、馬車で一ヶ月も旅をして、たどり着きました。
周囲を山に囲まれた盆地のため、夏冬の寒暖の差が大きく、夏の最高気温は20度に対し、冬の最低気温は、マイナス30度にもなります。
マイナス20度以下にもなると、息を吸う度に、鼻の中で鼻毛が氷つき、鼻の中が引っ張られるのです。息を吐くと融け、呼吸の度にこれを繰り返すんです。
積雪量は、2メートルを超え、場所によっては3メートルにもなり、家々の屋根より高く積もるため、大半の家々は、一階の床を高床にしていますが、時には、二階から出入りしたりすることもあります。
屋根は、積雪で潰されないよう急勾配に造られ、中央から傾斜の向きが別れる、シンプルな切妻屋根がほとんどです。
屋根の頭頂部には、煉瓦の煙突が一本。そんな家々が見られる北国です。
そんな北国の家は、煉瓦造の暖炉があり、薪で暖を取ります。暖炉の上は、炊事場のコンロとしても活躍します。
窓は寒さ対策のため、小さな窓になっています。室内の温度を逃がさないよう、開口部をできるだけ小さくしているのです。
玄関は二重の扉が取付けられ、内側に開けます。雪に覆われた外側には、開けることができまないからです。
僕達がやって来た季節は春、前年の秋に戦争が終って、すぐに叙爵され、十分な準備も整わないままの、慌ただしい赴任でした。
ここは領都でもなく、領主館の建物はありません。僕達の住む家は空き家に分散し、さっそく畑の開墾を行い、ライ麦のほか、小麦や大根などの野菜も植えました。
村の近く川が流れていて、その川から水を引き開墾地を広げました。
主要作物はライ麦と聞いていたので、前の土地と同じであり、他の農作物も同じようなのかなと、思っていたら大違いでした。
持ってきた野菜の種の半分は育たないのです。それがわかっただけの一年目でした。
秋には、育たなかった作物もあって、がっかりしたのですが、周囲の森では、数種類の《キノコ》の収穫ができ、僕達の食卓を賑わしてくれました。
このうち、落葉キノコは、カラ松の林に生えるのですが、見分けが簡単で僕でも間違えることがないので、たくさん収穫できました。
この落葉の鍋料理や味噌汁は、少しヌメリがありますが、ダシが出て最高に美味しいです。
森では、山ぶどうやクルミ、松の実などの木の実も採れました。
これらを採取しながら、冬籠りの準備のための薪集めを行なったのです。
僕達が一番苦慮したことは、寒さを凌ぐ衣服でした。土地の人々は皆、毛皮のオーバーを着ていますが、その毛皮を手に入れるための、そんなに魔物や獣が多くないオスロ村の周辺での狩りは、困難を極めました。
なかなか獲物が見つからない上に、例えば、熊を見つけたとして、獰猛な熊を倒すのは、容易ではありません。
槍を何本も突き立てて、やっと倒すのですが、それまでに何人も大怪我を負うことも少なくありません。
そんな苦労をして、手に入れた毛皮のオーバーは数が揃わず、家の中では何枚も重ね着をし、外へ出る時だけ着回すのがやっとでした。
そんな僕達に朗報が届いたのは、二年目の秋でした。
《杜のくまさん鉄道》がここ、オスロ村まで開通したのです。
おかげで、王都からは冬用の衣服が、王国各地からは食料や生活用品が、安価で手に入るようになり、僕達の生活は飛躍的に向上しました。
そして僕は、翌春に《ハーベスト農業学校》への留学が決まりました。
帝国の大軍を破って王国を救い、僕達の村にまで鉄道を通して、王国の発展を牽引する地に、僕は赴くのです。
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