第五話 レイネの想いと母の想い
コウジさんに、山のおうちに誘われて、ここを引き払うと聞いたときは、ただ、孤児院に住むのだとばかり思いました。
そのあと、どこに住むか相談したいと言われ、なんのことかさっぱりわかりませんでしたが、そのあとに続いた言葉に私は、気絶しそうになりました。
〘長いこと待たせたね。俺を好きなら、結婚してください。〙
ああ、ずっと信じて、ずっと待ってた❳〘言葉〙です。涙が自然に溢れてきて、でも幸せを噛みしめていました。
〘それで、どこに住もうか?〙と言ったのは、コウジさんの照れ隠しだとわかっていました。けれど、もう少し、この感激に浸っていたかったので、叱っちゃいました。
なにか、かかあ天下みたいで、恥ずかしかったのですが、私の人生で最高に幸せな瞬間を、すぐ終わらせるなんて、許せませんでした。
父と母に伝えたときには、めったになく緊張しているコウジさんを見て、ああ、私とのことを真剣に考えてくれているのだと、嬉しく思いました。
父も母も、ようやく結婚かとばかりに、婚約者が結婚するのは当然だとか、早く孫の顔が見たいわとか、全然感動してくれているようには見えませんでした。
でも、部屋へ帰ると、侍女たちが感激してくれて、お嬢様が若奥様に代わるのねとか、お生まれになるお子様の乳母は、私にお任せくださいとか、ウエディングドレスをすぐにも作らせなければとか、まるでお祭り騒ぎのようになりました。
コウジ殿がこの地に現れてから、5年の月日が経つ。
レイネの窮地を救ってくれただけでなく、元凶の公爵を葬り去ると、孤児院を助け、見る間に立派な建物に変え、パン工房や畑を作り上げ、地震災害を率先して、救助や復興を行い、そして、帝国軍をこのハーベスト領民だけの力で退け、王国に鉄道と紙幣など数えきれない恩恵をもたらし、儂さえ、男爵から子爵、子爵から伯爵に押し上げられてしまった。
実態は、コウジ殿がハーベスト領の政策を担っている。儂はただ、彼の政策を実行しているだけだ。
そして今日、頼れる跡継ぎが現実になった。
儂は嬉しくて舞い上がってしまっていたのだろう、婚約者が結婚するのは当然だなどと、我ながら、見当外れなことを言ってしもうた。
だが、娘の幸せそうな顔を儂は生涯忘れないだろう。
娘のレイネが念願叶って、コウジさんと結婚することが決まりました。相思相愛、これに勝る幸せはないでしょう。
あの娘は領主の一人娘のために、領民の模範として、幼い頃から我儘を言えず、我慢を強いられて来ました。
いずれこのハーベスト領の領主になる運命でした。
私はそんな哀れな娘に、いつか素適な婿となる男性が現れてくれることを、ひたすら願っていました。
その願いは叶いました。娘の窮地を救ってくれた彼に、娘は心を奪われ、その時から想い続けていた恋が実りました。
母親としてこの上ない幸せを噛みしめています。
これから先、孫ができ、成長してゆくのを見られる楽しみを与えてくださった、神様に深く感謝致します。




