閑話六 襲撃の夜
その日僕はいつもどおり、就寝時間に寝たのですが、夜中におしっこがしたくて、目が覚めました。
すると突然、コウジ兄ちゃんの声がしました。
『 敵襲だぁ、皆、地下室に避難しろっ。』
僕は急いで、寝室の皆を起こすと、「コウジ兄ちゃんが地下室へ行けって。」
そう声を叫ぶと、隣の女の子達の部屋に飛び込みました。
そこでは、シスター·メリーサさんがいて、皆を起こして、避難させるところでした。
僕達は、急いで地下室へ避難しました。
〘 孤児院では、大震災後に定期的に、避難訓練を行っている。地震ばかりでなく、火事や強盗に備えてだ。
そして、避難場所を地下に作った。出入口は四方に設け、覗き窓の付いた頑丈な扉で護られている。
水や食糧を2ヶ月分保存しており、武器もボウガンと槍を用意した。〙
「全員揃ったかしら? 各班点呼をお願い。」 シスター·メリーサが呼びかける。
「ウサギ組いまちゅ。」「ネズミ組も皆でちゅ。」「リス組ぜんいんっ。」「野良猫チーム揃ってます。」「銀狐チームOKです。」
「羊さんチームも揃ってますよ。」「ドラゴンチームも全員集合した。」
ちなみに点呼は、幼ない組から順番だ。
各組の名称に、組が付くのが年少組で、チームという名称は年長組だ。
「全員いますね。コウジさんから指示があるまで、ここを出てはいけません。
皆、静かに耳を澄まして、外の様子を伺ってください。」
【 年少組リルの証言 】
僕はネズミ組のリルです。4才になりました。
《てきしゅう》なんて初めてです。
たぶん、地面がゆれてないから、なんか恐しい魔物がきたんだと思うんです。
僕達は、地下室のソファに押しくらまんじゅうのようにひっつき合って座りました。
あったかなので、だんだん眠くなってきました。
もう、寝てる子もいます。でも僕は、今があぶないときだと思うので、寝てはいけないと思うんです。
どれくらいたったのでしょうか。裏口を見張ってたジミー兄ちゃんが、ささやきやきました。「誰か来る。リビングの方から。」
【 年少組シーナの証言 】
私の名はシーナ、ラナお姉ちゃんの妹です。
まだ下にクーナという妹がいますが、3才になったばかりです。
〘 敵 襲 〙その言葉を聞いて、帝国軍に追われたときのことを、想い出してしまいました。
あの時のことは、今でも夢でうなされ、身体が震えます。
私達を守るために、コウジお兄ちゃんが一人で戦っています。
コウジお兄ちゃんが、強いのはわかっているけど、たった一人だもの、不安で心配なのです。
誰か助けを呼ばなくていいの? 私だって戦えるよ。
ここには、練習したボーガンだってあるし、皆だっているもの。
そんなことをずっと思っていました。
しばらくして、ジミー兄ちゃんのささやいた言葉[誰か来る。]に、皆、息をのんで固まっています。
し~ん と息詰まる空気の中、急に『ぐぁ』という声がして、また静かになりました。
それから、コウジお兄ちゃんの声がして
「皆、敵はやっつけたよ。もう大丈夫だから、部屋に戻って寝よう。」
そう、優しく言われました。そのあと、部屋へ戻ったけど、興奮してドキドキして、なかなか眠れなかったんです。
【 シスター·メリーサの証言 】
私はメリーサ、〘聖ナターシャ孤児院〙と呼ばれている孤児院へ、シスターとして来ました。
ここで、驚いたことは数々ありますが、一番驚きは、子供達が自立して生活をしているということです。
年長組は、まるで大人のように、毎日パン工房で働き、この孤児院の経営を支えています。
誰一人、それを嫌がらないばかりか、皆、率先して仕事をしています。もちろん、食事の支度や後片付け、掃除や年少組の幼い子の世話まで、手を抜くことはありません。
年少組は、それを見て育つせいか、早くから自分のことは自分でしようとしています。
この子達は、立派な人間として、この孤児院から巣立って行くことでしょう。
あの夜、私は子供達が寝静まった後、編み物をしていました。私も子供達に触発されて、自分の時間の中で、子供のために何かしたいと考え、編み物を彼らに贈りたいと思ったからです。
突然、コウジさんの「敵襲だぁ、皆、地下室に避難しろっ。」という声が聞こえました。
この孤児院では、毎月、地震や火事、強盗などに備えて、避難する練習をしています。
それぞれ、役割と手順が決められており、私は、年長組の女の子達を誘導する役目です。
もし、年少組の女の子を誘導する役目のナターシャ様がいない時は、年長組は、年長組の女の子のリーダーである、ラナさんに引き継ぎ、私が年少組を誘導します。
コウジさんの声を聞いた私は、すぐさま二階の年長組の女の子達の部屋へ駆け込んで、皆を起し、地下室へ避難させました。
敵襲とは? 今まで聞いたこともありません。でも、皆の命の危険が迫っていることにかわりありません。
地下室では、皆でひと塊になって息をひそめました。私達大人と年長組の皆は、ボウガンを手にしてます。最後は自分達で戦うためです。その為の訓練もしていました。
私は、この子供達を守るためなら、命を賭ける覚悟です。




