第八話 ハーベスト農業学校 その一
この国の基幹産業は、やはり農業である。
主要穀物はライ麦で、粉に挽いてパンを焼いて食べるのであるが、小麦で作るよりも、焼き上がりが硬くて《カリカリ》している。
ハーベスト領では、孤児院の畑で、小麦や各種野菜を育てたのが領地内に広まり、高い農業生産地域になりつつある。
その日俺は、アレク国王の生誕祭に招かれ、レイネとともに王城へ来ていた。
国王に、二人で挨拶をしに伺ったのだが。
「おおっ、よくぞ来てくれた。そちらの美しいお嬢さんがそちの婚約者であるな。」
「陛下、お誕生日おめでとうございます。一緒に参りましたのは、子爵家の一人娘のレイネでございます。」
「陛下、初めてお目にかかります。ハーベスト子爵が娘、レイネと申します。」
「うむ、噂は聞いておる。聡明で慈悲深いとな。
ところで、儂からコウジ卿に頼みたいことがある。
それというのはな。貴族の次期当主達にハーベスト領を直に見せて、いろいろと学ばせたいと考えたのじゃ。」
「見せるのは一向に構いませんが、その方達に学ぶ気があるのか、それが問題です。
貴族の地位を振りかざすだけなら、領民達の仕事のじゃまになるだけです。」
「なるほどの。なにか良い知恵はないかの。」
「おそれながら申し上げます。ハーベスト領に学びに来るのならば、それ相当の覚悟をお持ちいただくべきかと。
たとえば、次期当主の座から降りていただくとか。」
「レイネ、それは過激すぎるだろ。来たくて来る者ばかりではないのだから。」
「良かろう。ハーベスト領で学び、それがレイネ嬢のおめがねに適わなかった者は、次期当主とは認めぬ。ただし、この覚悟を持つ希望者のみの参加と致す。どうじゃ?」
思わず《ポカン!》としてしまった。判定者は俺じゃなくて、レイネなんだ。
その日夕刻には、国王誕生祭の夜会が、王城の大広間で開かれた。
「これは護国卿、先日は魚貝の加工のご指導をいただきありがとうございました。
おかげで、魚の味噌漬けなど、注文殺到で加工場はフル稼働です。」
そう話し掛けてきたのは、サマール男爵だ。ハーベスト領の隣にあり、海に面している。
「いやはや、羨ましいですな。我が領地には海がありませんからな、魚は希少品です。
ですが、最近はサマール領などから、干し魚などが安価で入り、領民も喜んでおりますよ。」
続いて話しに加わってきたのは、かつて王国最北端〔旧帝国領がさらに北にある。〕のホーレーン辺境伯だ。
《杜のくまさん鉄道》が、魚の鮮度が落ちないうちに、遠方への輸送を可能にした。
「ところで、そちらのお嬢さんを紹介していただけないですかな?」
「辺境伯、彼女はハーベスト子爵家のレイネさんです。」
「初めてお目にかかります、レイネと申します。」
「おおっ、やはり噂のお嬢さんでしたか。誠に噂どうりの美人さんですな。」
美人の噂はともかく、噂になっているのか?いったいどんな噂なんだろう?
「はははっ、コウジ卿、怪訝そうな顔をしておりますな。
今をときめくコウジ卿には、娘を嫁がせたいと思う者が大勢おりますが、コウジ卿の傍らには、いつも聡明で美しいハーベスト子爵のご令嬢が寄りそっており、他の入る余地はない。そう、噂されております。」
「そうですね、レイネ嬢の噂は私も聞いておりました。お二人が結婚されるまでは、静観でしょうが、その後は間違いなく、熾烈な側室争いが始まりますね。」
はあ、なんだそりゃ! 隣で、レイネは顔を真っ赤にして悶えてるし、俺の知らないうちにどんどん外堀が埋められていく。




