第ハ話 子爵代行
ハーベスト領のインフラ整備を始めてから、毎日、ハーベスト邸に通い、子爵の執務室で、子爵と並んで、次々と上がってくる、インフラ整備関係の書類の決裁を行っている。
もちろん決裁権は、子爵の専有事項だが、大方針や重要事項以外の詳細については、俺にしか判断できないので、そうなった。
おかげで、舘の皆には、『代行』と呼ばれている。
別に、呼び名など、どうでもいいので放置していたら、いつの間にか、子爵が正式な役職にしたらしい。
地震から、一年程が経ち、ほとんどの公共施設も完成した頃、俺は、子爵に話し掛けた。
「そろそろ俺の役目も終わったようです。これから後のことは、子爵がなさってください。困ったことがあれば、その時には、お手伝い致します。」
「そうか、今日まで、本当にご苦労であった。明日からは、少しゆっくりとするといい。だが、コウジ殿は、この私の代行であるから、私の身に何かあったときは、あとを頼みますぞ。」
へっ、なんで、そうなるの? 跡取りは、レイネでしょう? おかしくね?
「それは、どういうことでしょうか?」
おそるおそる尋ねると、
「なあに、となりの部屋に行けばわかるさ。」
そう言って、それ以上なにも言わず、俺を送り出した。
執務室の奥は、子爵の居住区である。
俺が、今日で仕事を終えると、聞いたのであろう。
「コウジさん、お仕事、ご苦労様でした。」
「コウジ様、今日まで本当にありがとうございました。」
そう言葉を掛けられ、レイネと子爵夫人であるシモーネに迎えられた。
「あのぅ、子爵から、万一のときは、あとを頼みますとか、言われたのですが、それは、レイネさんのお役目ですよね?」
「ええ、本来は、そうと思います。でも、コウジ様がこれだけのことをなさいましたから、いまさら、レイネにあとのことを全て、というのも、酷なことかと思います。
ですので、このあとも、領主代行として、レイネの補佐をお願しますね。
それと、おいおいで良いのですが、レイネを貰っていただけないでしょうか?」
はあ? レイネを貰う? 結婚てこと?
どうして、そうなる?
「あのぅ、もちろん領地の開発や整備についてお手伝いをするのは、やぶさかではありませんが。 そのことと、レイネさんを貰うとかは、別のことでは?」
「コウジさん、私のことは、お嫌いですか? 私は、そのぅ、コウジさんが好きですっ。」
顔を真っ赤にして、そう言うレイネを見て、ため息しか出なかった。
「俺もレイネのことは、嫌いじゃないですが、レイネも俺も、結婚とかは、まだ早すぎると思います。これからもっと仲良くなれば、そうなることもあるかと、、、。」
そう答えるのが、精いっぱいだった。
「はいっ、がんばりますっ。」
いや、そうのは、がんばることじゃないのだが。
ともかく、俺は、レイネと『付き合う』ということになった。
はあ、まわりの皆に、なんて説明しよう。俺は、深いため息を吐きながら、孤児院へ帰って行った。
ちなみに、このことを、ナターシャさんに、ため息混じりに、打ち明けたところ、
「今さらですか。皆、とっくにそう思ってましたよ。はあっ、もう。 レイネさんを呼び捨てにする時点で、そういう関係だと思うでしょっ。」
えっ、そうなの? そんなこととは、つゆ知らず、いろんなことに夢中になり過ぎてたと、深く、ため息を吐く俺だった。




