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10 恋慕ッ!  僕を……信じろッ!!

 杖に魔源を込めて、雷撃を叩き込む。



 ドウゥゥゥン!!

「ぐぇっ」

 と唸り声を上げて、

 ゴーレムは動かなくなった。



 だが相手の数は一向に減る気配がない。

 残りの数は十六……、

 万全なら一気に始末できる数なのに、

 体が思うように動いてくれない。



 敦を追っていった一体が気がかりだが、

 今は目の前の敵を倒さなくては。



 恋慕は素早く移動し、小さな攻撃を繰り返して相手を牽制する。



 恐れを知らないゴーレムも無駄に数を減らすような真似はしないため、これでも気休め程度にはなる。


 細かい攻撃の中で、隙を突いて

 大きな一撃を叩き込むしかない。



 あとは持久力の勝負か。



「オォォォゥ!!」

 一体が大声を上げて飛び掛かってきた。

「サンダーッ!」

 数億ボルトの光の柱が相手を貫く。

 だがその結果を見る間もなく、

 次の一手がこちらに跳躍してくる。

「――スパークッ!」

 これはさばけないと判断して静電気の弾幕を張り、後退する。



 一度退き様をみせると、相手は圧しどころと踏んで次々と飛び込んできた。

 それも四方から、まとめて潰されるようなマネはしないように。




 だが恋慕もこのくらいの修羅場は何度も潜ってきた。なめてもらっては困る。



 今の位置から隔離空間に空間転移する。

 転移する前と同じグラウンド……ただし、凶暴なゴーレムではなく、高校生達が部活に勤しむ、そんな平和な学校の校庭が目の前に現れる。



 戦闘を行う際に被害が拡大しないよう造られた、コピー空間だ。


 その中を、


 素早く跳躍して、


 すぐさま通常空間に戻る。



 すると敵は目標を見失いながらも、勢いを殺しきれずに一カ所に固まっていた。



「喰らいなさい……ッ」

 その場所に向かって雷撃を投じる。



「ギィィィッ!!」

 一撃で十体前後を叩きのめした。

 全滅……やったか。



「……、

 はぁ……はぁ……」

 安心した途端に息が上がった。

 度重なる攻撃に連続空間転移。

 ずいぶん魔源を消費した。



 膝をついて呼吸を整える。

 頭がぼぅっとしてきた。

 血の気が足りないようだ。



「貴様ほどの捜査官が、無様だな」

 上空から聞き覚えのある声。

 ラブラか。

 さてはあの女、

 こちらが消耗するまで待っていたな。

「ノーガードのパフォーマンスよ。

 わかるでしょ?

 そのくらいのハンデが無いと、

 相手がかわいそうだわ」



 引きつり笑顔では格好がつかないが、素直に体力の無さを訴えるというのは恋慕の性に合わなかった。



「減らず口は相変わらずだな。

 安心したぞ」

 ラブラはパチンと指を鳴らして唱えた。

「ダークネス」

「ッ!」

 恋慕の目の前を黒い霧が覆う。

 視力を奪われた……術式解除を、



 くそ、魔源が足らないっ!



 ずるずる。

 周辺で土が盛り上がる音がする。

 新たなゴーレムが生まれているのだ。

 恋慕は立ち上がり、身構える。

 大丈夫だ、落ち着け、

 こういうことはよくあった。

 時間を稼いで魔源の回復を待って、

 視力を取り戻すんだ。



「やはり貴様、あの下層人の治療で

 消耗しきっているようだな」

 ラブラの声がする。

「そうよ。それがどうしたのよ」

「哀れだ。お荷物さえなければ到底こんな状況にならなかっただろうに」



 人の人生を背負うとはそういうことだ。

 勝手に哀れむな。

 私は自分の命の恩人に全てを投じた、

 たったそれだけなんだ。



「勝ったと思ってるの? 笑わせるわ。

 悲鳴をあげる時は可愛い声でお願いね」

「毎度の事ながら

 意気の良さだけは感心する。

 やれ、ゴーレム!」

 くるか……! こうなればがむしゃらに全方位でやるしかない!

 恋慕はステッキを振りかざし、

 魔術を組んだ。



「スパークッ!」



 発射……

 ダメだ、敵の気配が消えない――っ。



 諦めかけたその時、



「うおぉぉぉぉぉぉッ!!」

 ゴーレムとは異質の雄叫びが轟いた。


 間違いない、敦の声だ。



 彼は鈍器か何かで

 次々とゴーレムに攻撃していく。

 まさか助けに戻ってきたとでも言うのか?



「無駄だ、下層人ッ!

 貴様じゃゴーレムを潰せないッ!」

「やってみなくちゃ!

 わっかんないでしょうがあぁぁ!!」



 ラブラの言うとおりだ、例えこの不意打ちでゴーレムを打ち倒しても、すぐに再生されてしまう。内部のコアに一定以上の負荷をかけなくては、奴らは止まらないのだ。



「やめておにいちゃん! 逃げてッ!」



 恋慕は叫んだ。

 やられるのが関の山だ。

「ぐぅ!」

 敦の呻き声。

 見ろ、やはり力押しで負けてしまった。

 助けたくても、目が見えない、

 ……敦に当ててしまうかもしれないっ!


 恋慕はここで初めてパニックになった。




「恋慕ッ! 電撃だッ!

 僕に向かって全力でぶち込めッ!」


 そこで敦が叫ぶ。



 おそらく、敵の注意を引き、纏まったところでアパルがバリアを張り防御しきるつもりなのだろう。だが万全ではないとは言え、恋慕の全出力はその上をいく。



 バリアは弾け飛ぶかもしれない。



 だが、目の見えない状況から中途半端な一撃では敵を倒しきれない。



 どうしたらいいの――っ!?



「恋慕ッ!

 僕を……信じろッ!!」



 その言葉で恋慕はふっきれた。

 敦を……おにいちゃんを信じる。



 ままよ、最大出力……ッ!!



「ギガァ……、

 サンダァーーーーーーーーーッ!!」



 プラズマで膨張した空気が弾け、

 音速の衝撃が周囲を揺るがす。

 放った恋慕自身が、

 反動で軽く吹き飛ばされてしまった。




 …………。





 爆音によって耳まで機能を一時停止してしまい、状況がわからない。


 敦はどうなった?


「……、目をやられたね。

 今治すよ」

 アパルの声と共に、

 恋慕の瞳に光が戻る。

 正面にまるで畑の(うね)のような

 巨大な溝ができていた。

 その数十メートル先に、

 黒こげになった土の山が三つほどある。

 未だにあがる黒煙が

 衝撃のすさまじさを物語っていた。




 それらに囲まれた一人の少年が、

 ゆっくりと体を起こす。



 敦だ。無事だったのか。



「おにいちゃん……ッ!」

 恋慕が呼びかけると、



 彼はゆっくり振り返り、


 そして、









「び……びっくりしたおぉぉ……」






 と、今にも泣き出しそうな顔で言った。

「びっくりしたのはこっちよっ!」

 恋慕は敦に駆け寄った。

「ばかっ!

 どうして戻ってきたのよっ!」

「だ、だって、ひっく……

 一応おにいちゃんだし……

 ひっく、逃げるのやだし……」

「なんかあったらどうする気だったの!?」

「ど、怒鳴るなよぉぉ……、

 めちゃくちゃ怖かったよぉぉ」


「……ッ! そうだ、ラブラ!?」


 安心している場合ではない。

 まだ頭取のラブラが残っているはずだ。


「ラブラはもう逃げたよ」

 アパルが言った。

「ホントは捕まえなくちゃいけないけど。

 ……今はその方が助かる」



「あ、……ああ、よかったぁ……」



 敦がへなへなと腰を落とす。

「驚くべき事にこの情けなさでおにいちゃんと言い張るつもりらしいよ。

 君も男ならシャンとしなよ」

「う、うへへ。

 全力具合が予想以上だったもんで……。

 ごめんよ、締まらなくて」



「ううん。

 おにいちゃん、かっこよかった」



 恋慕は敦の背中を包むように、

 彼の胸に抱きついた。

 身体が小刻みに震えていて、

 心臓は未だ臆病に高鳴っているけど、



 ……でも。



『恋慕、僕を信じろ』



 そう言われた時の心強さ、頼もしさ。

 きっと、この人はすごい人なんだ、

 ――――、あ。

 恋慕の身体はふわりと脱力し、

 そのまま意識が途絶えてしまった。


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