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子竜の進む異世界成り上がり  作者: 夜桜
三章 アクウェリウム防衛戦
32/55

襲撃

久方ぶりの更新です。お楽しみに!

「ふぁ〜あ……眠……」


俺は大空を飛びながら思わず呟いた。

本日の天気は雲一つ無い快晴であり、高速飛行を行うことで生じる風が程良い体感温度を醸し出している。


「そろそろアクウェリウムに着く頃かな……」


俺がグランビエルに戻ってから今日で大体1ヶ月経つ。

あの後ゲイル達と数日掛けてグランビエルまで帰り、そこで1ヶ月程のんびりしていた。のんびりしていたと言っても、その間ひっきりなしに礼をしにやって来る冒険者やグランビエルの住人達の対応に追われ、あまり休めたとは言えないが……。勿論グランビエルの冒険者ギルドの資料室にも入ってみたが、やはり俺の求める情報は見つからなかった。

とまあ、いろんな事があったが3日前の朝、遂にグランビエルを発ち、その間一切休まずに高速飛行を続けて今に至る。


「やっぱり混沌竜(カオスドラゴン)の時より遥かに速度が増してるな……」


当初、アクウェリウムからグランビエルに行くまでに掛かった時間は一週間。通常は何ヶ月も掛かるらしいが、俺の場合一時間で数十キロは進めるためそのような短時間で到達が可能であった。

しかし今の速度はその比では無く、一時間に進める距離が大体倍に増えた。その為アクウェリウムにはあと数時間のうちに到着出来ることだろう。


「俺がアクウェリウムを発ってから大体2ヶ月か……改めて考えるととんでもない移動速度だな……まぁいい、この速度はスキルによる恩恵だとでも言っておけば良いだろう」


そんな事を考えながら飛ぶこと数時間、超感覚で上げてあった俺の五感が何やら違和感を感知した。


「なんだこれは……」


風に乗って聞こえる何者かの怒声。硝煙の匂い。そしてそこに僅かに混じる血の匂い。


「まさか……」


脳裏に過ぎった最悪の可能性に、無意味と分かりつつも首を振り、それを振り払おうとした。だがそれでも心に掛かる不安を払拭し切れずにいた。


俺は嵐魔法を魔力纏換で纏い、飛行速度を何倍にも上げ、更に空力と縮地をフル活用してアクウェリウムへの道を急ぐ。


「頼む、無事でいてくれ……ギルドの資料室‼︎‼︎」


あそこにはまだ見てない資料が沢山あるんだ!


***


「前衛固めて敵の攻撃を防げ!後衛は前衛の後方から大火力の魔法によって相手の殲滅!負傷者は直ぐに衛生班の元へ行き傷を癒せ!それにより空いた穴には誰かがフォローに入り、隊列を崩さないようにして戦え!」


防衛都市アクウェリウムは今、戦火により燃え上がっていた。

どうしてこのような事になっているかと言うと、時は数日前に遡る。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜〜〜〜


「ふぅ、これで今日の書類は終わりか……」


防衛都市アクウェリウムの冒険者ギルドの執務室にて一人のエルフが伸びを行った。このギルドの最高責任者であるエステル・フォレスティーアである。

彼女は本日の仕事を終え、さて休もうかと執務室を出た。


(今頃ガドウ君は何処にいるのだろうか……)


ギルド常設の大浴場にて、エステルは先日見送った一人の冒険者を思っていた。


ギルドマスターやギルドマスターに認められた者はギルドに住み込む事が可能であるため、エステルはそのルールに甘んじてここで基本的な生活を行っている。

朝や夜は仕事帰り、あるいはこれから仕事に行く冒険者達が景気付けに騒いでいたりするが、今は夜とは言ってもかなり遅くであり、この大きな浴場には現在エステル一人しかいない。


「おや?また彼の事を考えていたのですか?」


「ひゃあ⁉︎」


エステルが一人心地良く湯船に浸かっていると、唐突に隣から誰かに声を掛けられた。思わず悲鳴を上げてしまったエステルだが、その声が長年親しんで来た友の物だと気付き、不機嫌顔で声を掛けて来た人物を振り向く。


「気配を消して近付いて来ないで貰えるかなキュレア……」


エステルは声を掛けて来たキュレアに責めるような視線を送るが、キュレアはクスクス笑いながらその視線を何でもないように受け流す。


「だってエステルがあまりにも無防備にしていましたから、つい」


「つい、じゃないよ。本当にビックリしたんだからね」


キュレアは悪戯成功♪とばかりにピースをしてエステルに見せ付ける。その際豊満な胸がぷるんと揺れるのを見て、エステルは悔しそうに自身の胸に手を当てる。そしてそれに目聡く反応したキュレアが自身の胸を押し上げ、見せびらかすようにエステルの顔の前にやった。


「はぁ、胸が大きいと肩が凝りますわ……あら?どうしたのですかエステルさん?」


ブチッ


何かが切れたような音と共にキュレアの頭にエステルの強烈なアイアンクローが決まった。


「キュ・レ・ア〜!」


「痛い痛い!ちょ、ごめんなさい!ごめんなさいって、あぁ!痛い痛い!」


ミシミシと音を立てるキュレアの頭。

キュレアは涙目になりながらどうにかアイアンクローを外そうと試みるが、がっちりと決まったアイアンクローは中々外せない。


「まったく、君と言う奴は……本当に人をからかうのが好きな奴だな」


「うう……だってエステルは反応が面白いんですもん……って、あぁ!もうやめてください!」


暫く耐えていると、溜め息を吐きながらエステルからアイアンクローを外し、それに内心ホッと息を吐くキュレア。エステルはそんなキュレアに困った奴だと思いつつも、何百年と言う長い年月経っても変わらない友情に嬉しくも思い、ククッと苦笑しながら未だに頭を抑えているキュレアを見る。

キュレアもその視線に気付いたのか、お互い見詰め合いながら、どちらからともなく笑い出す。


「ははっ、いつ以来だろうねこんなに笑ったのは」


「そうですね……私も久しぶりです」


二人の女性は今までの事を振り返りながらお湯の心地良さを存分に堪能していた。その直後の出来事だ。


ズドーーーン‼︎‼︎


何か巨大な音が辺りに響き渡った。


「な、何事だ!?」


エステルは思わず立ち上がる。その際バスタオルも何も付けていなかったのでその美しい裸体を惜し気もなく晒す事になったが、ここにいるのは同性のキュレアだけであり、別段気にする事も無い。


「地震……?いや、違う……あれは何かが破壊された音でした」


同じようにキュレアも立ち上がり、取り敢えず着替えようと出口に向かって進む。


「た、大変ですギルドマスター!」


そこに遅くまで残業をしていたのか、少し髪が乱れた受付嬢のリリアが飛び込んで来た。


「リリアか。何があったんだい?」


リリアの表情から何かが起こっているのは明確だ。エステルはなるべくリリアに精神的不安を覚えさせないように注意し、努めて冷静に問い掛ける。


「は、はい!魔物の襲撃です!隔絶の森の方面から無数の魔物達がこちら目掛けて進行して来ています!」


リリアはエステルの気遣いで少しは落ち着いたようであったが、それでも尚焦った様子で今起こっている事をこの街の最高責任者であるエステルに伝えた。


「なんだと?」


リリアの話を聞きながらも着替えを行っていたエステルは、思わずその動きを一瞬止め、瞳に信じられ無いと言った感情を込めて聞き返す。


「事実なんです!先程の轟音はその魔物達の一体がこの街の防壁目掛けて攻撃を放った音です!」


「見張りは何をやっていたんです?そんな近くまで魔物の接近に気付け無いとは思えませんが……」


エステル同様に着替えを行っていたキュレアが、リリアに向かって問い掛けると、リリアは瞳に涙を浮かべながら首を横に振り、絶望的な言葉を述べた。


「見張りは先程の攻撃で大半が負傷したようです。報告に来てくれた人達の証言によると、襲撃して来ている魔物は最低でも特Aランク。中にはSSランクや特SSランクの魔物までもいたそうです!さらに見張りの中で遠見のスキルを持った者が言うには、城壁を破壊したのは人の形をした何かだったそうです!その人型の何かは城壁から数キロも離れた地点から攻撃を仕掛けて来たとのことです!こんな異常な事が可能な存在で人型と言う事は恐らくは……」


リリアはそこまで言って言葉を濁す。ギルドに報告して来たと言う人物の話を総合するとどう考えても結論はそれ(・・)に至るが、それは一受付嬢如きが推測で口にして良い言葉では無い。


「魔人族……魔王の手先か……」


なので代わりにエステルがその名を告げた。そう、魔人族、と……。


「とにかく今は戦力を整えろ!魔物達の現在地から攻撃出来るのは魔人族だけだ!その魔人族にしても遠距離から攻撃ならば多少は威力が落ちる筈だ!」


数十分後、エステル達の姿はギルドのカウンターがある場所に在り、騒ぎに気付いてギルドに集まって来た冒険者やこの街に駐在する騎士達に大声で指示を出した。そして自身も戦いの準備へと入るため、かつて冒険者をやっていた時代に幾度と無く助けられた自身の装備を整える。


「今から1時間後、戦力を整えて再びギルドに集まってくれ!報告によれば魔物達はまだ数キロ地点だ!幸いにも奴等の移動速度はそこまで速くない!戦うにしても奴等との接敵にまだ半日以上の猶予がある!その間に市民の避難と作成の立案を行う!気を付けるべきはあの距離からも唯一攻撃が可能な魔人族だけだ!」


魔人族と言う言葉に動揺示す冒険者や騎士達であったが、そこにキュレアの凛とした声が響いた。


「静まれ!我等人類は長年魔王達と対立して来ました!戦いを専門とする仕事に就いた時点で何時でも魔王達と争う覚悟はある筈です!いいですか!敵の魔人は正確な数は確認出来てはいませんが、恐らく少ないと考えられます!それならば皆様が力を合わせれば必ず退けられます!魔物如きに決して屈しないでください!」


キュレアの鼓舞に大声を上げて気合を入れる冒険者達。そこには先程までの動揺の影は見られず、寧ろやる気に満ちていた。

勿論これで魔人族への恐怖が完全に薄れたわけでは無いだろう。しかし、今逃げてもどうせいつかは戦わなければならないのならば、今ここで奴等を倒してやる!と言う気持ちの方が恐怖心を大きく上回った。


「よし、ならば解散!なんとか時間を稼いで、応援を待つぞ!」


「「「「応っ!!」」」」


冒険者や騎士達は我先にとギルドの外へ出て行き、自身の最も信頼する装備を取りに向かう。


「魔王達め……何千年も大人しくしていたのになんで今頃になって動き出した……」


「エステル、今はそんな事考えている暇はありません。今回は私も出ますから貴女も今は戦いの事を考えていてください」


集まっていた者達が皆去り、残るは彼等をサポートする為の受付嬢のみとなったギルドの執務室にて、エステルとキュレアは自身の相棒たる装備を手に、着実に戦いに備える。そんな時に呟かれたエステルの言葉をキュレアが諌める。


「相手は魔人族です。皆の手前ああ言いましたが、実際の戦闘になると魔人族の相手を出来るのは私達を含めた極一部しかいません。それも魔人族の数が正確に把握出来ていない現状では安心出来ません。ダメ、圧倒的に手が足りない……」


「ああ、そうだね。でもやるしか無いんだよキュレア……。

私達がしっかりしていないと下の者に示しが付かない。キュレアの言う通り今は余計な事は考えないようにするよ」


エステルとキュレアはお互いコクリと頷き、続々と集まって来る装備を整えた戦闘員達と作戦の確認、及び戦闘時のチーム分けを行い、攻めて来る魔物達を食い止めるべく動き出した。


(この街は絶対に守ってみせる!)


エステルは確固たる覚悟と共に、戦場へと降り立った。

今までのガドウの移動速度や時間を変更しました!まぁあまり物語に影響しませんので気にしなくても大丈夫です

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