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子竜の進む異世界成り上がり  作者: 夜桜
三章 アクウェリウム防衛戦
33/55

アクウェリウム防衛戦役 其の1

遅くなりました!

「ケケケッ、愚かな人間共が群れているなぁ」


「虫ケラが幾ら群れても無意味だと言うのに……ホッグではありませんがどうして人間とはこうも愚かなのでしょうね」


「まぁそう言わないのフロス。それが奴等の唯一の長所なんだから許してあげましょう?」


「お前達、無駄話はその程度にしておけ」


アクウェリウムより離れる事数キロ。そこに四人の人影が存在していた。

一人は30代後半程で血の気の多そうな大柄の男。

一人は20代半ば程の軽薄そうな細身の男。

一人は20代初め程で、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んだ美しい女。

そして最後の一人は30代初め程の男で、細身の体に反してギュッ引き締まった筋肉と獲物を狙う狩人の如き鋭さをした眼光を持っている。明らかに他の三人と違う雰囲気を放つこの男は、緊張感の欠片も無い他の三人に僅かに呆れていた。


「ケケッ、いいじゃねぇかアルプ。今回は戦いじゃなくて蹂躙だろ?勝つと分かっている戦いに緊張感を持ててって言うのは無理な話だ」


そんなアルプに、ホッグと呼ばれた男が笑いながら話しかける。見たところホッグ以外の二人も同じ気持ちのようだ。


「どんな戦でも万全を期すのは当然の事だ。お前達の気の持ち様がそのままヴェヘムート殿への忠誠となる事を理解しろ」


「ちっ、わーったよ。ヴェヘムート様の為と言われちゃ仕方ねぇ」


「そうですね。僕達はヴェヘムート様に仕える者として完璧なる結果をお届けせねばなりませんし。貴女もそう思いませんか?メロ」


「愚問ね。私達は常に最上の結果をヴェヘムート様にお届けするわ。アルプ、今回は貴方も手伝ってくれるんでしょう?期待しているわ」


「ああ。我が主よりヴェヘムート殿の力となれと仰せつかっている。少なくとも主より新た命を下されるまではお前達の力となろう」


メロと呼ばれた女の言葉にアルプは鷹揚に頷いた。


そう、彼等はアルプ以外魔王ヴェヘムートの配下の魔人であった。三人に下された命令は適当に高ランクの魔物を連れて防衛都市アクウェリウムを攻め落とせと言う内容だった。そこに別の者から命を受けたアルプが加わったと言うわけだ。

ヴェヘムートが他の何者かと協力態勢にあると言うのは彼等も知っていたので、アルプの登場には特に驚く事は無かった……いや、正確にはアルプの戦闘能力の高さには驚く事となったと言えるだろう。何を隠そう、この距離からアクウェリウムに攻撃を放ったのはアルプなのだから。


彼等はアクウェリウムを目指して背後に数多の凶悪な魔物を連れながら進軍を続けた。


***


闇に覆われた空を穿つかの如く聳える一つの城。

城と言うには余りにも不気味過ぎるこの場所は魔王ヴェヘムートが住まう居城である。


「我が主よ、御命令通り我が部下の中でも上位の実力を持つ3名を人間が住まう街へと送り出しました。部下達は現在、隔絶の森に生息する高ランクの魔物を引き連れて街へと進軍しております」


その場所の最も奥、魔王ヴェヘムート以外の立ち入りを許されていないこの場所で一人の美丈夫が一見何も無いように見える虚空目掛けて跪いていた。

彼の名は魔王ヴェヘムート。ヴェヘムート以外の立ち入りが許されていないのでここにいるのは必然的にヴェヘムート本人となる。こんな光景を見たらヴェヘムートの配下の者達は驚きで目を見開く事だろう。何せ主にして魔王たるヴェヘムートが何者かに跪いているのだから。


”ヴェヘムートよ、我が主に貸し与えたアルプはどうなっておる”


ヴェヘムートが跪いている先にから厳かな声が響く。


「はっ、アルプ殿は問題無く我が部下達と合流を果たしました。現在は部下達と共に人間の住む街に向けて進軍しております」


”そうか、ならば良い。ヴェヘムートよ、指示は以前伝えたものからの変更は無い”


何も無い空間から発せられる声にヴェヘムートが答えると、その声の主は満足気に頷きながら話す。……まぁ姿は見えないので本当に頷いたかどうかは不明だが。


”では行け。何かあったらまたこちから貴様を呼ぶ。ヴェヘムートよ、貴様の働きには期待をしているぞ”


「はっ!」


ヴェヘムートが答えると、その声の主の気配は徐々に薄くなって行き、やがてこの場所にいるのは魔王ヴェヘムートただ一人となった。

ヴェヘムートは主の気配が完全に無くなったのを確認すると、ゆっくりと立ち上がった。


「ククッ、遂に私が魔王共を出し抜く時が来たか……。我が主よ、心から感謝を致します」


ヴェヘムートは不敵に笑いながら一人呟く。


「もう直ぐ私の時代がやって来る……」


魔王ヴェヘムートの計画は順調に進んでいた。


***


「エステル、現在アクウェリウムにいるCランク以上の冒険者が全員揃いました。今の所指揮は十分に高いようです」


「……そうか、報告ご苦労だったねキュレア」


私はキュレアの報告を聞きなが自身の身を包む衣装に視線を落とす。

深緑を表すような深い緑色のローブを身に纏い、とある迷宮の奥で見つけた薄緑色の光沢を放つ細剣を腰に差し、かつて大接戦の末に倒した高ランクの魔物の皮から作り出したズボンに空中を駆ける能力を持った魔法靴を装備し、頭部には厄介な状態異常を防ぐ効果がある黄金のサークレットを付けたこの姿は、かつて【深緑】のアナザーネームを冠した、特Sランク冒険者エステル・フォレスティーアの姿である。


「この姿も久しぶりだね……キュレアもそう思わないかい?」


「その通りですエステル。大体100年振りくらいでしょうかね」


苦笑しながらそう言うのは膝下まである白亜の衣に身を包み、その下に衣と同じ白亜のシャツを着込んだキュレアであり、その手にはとある神木から作り出した杖を携えており、履いているズボンも真っ白だ。唯一靴だけは私と同じ物であるが、その全てが私同様魔法武具であり、その効果も測り知れない。この姿の彼女こそ私と組んでいた特Sランク冒険者【白亜の聖母】キュレア・フェアリアスだ。

蛇足だが【白亜の聖母】とか言う大層なアナザーネームが付けられてはいるものの、キュレアの性格はお世辞にも聖母とは言えないような性格である。……まぁ、私も人の事は言え無いがな。


「集まった冒険者の割合はCランクが900人、Bランク500人、Aランクが100人、そして特Aランクの方々が1パーティの5人の計3人が冒険者として参戦する方々です」


「1505人か……少ないな」


キュレアの説明に私は苦虫を噛み潰した表情になる。と言うのも本来このアクウェリウムにいる冒険者は、防衛都市と言う事もありそれなりの実力を持つ冒険者達が3000人程度はいるはずなのだ。だが今回の襲撃の時にその半数以上が依頼に出てしまっている。勿論Dランク以下の冒険者達を含めれば多分5000人近くはいるだろうが、今回襲撃して来た者達は魔人であり、それに率いられている魔物は最低でも特Aランク。はっきり言ってしまえばDランク以下の冒険者達は邪魔でしかないのだ。なので彼等には今回、街の住人達の避難誘導に回って貰っている。

この他にはアクウェリウムに駐在する駐在兵達が1000人程いる。

アクウェリウムは防衛都市と言う人類領域の最前線の一つなので駐在する兵士達も自然と皆練度が高くなる。実力で言うとCランク〜Bランク程だろう。そのため今回は彼等にも戦って貰う。それでも兵力はたったの2500人ちょっと。正直な話、絶望的な少なさだ。


「キュレア、作戦としては今回は籠城戦を考えているのだけど、どうかな?」


「そうですね、確かにこの戦力では籠城戦以外に選択肢はありません。もう既に首都の方へ救援依頼の伝令は飛ばしてありますので、それまでどうにか持ち堪えれば勝ち目はあると思います」


どうやらキュレアも同意見のようだ。なら一先ず作戦はこれでいいだろう。私は安堵の溜息を飲み込み、それにより生じる危険に頭を回す。


「問題は首都からの救援が駆け付けるまでどの程度の時間が掛かるか、だね。今回の相手は知性の低い魔物の群れでは無く、人間並の知性を持つ魔人と奴等に率いられた高位の魔物達だ。恐らく籠城戦を取ったとしても奴等の浸入を許してしまうだろう。それをどうやって撃退するかと言うのも問題だ」


幸いな事に食料には十分な余裕がある。なので食料難による弊害は心配しなくとも大丈夫だろう。だけど魔人の一体でも街への浸入を許してしまえば食料の有無など関係無しに大きな被害が出てしまう。一応戦闘に参加するのはそれなりの経験を積んだ中堅以上の冒険者達やそんな彼等に匹敵する兵士達なのだが、それでも精々足止め程度にしかならないだろう。魔人相手にまともに戦えるのは恐らく私とキュレアと特Aランクの一パーティだけ。それでもギリギリかもしれない。


「状況は絶望的……と言うわけでは無いけど、それに近いレベルで厄介な事に変わり無いね。キュレア、私達は指示を出しながらの戦闘を強いられるだろうけど腕は鈍っていないよね?」


「当然でしょ?エステル、貴女の方こそ大丈夫ですか?」


私とキュレアはお互いに笑い合いながら拳を合わせた。……正直命懸けの戦闘なんて久しぶりだけど私はこの街のギルドマスターなのだ。怖じ気付いてなんていられない。


「……行こう」


ギルドマスターとしてこの街を守ると言う使命を果たすため、私は真剣な表情で集まった冒険者達の元へ向かう。後ろにはキュレアが付いてきている気配を感じる。私は微かな安心感に包まれながら冒険者達の前に立った。


「聞け!もう話は聞いているだろうが、現在魔人と魔人に率いられた魔物達がここアクウェリウムに向けて進軍して来ている!恐らくいずれかの魔王の手先だろう!だが恐れるな!我々防衛都市の者は魔王達から人類を守る最初の砦だ!奴等を滅ぼし人類に安寧を齎すのだ!」


「「「「「うおおおおおお!!」」」」」


私の演説を聞いた冒険者達と駐在兵達は、各々の武器を頭上に掲げ気合の篭った大声を上げた。

大声で恐怖を振り払っているか、それとも本当に勝つ気でいるのか……私としては後者の方が望ましいし、事実私の気持ちも後者だ。


「では作戦を説明しますーー」


そんな彼等の様子を見ていたキュレアが、私の後ろから現れ、今回の作戦の説明を開始した。

冒険者も駐在兵も自身の生死、延いては人類の命運を分ける事になる作戦を真剣な面持ちで聞いている。


(やるしかない!人類を舐めるなよ魔王!)


私は心の中で自身を鼓舞し、見えないが間違い無く迫って来ている魔人達に悪態を吐く。


***


エステルは必死に戦った。数も質も劣る状況で魔人達に何日も戦い続け一歩も引けを取らなかったのだ。立派だと言えよう。


ーーだが


「ギルドマスター!城壁が破られた!魔物共が雪崩れ込んで来る!」


城壁の上で戦っていたAランク冒険者パーティの一つがそう言いながら今回の作戦拠点として作製したテントに駆け込んで来た。彼等の名前は【赤影の獣】。以前酔っ払ってガドウに絡んだゲルダー達のパーティだ。


「遂に、か……守りに特化した駐在兵達を前面に出して敵を抑えながら撤退しろ!その後建物などを上手く使い、浸入して来た魔物の遊撃に専念しろ!魔人達は私が抑える!」


「り、了解!」


【赤影の獣】は弾かれるようにして元来た道を戻り、エステルが出した指示を今も戦っている冒険者や駐在兵達に伝えに行った。


「いよいよ私達も終わりかもしれないね、キュレア」


「あら、私は生き残る気満々ですけど?ふふっ、エステルは諦めるんですか?」


エステルの呟きに相変わらずの皮肉を返すキュレア。だがそれを聞いたエステルは愉快そうに笑った。


「相変わらずだねキュレア。……うん、少し弱気になってたね。行こうか」


「ええ」


そう言ってエステルとキュレアは各々の獲物を持ち、強大な魔力を隠す事無く放っている方向を睨み付け走り出した。


***


そこは凄惨の一言だった。地に倒れ伏す冒険者や魔物達。全て特Aランク以上の魔物達で腹を割かれ臓物を垂れ流しながら白目を向いて死んでいるもの、頭部を潰され脳漿を撒き散らしながら死んでいるものと様々だが、それは魔物達だけで無く冒険者達も同様である。

ピクピクと僅かに指が動いている事から死んではいない事は分かるが、明らかに戦闘の続行が不可能な様子の冒険者。その横でAランクの凄腕冒険者として名を馳せた冒険者が手足をあり得ない方向へ曲げて倒れ伏している。少し離れた所では今まさに魔物の凶刃によって倒れた冒険者もいる。


「酷いな……」


「…………」


そんな凄惨な戦場に駆け付けたエステルは思わず苦虫を噛み潰したような表情で呟いた。声こそ無いがキュレアも隣同じような表情をしている。


「ケケケッ、やれやれ!殺しちまえ!」


「はしたないですよホッグ。下等生物が死ぬ姿など見苦しい事この上無いではありませんか」


「あら、そう言うフロスこそ随分楽しそうじゃないの」


それを少し離れた位置に建つ建物を上から愉快そうに見下ろす異形の影が四つ。今回の主犯である魔人達、ホッグ、フロス、メロ、アルプである。


「む、どうやら中々強者が来たようだな」


そのうちの一体にして、四人の中で最も強者たるアルプが近付いて来たエステルとキュレアに気付き、警戒の声を上げた。


「あん?強者だぁ?どうせそこら辺で伸びている奴等に毛が生えた程度だろ?」


「いや、あの者達からは真の強者の気配がする。油断はしない方が良いぞ」


それに対しホッグがダルそうに答えるがアルプの警戒混じりの声音で紡がれた言葉に真剣な表情になる。


「寧ろ好都合じゃないですか。アルプが強者と断ずる存在……つまりはこの街の最高戦力でしょう?なら奴等を殺してしまえば最早この街は落ちたも同然」


「そうね、フロスの言う通りだわ。と言う事で誰が行く?」


それに対し、フロスは寧ろ好都合だと断じた。そしてそれに同意するメロの質問にアルプを除く三人は互い顔を見合わせる。それは”お前が行け”と言う、誰でも勝てるだろうと言う完全に見下した態度の表れであった。


「いや、ここはお前達三人で掛かる事を勧める。奴等は本当に強い。今まで倒して来た者達を比較にしてはならない」


そんな三人にアルプの言葉が冷や水の如く浴びせられる。


「ちょっとアルプ、それは私達では一人で相手をするのは無理だと言っているのかしら?確かに私達は貴方に比べれば弱いかも知れないけど、それでも人間二人程度には負けないわよ?」


僅かに怒気を孕んだメロの声がアルプに浴びせられる。言葉は無いが他の二人も同様の気持ちのようで、黙ってヴェヘムートを睨み付けている。

だがアルプそれを何でもないようにいなして真剣な声音で言葉を告げる。


「別にそうは言ってはおらん。だがやるなら確実に、だ。お前達は自身の欲求を満たすのが最優先なのか?

以前にも言ったがお前達の気の持ちようがそのままヴェヘムート殿への忠誠となるのだ。

目的遂行。その為に99%の確率を100%にするのがお前達やワタシのような部下の務めであろう」


アルプの言葉に三人は言葉を失くし黙り込んだ。だがやがて決意をしたのか黙ったままコクリと頷き顔を上げた。


「……分かった。私達三人で行って来る事にするわ」


「決めるとしたら勿論俺達の欲望よりヴェヘムート様の命令の完璧な遂行だよな」


「確かに僕達単体でも勝てるでしょうが……うん、三人で掛かれば時間も悪戯に消費しませんし確率も上がりますね。分かりました今回はアルプ、貴方の言葉を尊重します」


そう言い残して三人はアルプを残し立っていた屋根からエステルの元へと飛び降りた。


「よう、愚かな人間共」


「申し訳無くも無いですが、死んでください」


「あんたらの相手は私達が務めるわ。ふふっ、少しは足掻いてちょうだいね?」


エステル達の前に降り立った三人は瞳に侮蔑と殺意を宿して彼女達を見据える。


「……どうやら歓迎されているようだぞキュレア」


「ですね……奴さんもやる気みたいです」


エステルは至近距離から浴びせられる魔人と言う存在の圧力に思わず冷や汗を流す。キュレアはそんな相棒の頼り無い背中を叩き、耳元で囁く。


「いいですか、エステル。私達がこの街の最終防衛線です。ここで奴等を倒せればこの戦争は私達の勝ちで、逆に倒されたら私達の敗北です。結果は常に勝つか負けるかの二つに一つです。理解してますか?」


「ああ……すまないねキュレア。元魔法使い兼盗賊の悪い癖だ。つい相手を必要以上に恐れてしまう」


それもまた生きる知恵です、と苦笑しながら言うキュレアにエステルも余裕を取り戻し、その代わりにとキッと魔人達を睨み付ける。


「私はこの街の冒険者ギルドのギルドマスター、エステル・フォレスティーア。ギルドマスターとして、貴様等魔人にこの街を落とさせ無い。覚悟して貰おう」


「どうも魔人の皆さん。私の名はキュレア・フェアリアス。エステルの仲間です。さて、私の気持ちとしてもエステルと同じようにこの街を貴方方の好きにさせるつもりはありませんので貴方方は倒させていただきます。どうか悪しからずに」


そう言って二人は各々の武器を構えた。


「ケケッ、雑魚が幾ら集まっても雑魚には変わんねぇんだよ」


「僕の計算では貴女方の勝率は無に等しいですよ」


「お互い無駄口はここまでにしてそろそろ殺し合いましょうか」


向こうもはっきりとした戦闘態勢を取り、お互いにお互いの隙を探る。この瞬間、防衛都市アクウェリウム最大戦力、【深緑】のエステルと【白亜の聖母】キュレア対魔人達の戦闘が始まった。

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