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子竜の進む異世界成り上がり  作者: 夜桜
二章 進出、人類領域
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エビル・グランツェ

「ふぁ〜あ……朝か……」


翌朝目覚めた俺はぼーっとする頭を無理矢理働かせ、今の状況を思い出す。


「あー……確か昨日、無限廻廊を出たら夜だったから寝たんだったけな……」


そこまで思い出した事でふと俺の頭に違和感が過る。


「あ?俺昨日こんなの使ったっけ?」


今俺の手には清潔そうな厚手の布が握られている。目覚めた時に掛けてあったので無意識に掴んでしまったが、昨日寝る前にこんな物を使った憶えは無い。


「あれ?起きたの?」


そこまで考えが至ったところで背後から唐突に声が掛けられた。


「ーーっ⁉︎」


咄嗟に飛び起きて距離を取りつつ、それでもきちんと回収したマジックポーチから竜神刀を取り出し声の主の方へと視線を向ける。


「アハハハッ、そう警戒しないでよ。別に取って食おうとか思ってるわけじゃないから」


声の主は14〜15歳の中性的な見た目をした少年で、乱雑に肩まで伸ばされた黒髪が逆に少年の雰囲気を怪しく際立たせてている。

見た感じではただの人間の子供だ。しかし少年は人間では無いと確信を持って言える。何故なら少年の瞳は血のように赤く、背中からは闇よりも深い漆黒の翼が生えているからだ。

赤い瞳は悪魔族の特徴であり、何よりも普通の人間に翼なんて生えている筈が無い。


「……気配を消して人の背後に回る奴を警戒しないわけ無いだろう……」


俺は目の前の少年から一切目を離さないようにして、かつ少年がどんな行動を取っても即座に対応出来るようにと超思考を発動させながらそう言い跳ねる。


この少年は少なくとも俺の全把握を潜り抜けるだけの隠密力があるのだ、警戒を怠る訳にはいかない。気を抜いた瞬間、見失ってそのまま背後からグサリと言う事になりかね無いからだ。


「うーん……それもそうだね。じゃあ先ず自己紹介しようか」


そんな俺の葛藤など知る由も無い少年はとても楽しそうな表情でそう言った。


「僕の名前はエビル・グランツェ。よろしくね♪」


「なっーー⁉︎」


その名に俺は言葉を失った。


エビル・グランツェ。この前アクウェリウムの冒険者ギルドの資料室で魔王の情報を調べた時に知ったその名前。


「最強の魔王……」


俺は無意識に呟いていた。その声は非常か細く、数十メートルの距離を取っているエビル・グランツェには聞こえる筈の無い声量だったが、エビル・グランツェはそんな小さな声をも聞き取り、俺の呟きにニコリと笑った。


「知っててくれたんだ。嬉しいな、アハハハッ」


冗談じゃない。何でそんな奴ががこんな所にいるんだ。魔王は魔族領にいるんじゃなかったのか。


俺は背中に冷たい汗が流れるのを感じた。


「君の考えてる事は分かるよ。何で僕がこんな所にいるんだと思ってるんでしょ?」


そんな俺の思考を見透かしているかのようにエビル・グランツェはピタリと言い当てる。


「御名答……正解だ」



俺はそう言うのが限界だった。


エビル・グランツェは未だに気配を消している状態だ。しかし俺の魔物としての本能はこいつは危険過ぎると警笛を上げている。間違いなくトウテツなんかとは比べ物にならないほど強いだろう。


「それで?最強の魔王たるあんたが俺なんかかに何の用だ?」


今取るべき最善の行動は用件を聞いて出来るだけ早く帰って貰う事だ。間違っても戦闘になんか入ってはならない。


「ああ、ごめんごめん。忘れてたよ」


エビル・グランツェは全く悪びれる様子も無くそう告げる。

俺はそんなエビル・グランツェの様子に多少イラっと来たが、大人しくエビル・グランツェの言葉に耳を傾ける。


「実は君が倒したトウテツは僕のペットだったんだよ」


「なんだと?」


事も投げにそう言い放つエビル・グランツェに俺は思わず聞き返してしまったが、考えてみればこいつなら確かに可能かもしれないと思わされる。何せエビル・グランツェは悪魔族最強種のキングデーモンが更に進化を重ねて魔王へと至った存在だ。幾らトウテツが俺達からしたら脅威であるとは言え、悪魔族最強種たるキングデーモンからすれば”中級種程度の悪魔族”でしかないのだろう。しかもそれがエビル・グランツェであるなら尚更だ。


「もしかして、俺があんたのペットを殺したから、その報復か?」


それなら俺に勝ち目は無い。全力で逃げる事に集中しても逃げ切れる可能性は限りなく低い。

そう言う意味ではこの質問の返答次第で俺の運命が決まると言えるだろう。

だがエビル・グランツェから帰って来た答えは予想外の物だった。


「アハハハッ、違うよ。別にあんな小動物が一匹殺された程度じゃ僕は報復何て考え無いよ」


エビル・グランツェの答えに内心ホッと息を吐き、じゃあ一体なんだろうか?と考えながら言葉の続きを待つ。


「僕はただ脱走したペットを連れ帰りに来ただけだったんだけど……そこで僕のペットと戦う君の姿を見掛けたからね。これは面白そうだ!って見てたんだ」


そうだったのか……トウテツとの戦いに集中していたから全く分からなかった……いや、こいつの隠密力を考えると例えトウテツと戦っていなかったとしても気付けたかは微妙だな。


「本当は君がトウテツを倒したところで登場する予定だったんだけど、君そのまま進化の為の眠りに入っちゃうんだもん。知ってる?君、あの後3日は目を覚まさなかったんだよ」


何だと?今までの進化は丸1日眠るだけで良かった筈なんだが……いや、この強化具合を考えるとその時間が妥当なのかも知れないな……。


「なるほど……なら何で昨日の内に声掛けなかったんだ?」


取り敢えず話の続きを聞くためにそう促した。


「いやー僕も君が目を覚ましたら話掛けようと思っていたんだけど、タイミング悪く僕が寝ていた時に君が起きたらしくて、気付いた時には君はもうここの外にいたんだ」


気配を消したまま寝ちゃってたんで君も気付か無くてさーと笑いながら言いけるエビル・グランツェに毒気を抜かれそうになるが、よく考えるとこの話にも彼我の力量の差が窺い知れる場所がある。


「まさか、そんな近くに接近されても気付けなかったとはな……」


エビル・グランツェ曰く自分が寝てたのは俺から数百メートル程度しか離れていない場所だったらしい。

そう、俺なら注意しなくても普通に視認出来る距離だ。そんな近くまで接近されていたにも関わらず俺は抜け抜けと眠っていたのだ。


エビル・グランツェが俺の暗殺を考えていたら間違いなく殺されていた。いや、真正面から戦ったとしても勝てる気はしないが……。


「アハハハッ、それは仕方無いよ。僕は気配消したままで寝ちゃってたからね。

自慢じゃないけど、気配を消したままの僕に気付く事が出来る存在は早々いないよ」


聞くだけならただの自信過剰な発言でしかないこの言葉だが、エビル・グランツェの存在に気付けなかったのは事実だし、それ以上にこいつの言葉には全くの嘘が含まれていない。こいつが本当に気配を全力で消したなら気付ける奴は少ないだろう。それこそキリンみたいな神獣クラスの存在でなければまず、気付く前に殺される。


(いや、あるいは魔王達なら気配を消したこいつを見付ける事が出来るのかもな……)


今更ながら俺が成そうとしている事への遠い道程を思い知らされ、思わず唇が震えた。


「で、本題なんだけど……」


エビル・グランツェがそう言った事で俺は思考の海から目を覚ました。しかしそこにいたのはさっきまでの陽気な少年では無く、獲物を見付けた狩人の如き雰囲気を纏う捕食者のようなエビル・グランツェだった。


「ーーっ⁉︎」


俺は無意識に一歩後ろに下がっていた。


「君に興味が出た。ちょっと試させて貰うよ」


その言葉が聞こえた瞬間には既にそこにエビル・グランツェの姿は無かった。

それに気付いた俺は、ほぼ直感で地面にしゃがみ込んでいた。

その瞬間、一瞬前まで俺の胴体があった場所を一陣の風が吹いた。否、これは風なんて生優しい物では無い、暴風。その表現が最も適切であるであろう如き風の暴力だ。

俺はその風に敢えて身を乗せるようにして地面を蹴り、その場から大きく距離を取った。


「アハハハッ、まさかこれを避けるなんてね!ますます興味が湧いて来たよ!」


風が収まるとそこには満面の笑みで片手を手刀のようにして振り抜いていたエビル・グランツェの姿があり、今の暴風と表現出来るような風を起こした張本人が彼であることが嫌でも分かる。


(今の動きに魔力は感じなかった……つまりあの暴風は単純な筋力のみで作られた風圧だと言うのか……)


エビル・グランツェの絶対的な力を思い知り、背中に冷や汗が流れるのを感じる。


「急に攻撃を仕掛けて来るなんて驚いたじゃないか」


(だがやるしかない!俺はヴェヘムートを殺さなければならないんだっ!)


だから俺は武器を構える。敵はエビル・グランツェ。恐らくこの世界で最も強い存在。だが俺は恐れ無い。恐れてはならない。俺はいずれこいつをも超えて行くのだ。


「来いよエビル・グランツェ。言っておくが簡単に負けるつもりはないぞ」


さあ、掛かって来いよ!

すいません。魔力の泉の件は次回で。

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