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「あいつね、蓮の実も一度に十個は平らげちゃうの」
薇薇は太った真ん丸な頬を染めたまま笑う。
どうやら、まだ阿建の話を続けたいらしい。
ふと莎莎の方を見やると、彼女も苦笑いしていた。
もしかすると、これまでも莎莎はこんな風におのろけ話を聞かされているのかもしれない。
「仲が良くて羨ましいわ」
私の言葉に薇薇はやっと何か察した体で口を閉じて照れ笑いする。
あのガラガラ声の野豬も、この子には異なる顔を見せているのだろうか。
昼の近付いた屋台街はますます賑やかさを増してきている。
「はい、別嬪さん三人」
三人という呼び声に釣られて目を向けてから、微妙に恥ずかしくなる。
少なくともダブダブのお下がり旗袍を纏った私は「別嬪」に当たらない。
「茘枝、安くするよ」
声を掛けた果物屋台の主人は肥った浅黒い顔の二重顎を震わせて笑った。
それだけなら気のいいおじさんにしか見えないが、左の頬には黒く引き裂かれた様な傷がある。
これは堅気じゃない。
直感で知れた。
「美人さんにピッタリの果物だ」
この顔は、越南人かな?
浅黒い肌と大きな二皮目を見開いた顔つきから、何となく私たち中国人とは微妙に異なる血筋がほのみえる気がする。
「お一つ、いかが?」
相手は淀みのない上海語で告げると、兜じみた固い赤茶色の皮を剥いて滑らかに白い果実を差し出した。