41収穫祭
一触即発の空気に私は慌ててクリスの腕からすり抜けると、二人の間へと割り込んだ。
「クリス、その手を離しなさい。リックは悪くないわ、私が脅して無理矢理匿わせただけよ」
「いえ、違いま……ッッ」
「リックは黙っていて」
リックの言葉を遮りクリスの腕を掴むと、琥珀色の瞳をじっと見つめる。
瞳には怒りと戸惑いが浮かび上がっていた。
「あの、違うんです。本当に悪いのは……全て私です。里咲さんの言葉に甘えて聖女の真似事なんてしていた私が悪いんです。罰なら私が受けますから……」
杏奈の声に振り返ると、目に涙を浮かべながら必死に訴えていた。
「杏奈何を言っているの。聖女になってほしいと頼んだの私。それにこの世界へ引き込んだのも私。だから私が全て悪いのよ。とりあえずクリスはその手を離して。怒りをぶつけるのなら杏奈でもリックでもない、私にするべきよ」
胸倉を掴む腕を引きはがそうとしていると、杏奈は涙を拭いながらこちらへ駆け寄り、王子の腕を両手で掴む。
そんな私たちの姿に、クリスは観念した様子で手を離すと、リックは無言のまま俯いていた。
「わかった……。とりあえずリサ、どういうことなのか説明しろ」
私はリックと杏奈へ視線を向け、降参するように深く息を吐き出すと、クリスへと向き直る。
「わかっているわ。ちゃんと説明するから……」
杏奈はクリスから手を離すと、潤んだ瞳でこちらを見つめた。
「里咲さん本当にごめんなさい。最初から私が聖女を断っていたら……こんな事にならなかったのに……」
「杏奈、何を言っているのよ。私が勝手にした事よ。それよりも今日はどうしてここに?クリスまで連れてきて、お城で何かあったの?」
「いえ……私じゃ聖女になれないとわかったんです……だから……クリストファー様に本当の事を話しました……。勝手な事をしてごめんなさい。だけど里咲さんは優しいから……ッッ」
杏奈はそこで言葉を詰まらせると、ポロポロと涙が零れ落ちていった。
彼女に何もなかったのだとわかり安堵する反面、杏奈の思い詰めた様子に、どう答えていいのかわからない。
聖女になれないだなんて……何もすることなんてないはずよ。
それに王子と杏奈はいい感じの雰囲気だったんじゃないの?
こんなタイミングで事実を知れば……収穫祭で婚約の発表も出来ないじゃない。
杏奈を見つめたまま考え込んでいると、クリスが私の肩を強く引き寄せた。
「リサ、どうして隠していたんだ?どうして黙っていたんだ?俺がどれだけ心配したかわかっているのか?」
「一気に言わないでよ、クリス。隠していて悪かったわ。けれど私が聖女なんて似合わないでしょう。あなたも言っていたいじゃない。聖女は私と違ってお淑やかな女性だって。それに私は本当のエリザベスではないの。彼女の記憶を持っているだけの別人よ」
「別人だと?喋り方も怒り方、分が悪くなると目を逸らして俯くその仕草は、俺の良く知るエリザベスだが?」
私は慌てて顔を上げると、プクっと頬を膨らませる。
「あぁもう、うるさいわね。私は杏奈と同じ異世界から来たのよ。現に聖堂では気が付かなかったじゃない」
「あれは無理だろう。言葉も通じないうえ、表情も見えなかった。意図的に隠していたんだろう?」
グッと言葉を詰まらせると、無意識に目を逸らし俯いた。
「……3年も前に消えた私のことなんてどうでもいいじゃない。婚約破棄だって出来たし、念願の聖女だって現れた。なのにどうして今更そんな必死になるのよ」
自分で言っておいて胸がチクリと痛む。
その痛みに唇を噛むと、胸の奥になぜか不安が渦巻き始めた。
私が居なくなった3年間。
彼はのびのびと生活できたんじゃないかしら。
婚約者に縛られず遊べただろうし、身分も外見もいい彼がフリーになったのを令嬢たちが放っておくはずもない。
なぜ隠しているのか、リックに問いただされた時、純粋に私じゃ聖女に似合わないと、彼をがっかりさせたくないからだと思っていた。
だけどこの胸の痛みと不安を知り、違ったのだと今更ながらに気が付いた。
私がいなくなった3年間で、私の存在が必要ないと思われているのが怖かったのだ。
だからリックから離れたかった。
彼は優しいから私を甘えさせてくれる。
邪魔だと思っても、何も言わないのが彼だから。
だけどクリスは違う。
私の言った言葉にどうこたえるのか、恐怖と不安で視界がゆらゆらと揺れた。




