プロローグ~恩返しの終わり・人生の始まり~
これにて『恩返し』の物語は完結です。
俺の中の時が止まり、周りの音が消え去り、周囲の色が褪せる……。
王の歓待も、そこそこに、
こちらへ向かってくる淑女以外の全てが消え去るような錯覚。
「お久しぶりです。オルフ。変わりなく壮健でしたか?」
華美になり過ぎず、それでいても周囲を引き付けるような見事な深紅のドレスを身に纏い、俺の前に立つ。
素晴らしい出来栄えだが、淑女を引き立てるのに徹した金細工は、ロンの渾身の作なのだろう。
「ああ、変わりは無い。スノウもレオナも」
一年……。
一年、たった一年、されど一年。
「私、今回の功績で辺境伯に。先祖代々の領地に。返り咲くことが出来ました。ありがとう、オルフ。全て貴方のおかげです」
オスカーにも、アレクにも劣らぬ、凌駕する程の気品を携えて、美しく成長してくれた。
俺にとっては、眩しすぎる程に美しく、麗しく成長してくれた。
逞しく、美しく、麗しく成長した姿を目の当たりにして、俺の尻拭いが、償いが、恩返しが終わったのだと実感する。
これ以上の俺の干渉は、彼女の人生には邪魔でしかない。
子離れ、親離れのような感情が、自然と湧き上がってくる。
彼女から離れて、正解だったのだ……。
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「一曲、踊って頂けますか? オルフ」
俺にとって、過分で、恐れ多い申し出に対しての返答は決まっている。
「戦いで成り上がった無作法者ゆえ、妻と決めた者以外の淑女の脚を踏んでしまっては責任が取れませんので、ご容赦ください。失礼を承知で、お断りいたします。可憐なレディ」
「分かっています」
全く怯まずに俺を、まっすぐに見据えてくる。
「生憎と、私も戦いで成り上がった無作法者。オークやゴーレムでもない男性に、いくら踏まれたところで問題ありません。可憐なレディではないのです」
辺境伯を名乗るにあたって、気品と教養、機転を学んだ彼女には、俺の言い訳は通用しない。
「私、言いましたでしょう。覚悟してくださいと」
「前にも言いましたが、我儘は、俺の実力を越えられたら考えますと」
サラの発言を受けて、サラ式に断ることにした。
「あら? オルフ。貴方は私を本気で殴れるの?」
「ん!?? ……無理ですね」
仮に本気で戦ったとしても、【絆】のせいで五分五分の上に、美しい顔に傷など付けられる訳が無い。
「爵位で俺より「今は、私が”伯”。”子爵”より上ですね?」
だが、回り込まれた!!!
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しばらくの問答をして、覚悟を決める。
「もう、貴女に、俺は必要ありません。これからは、御自分の幸せだけを考えて暮らしてください」
「それを決めるのは貴方でなく、私。貴方の居ない1年は長かった。産まれてから貴方と別れるまでの日々よりも色褪せ。空虚で不幸な1年でした。私の幸せに貴方が必要です。これまで貴方の恩返しに付き合ったのです。今度は……」
「私の幸せに付き合ってください!!!」
観念、いや、覚悟と決意を持って、手を差し伸べる。
「先程も申しました通り、妻以外と踊る気は有りません。ですが、貴女と踊りたく思います。私の、俺の幸せの為に、妻になって頂けますか? ベラ」
「はい!!!」
瞳に大粒の涙を浮かべながら、華のように微笑みながら、俺の手を取ってくれる……。
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長年の互いの想いを思い出すように、懐かしみように、静かに踊る俺達。
「あ~~。言い忘れていましたが。……綺麗だよ。ベラ。この場に居る。誰よりも……」
顔を真っ赤に、金魚のように口をパクパクさせながら、ベラが硬直する。
「もう! もう!! そういうところですよ!!! まったく……好き! 大好き!!!」
俺の物語が終わり、新たなる物語が始まる。
今日は国にとっても、俺にとっても、良き日だ!!!
魔狼の恩返し・完・
ここまで読んで下さった読者の皆さんに、最大限の感謝を。
次回作が出来ましたら、そちらも宜しくです。




