第08話
フロアにいるお客様の中ではこのテーブルが一番騒がしく、正直、お店からは浮いた存在だ。
でも、マナーが悪いわけではないし、過剰に迫ってきたり下品な話題を振ってくるわけでもない。
いつもとは違う、新鮮な雰囲気に酔っているだけというか、緊張をほぐすためにお酒を飲んだら飲みすぎた、というような、なぜか憎めない空気が部の人たちにはあった。
(それは私が、普段のみんなを知っているからかもしれないけど)
しかし、花梨さんにもサヤカさんにもそれは伝わっているのか、少々盛り上がりすぎても、にこにこと穏やかな笑顔を浮かべている。
その様子を見て、私はホッと胸をなでおろした。
(なんで、身内の発表会を見守るような心境になるの……)
声の高さを間違えないように、そして常に笑顔でいるように、それだけ心がけていれば、ばれずにやり過ごせそうだった。
そして30分あまり経った頃だろうか。
落ち着きを徐々に取り戻しつつある彼らと、他愛もない談笑をしていた時だった。
「知っている人に似ている」と疑われることもなく、私はこれなら大丈夫だと、安心しきっていた。
けれどもそこで、ふいに部長のスマホが鳴り、それを見ていた広報課の社員が
「来栖さんじゃないです?」
と、私の安心感を打ち砕く一言を発した。
「課長、やっと仕事終わったんすかね?」
「確か、小柳が作業を手伝ってるんですよね」
雷が落ちる勢いの衝撃が私を襲う。
思わず手にしたボトルから、想定していた倍の量のブランデーをグラスに注いでしまった。
(ちょっと待ってー!)
肝心の部長は、スマホを手に席を立ち電話を受けに外に出ていったため、確認のしようがない。
かなり濃くできてしまった水割りを、何事もなかったかのように目の前の人に渡した。
「どうぞ」
にこにこと微笑んだまま、あくまでも見た目は平静を装っているけれど、心の中は台風とハリケーンが一気に押し寄せる勢いで、大荒れに荒れている。
(今から課長と小柳さんが、お店に来るとか本当にやめてー!)
私は内心ハラハラしながら、部長の帰りを待った。
仕事が終わってすぐにお店にくるとなれば、2人とも、素面に違いない。
(ちょっと一杯、引っ掛けてからお店に……なんて、あるはずないよなぁ)
真面目という言葉を体現したような、来栖課長の顔が浮かぶ。




