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古着屋で買った服を着ただけですけど。  作者: 岩田 ヒロ


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3/3

誰、背中を押したのは?

古着屋の店長は売った古着を着る人を操ることが出来る。そうとは知らず高三の詩は古着屋で買ったコートを着て、受験と恋愛に奮闘するロマンタジー。第三話、誰、背中を押したのは?

 次の日も古着のコート着て、家を出た。学校で凛がちょっと遅れそうだから塾先行っててと言うので、一人で先に塾に向かった。教室に着くと、湊が前の席に一人で座っている。


 入りづらいなと思って、教室の入り口で躊躇していると、誰かに背中を押されてオロオロと前に踏み出してしまった。そして、湊の隣まで行くと通路を挟んだ椅子にストンと座った。いや、座らされた。びっくりして頭の中が真っ白。湊がこっちを向く。何か言わなくっちゃと考えて、

「ここ空いてるよね、早く来たから、前の方座ろうと思って」

 湊は、なるほどねって顔して、テキストに顔を戻した。そんな顔にキュンとした。心臓が飛び出しそうだ。パニックになってはいけない。ゆっくりコート脱いで、スマホでも見て、テキストを開いて、予習するふりをしよう。それにしても、誰、背中を押したのは?


 なんだかわからないけど、湊の隣、通路挟んでるけど。そして教室に二人。一緒に青学行きたいよねって話しかけたい。昨日の今日だから不自然じゃないし、誰もいないし。でも、話かけた瞬間、誰かに聞かれたら恥ずかしい。コッ、あ、誰か入ってきた。スタスタと誰かが歩いて、湊の隣に座った。彩葉だった。最悪だ。

「湊、早かったのね」と彩葉が声をかけると、うんと湊が答えた。あたしはスマホをじっと見る。湊を挟んであたしと彩葉が座っている。あたしはなぜか自分の存在を消すようにじっとしていた。


 また、誰かが入ってきた。今度は誰かがあたしの横に座った。凛だった。凛、助けてと言いたくて、目で訴えた。

「珍しいね、こんな前に座って」と凛がぶっきらぼうに言って、あたしの左隣に座る。湊も彩葉も聴いてる。とっさに答えた。

「もう、十二月だから」と言ってしまった。

「えっ」と凛が聞き返した。なんかもっと、会話続くようなリアクションしてよと思いつつ、

「ラストスパートだから、先生の声聞こえるようにと思って」

きゃー、湊も彩葉も聴いていると思うと顔が赤くなってきた。

「ほー、感心、感心。三日坊主じゃないといいね」


 サンキュー、凛。場が和らいだ気がする。ドンと次に湊の後に誰かが座った。振り向くと蓮だった。「おはよ、蓮」と凛が業界人のように自然に声をかけた。蓮が凛に手を上げた。こんな挨拶が自然にできる凛がうらやましい。そうこうしているうちに他の生徒も教室に入ってきた。いつの間にか、あたしの鼓動は静かになっていた。


 アップルの店長はゆっくり目を開けた。

「詩ちゃんはきっと湊くんのことが好きなんだな。しっかし、なかなかシャイな子だな」

 この店長、売った古着を着たお客さんの行動を覗くことが出来る。そして、止まれとか、進めとか念じると古着がその行動を起こすのだ。昨日の詩の金縛りや今日の背中を押したのは、実はこの店長の仕業だった。

「ちょっとお世話を焼こうと思ったけど、これは骨が折れそうだ。高校三年なら、彼氏くらいいてもいい年頃なのに」


 店長はこれまでもお客さんの世話を焼き、上手くいった場合もあれば、どうしようもない歯がゆい結果になったこともある。やはり、本人の行動次第なのだけど、なにかきっかけを与えるだけでもいいなと考えている。そして、二十年前のことを思い出した。


 二十年前、店長が大学生の時、当時仲がよかった友人がある女の子になかなか告白できず、店長はいらいらしていた。店長と彼と彼女は同じ大学で、サークルが一緒だった。結局、彼は卒業まで、告白できずにいた。でも、大学卒業まで、サークルで仲良く旅行行ったりできたのは、恋愛関係にならなかったからだったのだろうと今になって思う。付き合ったり、別れたりするとサークルの集まりでギクシャクするからだ。

 

 商社に就職が決まった店長に彼の父親がロンドンで、就職祝いにコートを買ってきた(実は後々この時のロンドンのお店がきっかけで店長が古着屋をはじめるのであった)。うれしかったが、サイズが小さかった。ロンドンに連絡いれて、サイズ変更するのも面倒だし、既に春だったのでクローゼットにしまっておいた。


 次の冬が来た時、着ないで持っているのもなんだからと、店長はコートを例の彼にあげることにした。彼はサイズがぴったりだったので、ことのほか喜んでくれた。そして、今度のサークル同窓会で、彼は例の彼女に告白すると打ち明けた。店長は応援するよと彼に言った。


 同窓会当日は寒かったのを店長は覚えている。そして、彼は例のコートを着て来た。みんな社会人になったからスーツ着て不思議な感じがしたが、彼女だけはジーンズだった。研究職だからラフな服でいいらしい。お互い近況報告して盛り上がった。彼は彼女の隣に座っている。いつ告るのかと見ていたけど、そんなそぶりもなく、お開きとなった。みんなで二次会に向かったのだが、店長だけは明日の朝から名古屋のお客訪問のため、最終の新幹線で、名古屋に移動しなければいけなかった。彼に頑張れよ、またな、と言って駅に向かった。


 移動中の新幹線でうとうとして、店長は夢を見た。彼と彼女が二人で電車に乗っている。なかなかいい感じで話をしていていたのだが、次降りなきゃと彼女が言った。そして、電車が止まると、

「じゃあね」と彼女が言って、電車を降りる。彼も、またと言ったっきり動かない。店長が、あーじれったいな!電車降りろと念じると、彼がオロオロと電車を降りる。彼女がそれに気づき、振り返って立ち止まる。


 電車が行ってしまい、静まり帰ったホームで、彼が言った。

「こ、今度、二人で、二人でご飯行こうよ!」

 ちょっとして彼女が笑顔で答えた。

「いいよ」


 店長が目を覚ました。ん?夢か?と思った。名古屋まで、あと三十分ある。スマホを見た。そのうちにその夢のことは記憶の彼方に消えていった。


 店長は二人が付き合い始めたという噂をずいぶん後になって聞いた。その時になって、あの夢を思い出したが、まさか、あの夢がリアルだったとは想像出来なかった。しかし、その後、彼から二人の馴れ初めを聞かされた時、びっくりした。同窓会の後、やっぱり告白出来なかったと思っていたら、誰かに背中押されて電車を降ろされた。そして、とっさに彼女をデートに誘ったのだと。


読んでいただき、ありがとうございます。毎週火曜日に続編を投稿する予定です。

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