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古着屋で買った服を着ただけですけど。  作者: 岩田 ヒロ


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詩、コートと出会う!

古着屋の店長は売った古着を着る人を操ることが出来る。そうとは知らず高三の詩は古着屋で買ったコートを着て、受験と恋愛に奮闘するロマンタジー。第一話、詩、コートと出会う!

 誰も着てない服が欲しいと思って、原宿に来た。


 あたし達、高校生って、冬になると全員似たようなダッフルコートやPコートを着て、学校に行く。週末はフリースやダウンジャケットを来て遊んでる。ここ原宿も日曜日だから、たくさんの若者が集まっているけど、同じような服着てる人ばかりだ。


 凛と足が棒になるほど歩いたけど、どこの店も同じような服ばかり売っている。真っ白なコートやピンクのコートも売ってるけど、趣味ではないし、学校には着て行けない。


「もう諦めようよ、詩。誰も着てなさそうな服なんて、高級なお店しかないって。もう、甘いスイーツでも食べて帰ろうよ」と凛が言う。

「そうだね、高校生が買える服なんて、安いから同じような服ばかりだよね、仕方ないか」


 凛とあたし(詩)は同じ高校三年で、クラスも一緒だ。凛はちょっとぽっちゃりしていて、健康的でかわいい。今日は太めのデニムと白のダウンジャケットを着ている。あたしはスリムなデニムに黒のフリースを着ていて、ごく普通の高校生だ。そんな服を着ているあたしたちが『誰も着てない服』を探すなんて言っても、とても信じてもらえそうにないと思った。


 あたしは諦めたくはなかったのと、来た道を戻るのもつまらないから、裏道のような路地に入り、駅の方に向かって歩く。美味しそうなクレープのお店があれば入るつもりだったけど、その路地はあまり人が歩いていなくて、失敗したかなと後悔していた。


「ここ、ドック・ストリートって言うみたいよ」

 小さな標識を見て、凛が言う。確かに標識がそう言っている。ふと見渡すと古着屋の看板が目に止まった。『古着屋アップル』という看板。お店は地下にあるようで、お店の中は覗けない。ちょっと入りづらそうだけど、古着なら安くて、珍しい服があるかもしれない。


「凛、ちょっと古着見てみようか?」

「えー、あたしは新品じゃないとやだな」

 確かに他人が着てた服は、あまり着たいとは思わない。でも、最近はヴィンテージのジーンズをうん十万で買うマニアがいることを聞いたことがある。服を買って着ないでおいて、何年も保存し、ある時に買った時よりも高く売る人がいるらしい。


「ちょっと見るだけ見てみようよ」

 強引に凛を誘って、階段を降りて、お店のドアを押した。ガランとドアの鈴が鳴った。お店の中は暖かく、乾いた匂いがした。


 えっ、ここは日本?と疑った。ところ狭しと、置いてある服は、あたしが生まれる前に流行っていたようなレトロな服ばかりだ。アメカジではなく、ヨーロッパのような雰囲気を感じる。襟の大きなシャツや、昔読んだシャーロック・ホームズが着てるようなコートが飾ってある。ハリーポッターの映画で見たような服もある。お店の中を進むと大きな鏡があり、レジの後ろに店員さんらしい人がいて、服をたたんでいる。


 凛が小声で、ここは渋いねと言って来た。お客はあたし達以外はいない。お店の中を一周した。珍しい服ばかりだ。ユニクロでは売ってない服ばかり、高校生が着るにはちょっと敷居が高そう。


「どんな服探してますか」、いきなり、お店の人が声をかけてきた。

「あ、冬に着るコート探してます」と答えた。店員さんはパパと同い年くらい、ブーツに裾の広がったパンツ、タンクトップの上に襟の大きなシャツを着てる、いや、羽織ってるという感じだ。スーツ着てるパパとは全く違うタイプだ。昔はモテたのかもしれない。


「んー、そうそう、こんな柄のコートはどうでしょう?」

 店長さんが、グレーの小さいチェック柄の、襟がちょっと大きなコートを差し出してくれた。

「うちはロンドンで買ってきた服を売ってるんだけど、これは二十年前に流行ったコートです。ウールで暖かく、軽いんですよ」

「えっ、そんな古いんですか」と凛が言う。暗にやめとけと言わんばかりに。


「天然素材のものは、ちゃんとメンテすれば百年着れますよ」

手に取ってみると、本当に軽くて、暖かかった。

「着てみていいですか」と聞くと、どうぞと答えてくれた。凛は、えっ?と言う視線をよこしたけれど、フリースを脱いで、凛に渡し、コートを着てみた。


「お似合いですよ」と店長さんが言う。

 鏡の中の自分を見つめた。普段、あたしは紺のPコートだから、全然違う人に見える。肩パッドが入っていて、シルエットが新しい。自分が探していたのはこんな服だと思った。


「高そうだよね」、と凛が値札をみた。あたしも覗くとなんとか予算以内だった。


「高校生ですか」

「はい、受験生なんです」

「そうですか。昔、僕の同級生達も、制服の上にこんなコート着て、受験してました」

「へーそうなんですか。凛、どうしよう?いい感じだよね」

「洗濯とか、どうするんですか」と凛が聞く。

「家で洗うとダメになっちゃうから、クリーニング出すのが無難かな。ウールだから長く着れます」

「他にいいのあるんですか」

「これはブラック、こっちはもっと暗いグレーで裾が長いコート、着てみますか?」

「はい」と言って、試着した。ブラックのやつは重く見えた。暗いグレーのやつは老けて見える。


「凛、どれが良さそう?」

「んー、どれか選べと言われたら、最初のやつかな」相変わらずネガティブに答える。店長さんも、最初の明るめのグレーのコートを勧める。鏡のあたしを見てると、なんかビビッと来た。生まれて初めてかもしれない。服買う時にビビッときたのは。

「こ、これ、ください」と言っていた。


「ほんとによかったの?誰もそんなコート着てないよ」凛がクレープ食べながら、聞いてきた。

「いいの、いいの。あたし、誰も着てないような服欲しかったのよ」

「あの店長さんみたいな人が、かっこよかったからじゃないの」

「いやいや、あたしの趣味じゃないよ。でも、手渡しされて、試着すると断れないんだよね、あたし」

「お人好しだもんね、詩は昔から。あたしならちょっと高いなって断るけど」


 あたしはすっごく気に入っているこのコート。なんで、みんな、同じような服を着たがるのか分からない。なんかコートのおかげで、勝手に気持ちが上がっている。クレープもおいしく感じる。

「クレープ、おいしいね」

「うん、甘―い」と凛が鼻のあたまにクリームつけてこたえた。凛は食べる時が一番しあわせそうに見える。

「凛はコート買わなくていいの?」

「うん、今のダッフルコートでいいや。みんなと一緒だと無難で、安心するなって、今日、原宿来て思ったし、クレープ食べて満足しちゃった」

 そうか同じ服着てると安心なんだ。なるほどなって思った。


「ママ、これ買っちゃった」

「あら、懐かしい。これ千鳥格子じゃない」

「えっ、チドリコーシ?何それ」

「チェックにもいろいろあるのよ。これ古着?ヴィンテージ?」

 ママの口から、チドリコーシとか、ヴィンテージとか言葉が出てきて、びっくりした。毎度ユニクロ行って、ジーンズやTシャツ、フリースばかり買うので、あたしの『誰も着てない服がほしい』の根源はこのママなのかもしれない。


 ママは薬局の事務で働いているので、いつもラフな服装だ。ジーンズにTシャツやトレーナーばかり着ている。スーツ着てるのは入学式や卒業式しか見たことがない。


「ヴィンテージかどうか分からないけど、ロンドンから仕入れた服みたい。ママも昔、こんな服着たことあるの?」

「あたしは着なかったわ、でも、あたしが大学のころ、みんな、スーツ着て、真っ黒のコートやチェックのコート着てた。昔流行ってたものが一周回って、また、流行るのかしら」と言われたけど、あまり流行ってほしくないと思った。


「明日からこれ着て、学校行く。なんか掘り出し物みたいで、いいことありそうだから」

「なんでまた、古着なんか買おうと思ったのよ?」

「誰も着てない服が欲しいと思って、たまたま、古着屋さんに入ったら、ビビッとくるコートに出会ってしまったという感じ」

「それは良かったわね。じゃ、勉強も頑張ってね」

 明日、新しいコートを着てるあたしを想像してワクワクしたてきた。

読んでいただき、ありがとうございます。毎週火曜日に続編を投稿する予定です。

コメント、感想、よろしくお願いします。


変更履歴

1月27日 初稿

1月28日 題目変更、『古着屋アップル』=> 『古着屋で買った服を着ただけですけど。』(フルキタ)、あらすじ大改訂


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