幕間3:リュミナリエ王国・情報将校
交易の王国リュミナリエ。
港に立ち並ぶ無数の蒸気船、世界中のありとあらゆる交易品を集め、金銀の流れを支配する経済大国。
その王国から派遣されていた情報将校 レオネル・カルヴァン は、遠見の水晶を通してルミナス要塞の戦場を凝視していた。
「……馬鹿な」
唖然、という言葉では足りなかった。
——ムナリス魔法師部隊が、一撃で消えたのだ。
リュミナリエにとって、ムナリスの魔法師団は特別な存在だった。
商人王国である自国は、軽武装重商国家として運営されており、単体での軍事力はあえて強大にしないという戦略を取ってきた。
そして、それ故に、ムナリス王国との外交の場においても、常に「ムナリスの魔法師部隊」の存在を尊重し、ムナリス王国との関係を良好に保つようにしてきたのだ。
だがそのムナリス王国の象徴が、たった一度の光に飲まれて消えた。
「……これは取引の天秤では測れぬ……」
レオネルの手から汗が滴り落ちた。
これまでリュミナリエは、大陸のパワーバランスを「利益の計算」で読み解いてきた。
軍事国家ヴァルシェンも、連邦アストレアも、結局は金がなければ戦えない。
だからこそ大陸の経済を牛耳る自国が優位に立てると信じていた。
だが、あの存在は違う。
宇宙の理を超えて、単独で敵大兵力を消滅させる力。
それは「新しい秩序」そのものだった。
レオネルの頭の中で、計算が目まぐるしく回り始める。
「中央平野……今までは辺境の寄せ集めにすぎぬと思っていた……だがこれは……」
交渉の対象として扱うべきか、それとも危険な不安定要素として隔離すべきか。
ムナリスはもはや終わりだろう。
あの魔法師部隊の壊滅は、王国の権威そのものを喪失させる。
代わりに、中央平野が浮上する。
「……新たな市場、新たな中心……」
レオネルは唇を噛んだ。
「我らが自国の経済力と影響力を維持したければ、もはや中央平野を無視できぬ」
その瞬間、彼は理解していた。
リュミナリエの未来は、この「ラグナの魔装を装備する男」とどう向き合うかにかかっていると。
「……取引の天秤に乗らぬ力。だが、だからこそ、我らは彼を“選ばれし顧客”として扱うべきなのかもしれん」
空に漂う光の残滓を見つめながら、レオネルは深く息を吐いた。
彼の胸に去来していたのは、一つの恐ろしい予感だった。
——大陸の覇権は、いま確かに中央平野に傾き始めている。




