外伝:魔王ヴェルゼルグ、日常に追われる
──魔王城執務室。
黒曜石の柱がそびえ立つ豪奢な空間……のはずだが、
その中心に鎮座する玉座の前には、うず高く積まれた書類の山が鎮座していた。
「……これが、王たる者の務めだというのか」
魔王ヴェルゼルグは額を押さえ、深い溜め息を吐いた。
机の上には、「各部隊の食糧補給報告書」やら「新たな魔獣の訓練計画」やら「第七武器庫の維持費概算」やらが乱雑に積み上がり、
その一番上には、ひときわ分厚い資料が鎮座していた。
──『第七武器庫暴走後対応策・暫定案(第18稿)』──
「……はあああああああああああああああああああ……」
魔王は玉座に背を預け、天井を仰いだ。
重責を背負う王の姿、とは思えぬほどの脱力感である。
「維持費……あの維持費……」
ぶつぶつと呟きながら、魔王は資料を手に取る。
──『第七武器庫・再封印維持コスト(月間試算):魔素結晶換算120,000ユニット』
──『武器たちの定期安定化メンテナンス(推奨):人員36名/週』
──『精神安定化陣・再構築費用(暫定):王都予算の15%圧迫予定』
「バカか?
武器たちが勝手に意思を持ち、勝手に暴走し、そして勝手に少年を“マスター”と仰ぎ──
挙げ句の果てには、封印術式まで無効化され、システムは再起動不能。
そしてこれを、私が管理し続けろというのか。
誰がだ。誰のためにだ」
魔王は手元の羽ペンを折りかけ、深く息を吐いた。
「くそっ……あの少年、“天城 蓮”。
そして……リリスたち。
あの子たちの“願い”が生み出した奇跡。
だが……この維持費は、どう見ても奇跡じゃない。
これはただの、悪夢だ」
──ガチャリ。
執務室の扉がそっと開き、ゼルガが恐る恐る顔を覗かせた。
「……魔王様。こちら、本日の“第七武器庫対応会議”の資料でございます」
「もう来たのか!? 昨日終わったばかりだぞ!?」
「は……はい……。
それと、蓮様から“武器たちの魔力安定用に新しい温泉施設の建設要望”が届いております」
「温泉施設だと!?」
「はい……『戦闘での疲労回復を兼ねて、武器たちと一緒にゆっくり過ごしたい』とのことですが……」
魔王は無言で額を押さえ、再び深いため息を吐いた。
その背中は、威厳に満ちた“魔王”というより、
過労で疲弊するブラック企業の管理職のようであった。
「……はあ……もういっそ、私も温泉に入りたい」
誰にも届かぬような小さな呟きが、魔王城の天井へと消えていった。
──魔王の戦いは、まだ続く。




