後編(ピーター視点)
――その程度の愛だったのですね。
死の床に就いた今、最期の妻の言葉を思い出す。
愛する人がこの世からいなくなっても、生きていける私の愛は、ジュリアにとっては「その程度の愛」だったのだろう。
結局、妻の自殺を止められなかった。
どんな言葉も説得も、ジュリアの心に届かないと分かってしまったから。
無理矢理生かそうとしても、生きる屍状態となり、とても辺境伯の妻としての役割は果たせなかっただろう。
それくらい、ジュリアにとって愛する人の死は衝撃だったのだ。
愛する女性が亡くなっても、正気を保ち、生きていける私は、ジュリアにとっては理解不能な生き物だったのだろうか?
愛した女性だけでなく妻まで失った。
それを夫である私がどう思うのか、ジュリアは慮ってはくれなかった。
愛する彼が死んだ後の事など、ジュリアにとっては、もうどうでもよかったのだ。
ジュリアにとっては、愛する彼こそが全てだった。
愛する人が亡くなっても生きていける私の愛は、その程度だったのか?
妻にとっては、そうだった。
かつて愛していた王太女殿下、フェリヤ。
今思えば、フェリヤがロイドを夫に望んだ時に、私のこの愛は終わっていたのだ。
皮肉な事に、愛する人がいないこの世には未練がないと、本当に彼の跡を追った妻に恋をした。
あのまま何事もなく夫婦として過ごしたとしても、そこそこ良好な関係は築けても、これほど、この心に君という存在が焼きつく事はなかっただろう。
ジュリアが自殺した後は、どれだけ周囲に勧められても新たな妻を娶る気にはなれず、親戚から養子を迎えた。
たった一人だけを愛し続け、自ら死ぬ事で、その想いの強さを証明した苛烈な女。
あれだけ強いインパクトを残した妻と比べると、他のどんな女も色褪せて見える。
自ら死ぬ事で、ジュリアは私の心と後の人生を縛ってくれたのだ。
ジュリアにその気がないのは分かっている。
ジュリアは、ただロイドを愛して、その跡を追っただけだ。
それに比べて、「生涯、この愛は変わらない」と言ったくせに、妻に心変わりした私を君は軽蔑するだろうか?
それでも、生きている間中、君を想っていた。
私が生きている間は、この愛も生き続けていたのだ。
これもまた、違う愛の形ではないのか?
――愛している。
ジュリア。
ようやく君の元に逝ける。
完結です!
読んでくださり、ありがとうございました!