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割に合わね〜よ

 あの夜から一か月が過ぎた。

 ゲオルクとアンナはいつもの生活を戻り、大司教もいつもと同じように娼館に通う毎日。

 しかしあの日の夜の出来事は、ザルツブルクに大きな傷痕を残した。


 クラーマーは、あの夜、本当に大司教に連れられて殺された兵士たちの顔を、殺されたその場所まで一人一人わざわざ回されたそうだった。その途中でクラーマーは気分が悪くなり嘔吐したそうだが、それでもやめず、最後の一人まで回ったとの話だった。

 当然その後予定されていたゲオルク達の魔女裁判は中止、そして二度とこのザルツブルクで魔女裁判や魔術などと言わせない誓約書を書かせて、現在は城内の礼拝堂で一人ひっそりとザルツブルクでの異端審問官の期間が早く終わるのを待っているらしい。


 またクラーマーの魔女裁判をヨシとした司教たちは、大司教から大目玉をくらい、中には司教の座を追われる者もいた。


 あの夜の被害者は計六名で、補佐司教ベルンハルト・フォン・クライブルクはあの日はとりあえず命を取り止めたものの、結局はあの時に負った傷が原因で、先日還らぬ人となった。


 その大量殺人をしたオットーは、その後の調べでも雇い主や過去の痕跡が見つからず、結局は全て分からずじまいのままだったが、大司教を始めほぼ全員の見解で、神聖ローマ帝国の差し金だっただろうという事で一致した。

 しかし戦争を避けたい大司教の意向で、この事件は闇に葬ることとなった。


 そしてジプシーの四人、ラーダ、ゾラ、ベルキ、オジさんはあの夜、修道院で手当を受け、特にオジさんはかなり深い傷を肩に負ったが、命に別状はなく回復、数日後に別の街に移っていった。

 その時にゾラには大司教から、お父さんが大司教を狙った暗殺者の一人で、それをゲオルクが捕まえて、重罪という事もあり公開処刑をした事、その後、孤児になってしまったゾラを大司教が直々にラーダに生活の援助をするから、親戚という形で預かってもらうよう頼んだ事、それを勧めたのはゾラの父親を捕まえたゲオルク本人だった事など全て聞かされて、かなり動揺して泣き崩れたとの事だった。


 ***


「ラーダたち元気かなあ?」


 その日の夜は、もう風も冷たくなり、ホーエンザルツブルク城の城壁の屋上にいると肌寒くなるくらいだった。

 大司教とゲオルクは、あの日以来、たまにこの城壁の屋上で夜のザルツブルク周辺を見るのが習慣化しつつあった。


「あの人達ならきっと元気でやっているでしょう……寂しいんですか?」


「いやあ、そうじゃねえけどよお。別の場所に移って、そんなにすぐに上手く行くとは思えなくてよお」


 ザルツブルクの夜景を見つめる大司教の眼差しは、誰が見ても寂しそうな顔を浮かべている。

 無理もない。長年、ラーダには占いという名の情報屋をしてもらっており、絶大な信頼を寄せていたのだ。

 しかも今回の事件で部下を多く失い、右腕だった補佐司教も亡くしてしまった。大司教の心のダメージは相当なものと、ゲオルクは感じとっていた。


 そういうゲオルクも、今回の事件は失うものがあまりに大きく、大司教の事を言えるような立場でもなかった。


「まあ……でもオジさんとベルキもいますから」


「そこだよそこ! あの吸血鬼もいっしょだろ? あいつ絶対、騒動のタネだぜ? しかもあの吸血鬼、『髪の毛を生やしてくれる魔術師を探してる』とか言ってたみたいじゃねえか? そんなバケモンの髪の毛生やさせる魔術師いるかあ?」


 それを聞いてゲオルクは笑ってしまった。


「まあまあ、彼は何気にそこを気にしていたんでしょうなあ。でも僕は冗談だと思って聞いてたんですけどねえ」


「いや、わざわざ偉大な魔術師がいる街に向かって行ったから、ありゃ本気だぞ」


「ええ?」


 二人は笑ってしまった。


 なかなかいい相棒だったかもな……


 ゲオルクもザルツブルクの夜景を眺めて、オロロックの事を思い出していた。


 そうしてしばらくの時間、二人はザルツブルクの夜景を眺めてそれぞれ干渉に浸った。

 すると大司教はふと本音をもらした。


「ああ~……。もうオレ疲れたなあ。来年あたり、大司教辞めようかなあ。こんなに色んなトコから狙われちゃう仕事、割に合わね~よ」


「ええ? 大司教辞めたら、娼館のみんなが優しくしてくれなくなりますよ」


「あ、それは困る。もうちょっと続けるわ」


「はいはい」


 こうして二人は、思い出したかのように、ザルツブルクの娼館目指して歩き始めるのだった。

最後まで読んで頂いて、本当に本当に感謝しかありませんっっ!!

ずいぶんユルユルな作品だったとは思いますが、最後まで楽しんでもらえたなら幸いですっっ。

ちなみにクラーマーという人物は後に『魔女に与える鉄槌』という魔女の見分け方や処罰の仕方などを書いた本を出版してヨーロッパの魔女狩りのキッカケを作った人物として有名です。

と、ここも読んで頂いて本当にありがとうございますっっ!!

また次の作品を書きたいとは思っていますので、その時はまたお付き合いして頂けると嬉しいですっっ。

では本当に最後までありがとうございましたーー!!

感謝!感謝!!

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