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ポンコツ勇者と性格の悪い姫  作者: 明けの明星


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「秘策」があるって言ったじゃない

せっかく合格したのにハンスの気持ちが。

「僕の事は不合格にしてください。僕はイレーネの婿にはふさわしくありません」

こう言い放ったハンス。


つい今しがた女神から「結婚の認定試験」に合格を告げられたばかりだとういうのに。

二人で四季の国を旅し、いろいろな経験をしたくさんの事を学んだその成果だというのに。


イレーネは驚いてハンスを見る。

「ハンス?どうしたの、何を言っているの?」

そう言いながら。


「だって僕、こんなになっちゃったし」

とハンスが傷ついた自身の身体を見ながら言う。


魔女メディアがハンスに「操りの魔法」をかけようとしていた時、

ハンスの持つ聖剣シュバからただならぬ気配を感じたハンス。


「シュバが僕に語り掛けている」

そう感じた。


それは、

聖剣(シュバ)を持てなくしろ」

と言う言葉だった。


瞬時に頭を巡らせるハンス。

持てなくする?

そうするには。


そして、

「母上、僕の右手を切り落としてください」

そう側にいた母である女勇者フローレンスに頼んだ。


「これはシュバの意思です。僕にも二言はありません」

と言い切るハンスに、何かを察したフローレンス。


黙って息子の言葉に従った。

鮮やかに、一瞬で。



ここ、王の執務室、女神が降臨している今、この場にいることが許されなていないフローレンス。

ハンスの決断を壁越しに聴いている。


「あいつも、男になったじゃないか」

そう言いながら、どこか寂しそうな表情だ。


「何言ってるのハンス?あなたは私の事、」

とイレーネ。


「嫌いじゃないですよ、大好きです、愛しています。

でもねイレーネ、僕の右手はなくなったし左手だって動かすことができない。貴女の手を取ることも、髪をなでることも、キスのために頬に手を添えることもできないんです。

イレーネ王女の、そしていつかは女王となる貴女の夫にはふさわしくないですよ」

と遮るように言うハンス。


「女王の夫、とかじゃなくて私、イレーネの夫になってほしいのに、どんな姿でもいいから」


イレーネの言葉に、少しだけ左手を動かしてみるハンス、しかし全く自由にならない。


「ハンス、お前の意思は固いのか?」

そこで女神アフロディーテが声をかける。


「もちろん。揺るぎのない決意です」

ハンスが言う。


「それならば、イレーネ王女の同意があれば、婿を選び直すがよい」

とアフロディーテ。

その傍で、同行しているテイアが慌てた様子を見せていた。


「同意だなんて、断固拒否します。私は」

とイレーネが強く言うが、


「イレーネ、だいだい僕が選ばれたのもヤラセでしょ。貴女にはもっとふさわしい者がいるはずですよ。僕は貴女と一緒に旅そして、貴女がどんどんと殻を破って変わっていく姿をこんなに近くで見ることができた、それだけで十分です。

このまま故郷に戻って、出来る範囲で農業をして一生を終えます。

でも、メディアとの対戦に一役買ったんだから王宮から金一封くらい下さいよね」

とハンスが笑顔で言った。


「ハンス、ねえ聞いてよ」

そう言うとイレーネはハンスの耳元でささやいた。

これからの話を、他に聞かれたくはなかったのだ。


「ねえ、秘策があるって言ったでしょ、ハンス、あなたの身体元に戻せるわよ、私」

そう言うイレーネに、


「知ってますよ、シャロンの置き土産でしょ。でもね、あれは貴女には使えない。

それに、もし必要だと認められるのなら、女神が僕の身体を修復してくれているはずです。

でも女神は動かない。僕の身体、このままだと判断したからでしょう」

ハンスは落ち着いた様子でイレーネに言った。


イレーネを説き伏せるように、静かに優しく話した。


「イレーネ、判断を」

そこでアフロディーテが決断を求めた。


「イレーネ、いつか貴女が女王になる姿、今から楽しみです。気高い女王でしょうね、貴方の憧れのアリアーネ女王のように。」

ハンスが心でそう言った。


そして、

「一度でいいから、さわってみたかったな」


「イレーネの、お」


この言葉が思わず、声に出てしまったいた。


「え?なんですって?何を触りたいって?私の、おっぱい?」

そう言うとイレーネが思わず、ハンスに手を伸ばしていた、こぶしを固めて。


イレーネのグーパンチがハンスの顔面に直撃した。

白目をむいてのけぞるハンス。


「ねえどういうことよ、シャロンの置き土産が仕えないって?」

気を失ったハンスの肩をゆすりながらイレーネが声を荒げる。

しかし、ハンスは動かないままだ。


「このままじゃ、ハンスが」

そう言いながら周囲を見回すが、女神たちは静観しているだけだ。

父も母も、アゼリアも。


「でも、やるしかない」

イレーネはそう自分に言い聞かせ、

そして。


ずっと身に着けていたペンダントに仕込んであった小さな球体を口に含むイレーネ、

これが、シャロンの「置き土産」だ。

それを砕いて、口移しでハンスに。


すると、ハンスの身体に霞がかかったかのようにきらめき始めた。

「置き土産」が効力を発揮し始めたのだ。


イレーネは相変わらずハンスを抱きしめたままだ。

二人とも、神秘的な光に包まれ、そして動かない。


「ねえ、ハンス」

シャロンがハンスに話しかけている。

夏の国でハンスとシャロンで水路の復活交渉に向かう道中だ。


「イレーネにはね、私の秘密兵器を預けてあるの。最後の力ってことで。私がいてもいなくても、最大のピンチの時に使うんだよって言ってあるんだ」


「そんなものがあるんですね、でもそんなすごいもの、イレーネに持たせてていいの?」

とハンス。


「イレーネが安心するでしょ。そんな秘密兵器持っていたら。イレーネにとってはなんか底力が出てくるような。だから渡しておいた。

でもね、あれはイレーネには使えない。あの子の能力が足りないんだよ」

とシャロンが言う。


シャロンが言うには、預けた「秘密兵器」を使いこなすには膨大な魔力が必要で、魔法使いとしての訓練を受けているわけではないイレーネには使えない、そして無理に使ってしまうとイレーネ本人の身が持たない。

ということだそうだ。


それをイレーネは知らない。

シャロンはそもそも「秘密兵器」を使わせるつもりがなかったからだ。

それでも、ハンスには真実を伝えていたのは何か自分の未来を察知していたのかもしれない。

結果、それはシャロンからの「置き土産」となった。


まったく動かない二人の側に、父と母、そしてアゼリアが駆け付けていた。


「なんだろう、心臓がバクバクする。どうしたのかしら。目の前が真っ白になってきた。

私、どうしたの?」

イレーネは薄れゆく意識のなか、そう心で叫んでいた。

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