危機そして決着
魔女メディアとの攻防、いよいよ決着へ
壁際に追い込まれたイレーネ。
魔女メディアの繰り出した魔法の剣が、イレーネの衣服を貫き壁に刺さる。
身動きの出来ないイレーネ。
そして、イレーネの正面に立ったメディアが、ゆっくりと大きな魔力を集め始めた。
イレーネに駆け寄ろうとする国王、しかしその瞬間、イレーネが服を脱ぎ捨て壁から飛び出してきた。
その姿は、ランニングにスパッツ、ドレスの下に着こんでいたのだ。
イレーネの咄嗟の行動に、集めていた魔力は行き場を失いメディアの中に戻っていった。
「ほお、この状況で抜け出せたか、しかし、なんとあられもない恰好だ」
苦々しそうにメディアが言う。
息を切らしながら、シュバとフリージアを握りメディアに迫るイレーネ。
「もうまたこうなる、いつまで続くの」
とイレーネ。
何度も繰り返している攻防に疲弊を感じていた。
「しつこい娘だ、何度かかってくれば気が済むのだ」
メディアの言葉に、
「なんか上から目線、私の方が不利だと思ってる?」
「当り前だ、私は魔女だ。その力には雲泥の差がある」
「それ、思い込みじゃないの?」
「まだそんな強気なことが言えるのか。お前の命、あとわずかだというのに。
お前は私に倒されて、人生を終えるのだ。
アデーレの未来はわたしに委ねてもらうとしよう」
「もしも、私が死んでも」
「死んでも、なんだ?
王位継承者は自分だけではない、そう言いたいのか。あの赤ん坊なら長生きはしない。
安心しろ、すぐにお前の後を追う。
あの世で姉弟仲良く過ごすがいい」
メディアは弟、ロベルトの存在を知っている。そりゃ、魔女だもの、それくらいはわかるか。
ならば、もう本当に容赦はしない、
「お前を倒す」
その言葉と共に、イレーネがメディアに切り込んだ。
ここで自分がメディアにやられてしまえば、その後ロベルトを襲うだろう。
何としても負けられない。
その思いが、イレーネを動かす。
メディアの繰り出す魔法の攻撃を、軽々とかわしながら追い詰める。
イレーネが優勢だ。
魔女魔人を殺すことはできない、しかしその心臓を射抜けば百年単位の眠りにつく。
そのまま封印することも可能だ。
イレーネもメディアの心臓を目掛け、剣で切り込む。
メディアもそれを警戒し、うまくかわす。
そして、先ほどうちに収めた魔力を分散させ、放った。
イレーネめがけて、ではなくハンスと、国王、王妃の元に。
イレーネには飛んでいく魔力がストップモーションのように見えていた。
コマ送りのように、両親と床に倒れているハンスに向かう魔女メディアの魔力の塊。
「卑怯じゃない、あなたの相手は私でしょう?」
とイレーネが叫ぶが、
「命を懸けた戦に、卑怯もクソもあるか。これは御前試合ではないのだぞ」
とメディア。
イレーネは、手に持っていたシュバをハンスに投げつけた、魔力を吸収しながら床に突き刺さるシュバ、
そしてもう1本の聖剣、フリージアを母、ソフィア妃の元に。
同じようにフリージアもメディアから放たれた魔力を吸い取り、床に刺さる。
父、国王も自身の剣、「エグザム」で防御していた。
「これでお前は丸腰だ」
そう言うと、メディアが再度魔力を込め始めた。
魔力を吸い込んだ聖剣、そしてエグザムもしばらくは使い物にならないだろう。
「もう術がない。ここまでか」
とイレーネ。
なんだかその気持ちは落ち着いていた。
「私、お父様とお母様を守ったの、これって偉いよね。ロベルト、一度くらい一緒に遊びたかったな。すぐに後を追ってきたりしないでよね。
ハンス、そんな体になってまで、メディアの魔法から逃れてくれたのに、ごめんね。私、死んじゃいそうだよ。言われたのにね、簡単に死んじゃダメだって」
目の前に迫る、メディアの魔力の塊を見つめながら、イレーネは思っていた。
その時だった。
「イレーネ」
母のその声と共に、短剣が手元に投げつけられた。
母、ソフィア妃が護身用に持っている剣だ。
短剣を構えると、狙いを定めそして、魔女メディアの胸元めがけて投げつけた。
剣が、勢いよく魔力の塊を貫通する。
一気に飛散する魔力。
「イレーネ、ナイフ投げやろうよ」
そう言ってよくシャロンと遊んだ。
王宮の裏庭で。
もちろん本物の短剣を使い、裏庭の木に作った的を目掛けて。
時には王の護衛兵たちも加わって勝負した。
「また姫の勝ちだ、本当に剣の扱いがお上手だ」
そんなことを言ってもらったっけ。
私、ナイフ投げ得意だったもの。
しかし、イレーの教育係、ミセスフランチェスカはナイフ投げをやっている姿を見つけては、
「イレーネ王女、ナイフ投げなど王女のたしなみではございません、おやめください。
剣術ですら、やっていただきたくないのですよ。
お母様がご覧になったら、さぞお嘆きでしょう」
そう言ってやめさせられた。
「お母様、私が剣投げるの、お嫌いだったわね、品がないって」
そう思いながら、投げられた母の短剣の行先を見つめるイレーネ。
その剣が、ついに、魔女メディアの心臓を貫いた。
砂煙で遮られていた視界が開けて来た。
そこには、ナイフが胸に突き刺さり、そのまま動かなくなっている魔女メディアの姿があった。
城内に攻め込んでいた、魔女メディアの一派の軍勢の威力がどんどんと低下していくのがわかった。
メディアの力が及ばなくなっているのだ。
慌てて、撤退をはじめるメディアの一派。
王の執務室に、魔法使いアゼリアが戻ってきた、そしてその背後には、大魔法使いアドロポスも姿を現した。
アドロポスが魔女メディアに近寄り、そっとその顔を撫でた。
「メディアよやっと安住の眠りにつくことができたのか」
そう言いながら。
「メディアの今後は女神が決めることだ。それまで、どうだろうか、あの牢の隣にいさせてはもらえないだろうか」
とアドロポス。
「メディアには酷い事をした、昔の話だが。今後は自分が見守ってやりたい」
と。
「メディアがここアデーレの王宮にいるってこと?
最悪なんだけど」
とイレーネ。
しかし、メディアを見つめるアドロポスの姿にそれ以上何も言えずにいた。
「アドロポス、そなたの気持ちはよく分かった、しかしメディアの処遇は神と女神の沙汰を待つことにしよう。
それよりもイレーネ、ハンス、急がねば。女神のとの約束の時間まで、あとわずかだ」
と王が言う。
女神に定められた「再試験」の期限が迫っていたのだ。
「でも、私たち女神に一旦アデーレに行けって言われたのよ。
ハンスだってこの状況よ。
遅れたって、許してもらえるわよ」
とイレーネ。
しかし王は、
「女神というのは意外と意地が悪いからな、期限は期限だ曲げられぬと言い張るかもしれん。
ひとまず、聖地に行った方がよかろう」
と言った。
「でも、ハンスが」
ハンスは、床に倒れこんでいる。
「ハンスなら、このまま小康状態を保てます」
とアゼリア。
「イレーネ、僕なら大丈夫ですよ。身体に力が入らないけど、痛くはないんです。
魔法の力ですね」
とハンスも弱弱しい声で言う。
「そう、ならば、でも聖地に行くのは私たち二人だけよ」
とイレーネ。
「お父様とお母様はここにいて」
イレーネは父と母を見つめながらこう言い放った。
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