一触即発
魔女メディアの言葉にどうする?イレーネ
ドルーガ王国とアデーレ国王の国境近辺は水面下で動き始めていた。
お互いに前線部隊を集結させていた。
ドルーガ王国側の、国境最前線の部隊は国王直々の出撃命令を待つのみだ。
アデーレ軍も、相手の動きを注意深く見張っている。
そして、アデーレ国王、クレメンタイン城。
こちらも密かに厳戒態勢がとられていた。
しかしこの城には大勢の勤め人が出入りをしている。
その一般の人々にこの騒動を知られることなく、安全に回避させなくてはならない。
王直属の魔法使い、そして国内屈指の勇者や剣士が集結していた。
王居住エリアの王の執務室。
「ご立派な口を聞けるようになったもんだ、と思ったら。中身は相変わらずの癇癪持ちだね」
と魔女メディア。
先ほどのイレーネのシャル皇太子への言葉弾に対してだ。
「おかげさまで。すっきりしたわ」
とイレーネ。
「ずっとひっかかっていたのよ」
「そりゃあ、よかった。で、お前は私と戦うと?」
とメディア。
「そうよ、あなたには屈しない。アデーレ国王を渡したりはしないわ」
イレーネは堂々と言い放つ。
「王とお前が黙ってその調印書にサインさえすれば、アデーレの民に犠牲を出さずに済むというのに。
我々のありがたい配慮を無下にするというのかい?」
「アデーレの民があなたたちを受け入れると思っているの?」
「王とお前の決断なら従うだろう。王も、お前も国民からの信頼は厚い。
まあ、お前が見せていたは偽りの姿、魔法使いアゼリアに取り繕ってもらった偽者だったがな。
ずっと国民を欺いてきたというのに、それでもまだアデーレに君臨したいのか」
イレーネの「性格」を指摘する魔女メディア。
その言葉を聞いた母であるソフィア妃が胸を押え、その場に倒れこんだ。
「おやソフィア、なにか負い目でもあるのかい?」
倒れた王妃にメディアが言う。
イレーネ誕生の際のメディアとの取引、ソフィア妃にとっては忘れられない汚点なのだ。
「そうよ、私は性格の悪い姫だったわ。だから修行してきたのよ。少しは成長できたと思うわよ。
さあ、お母様をあちらへ」
そう言うと、王の執務室に付属してい控えの間に母である王妃を連れ出した。
これ以上、自分の秘密についてメディアが話すのを母に聞かせたくはなかったのだ。
「王妃様は僕が」
とハンスがそのままソフィア妃に付き添う。
「魔女メディアよ、アデーレの次期女王の気持ちは変わらないようだな、もちろんわたしもだ。
アデーレ王国をドルーガに渡す気はない」
とここで国王が言葉を発した。
アデーレ国王のその発言を聞いた周囲が、にわかに緊張をする。
このまま争いが始まるのか。
王の執務室の周囲には、既に精鋭の戦士が待機していた。
魔女メディアに着き従っている、ドルーガ王国の先遣隊とここ城内で一戦交えることになるのか。
すでに一触即発の状況だ。
王妃ソフィアは執務室に隣接している控えの間で、椅子に座り休んでいる。
ハンスと侍女の介抱のお陰で落ち着きを取り戻しているようだ。
「礼を言います。そこの勇者、ハンスでしたよね」
とソフィア妃
「王妃様?」
そう言いながらソフィア妃の顔を見るハンス。
ハンスは四季の国へ飛ばされる前に王妃とは何度か会っている。
その時は、気品のある、でも氷のような表情の人だと思った。
しかし、今目の前にいるソフィア妃は、この事態を憂いてはいるものの、どこか安心しているような顔をしていた。
そして、その面立ちはイレーネによく似ている。
「名前を憶えていてもらってるなんて、お前も出世したもんだ」
背後からそんな声が聞こえた。
振り返ると、そこには女勇者フローレンスの姿があった。
フローレンスは世界的にも名の知れた剣の使い手だ。
この事態に、急遽召集されたようだ。
「母上、こちらにいらしてたんですね」
とハンス。
一方、王の執務室では、イレーネと魔女メディアのにらみ合いが続いていた。
「それでも、あなた方はお引き取りいただけないのね」
とイレーネ、
そう言いながら、聖剣フリージアに手をかけていた。
「そうだね、このまま引き下がるわけにはいかない」
とメディア。
「お前、私が魔女だって忘れたわけじゃないよね」
とメディア。
控えの間のハンス、
腰に付けている聖剣シュバからただならぬ気配を感じていた。
ハンスは、人気のいないところにフローレンスを呼びつけると、
「母上、僕の腕を、切り落としてください」
そう告げた。
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