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ポンコツ勇者と性格の悪い姫  作者: 明けの明星


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ドルーガのシャル皇太子

イレーネはシャル皇太子にいい思い出がないようです

「だから、なんですか?その作戦って」

とハンスがイレーネに尋ねた。


「言ってなかったっけ?」


「聞いてないですよ。それにしばらく酔っぱらってないし」

とハンスが反論をする。


「言ってなかったかも、さっき思い出したことだし」

とイレーネ。


「まったく」

そう言うハンスに、


「察してくれないハンスが悪いんでしょ」

と言い返す。


「イライラしないで。隙ができてしまいますよ」

落ち着い言うハンス。


そんな様子を父であるアデーレ国王が冷静に見つめている。

国王には周囲にいるソフィア妃や側近たちが、すでに魔女メディアの魔力の支配下にいることを認識していた。


下手には動けない、それは魔法使いアゼリアも同じだった。


「ねえ、メディア、そもそも何故そんなにアデーレ国王が欲しいの?」

とイレーネが魔女メディアに聞く。


「千年にわたるしがらみだ」

とメディア。

かなり昔からの因縁らしい。


「ドルーガの国王は本当にアデーレ王国を支配したいの?

アデーレの地を、民を統治できるというの?」

イレーネは続ける。


何度かあったことのある、ドルーガ王国のロイド国王、そこまでの野心家には見えなかった。

嫌味なオヤジではあったけれど。


「おお、イレーネ王女、もしも選ばれし勇者に逃げられでもしたら、我が皇太子、シャルの妃にでもなるがいい」

とか笑いながら言いやがった。

そもそも、王位継承権第一位の者同士の婚姻は出来ない、というのに。


そして、変に気を利かせたドルーガ国王の側近たちにより、シャル皇太子との「デート」がセッティングされた。


何度目かの「デート」で、イレーネとシャルは国境近辺の避暑地のコテージにいた。

湖のある美しい街並みは、絵葉書のような風景だった。


そこで、シャルとイレーネは湖畔を歩く。

お付きの者を遠ざけ、二人だけで。

それはイレーネが希望したのだ。


「お姫様のひみつ」

というタブロイド紙の記事をまねしてみたのだ。

高貴な姫君が、侍女たちの目を盗んで若者と二人で過ごす、と言ったフィクションの物語だった。


夕日に照らされる二人、きらめく湖畔を背にし、そして向かい合い、そっと、

そう、そっと、キスをした。


「まるで映画のワンシーン」

とイレーネは心で思う。


しかし、自分の肩に回されているシャルの手が「ぐー」になったままだ。


「こういう時は、髪をなでたりするんじゃないの?なんでぐー?」

イレーネが不審に思うと同時に、


その「ぐー」に握られた手をゆっくりと開きながらイレーネの目の前に差し出すシャル。


「見て見て、イレーネ、これ、ボンボン虫。さっき見つけたんだ。これは貴重だよ」

と手の中にうごめく、「虫」を見せびらかした。


「え、虫?むしーーー!」

とイレーネが飛び上がる。


「だって、これ珍しいんだよ」

嬉々として、手の中の「虫」を見つめるシャル。


「私、虫って大嫌い」

そう言い放つイレーネ。


「あれがさ、私のファーストキスだったのに」

とつぶやくイレーネ。


ードルーガ王国、王宮、王の部屋ー


王の部屋にはロイド国王とシャル皇太子の二人だけだ。


「ねえ、父上、アデーレ国王を統合するって本当ですか?」

とシャル皇太子が言う。


「ああ、魔女メディアに任せてある、我々は何の手出しをすることなく、アデーレを手に入れる。

そして、アデーレの王族には、四季の国連邦の冬の国に出来た自治区に隠居していただく」

とロイド国王。


「でも父上、アデーレ王国、そんなに欲しいんですか?」

面倒くさそうに聞く皇太子、


「いや、正直アデーレの国に興味はない、だかなアデーレ国王め、目障りな野郎だ。目の下のたんこぶってやつだ」

と国王は吐き捨てるように言った。


「目の上の、でしょ、父上。人気も実力もかないませんからねえ」

とシャル。


「メディアの力を借りようがなんだろうが、アイツに一泡吹かせてやる、それだけだ」


「あとはメディアからの吉報を待つだけですかね」

と窓の外を眺めるシャル。

この空は、アデーレ国王のつながっている。



「ねえ、メディア、あなたのそのしがらみってやつのために、ドルーガ王国、そしてアデーレを巻き込むの?

両方に暮らす民、その人たちはどうなるの?国はそこに住む人々のためのものよ。

私たち王族は、民が幸せに暮らせるように尽くすだけ。

そのために国を出て行くなら、喜んでそうするけれど今回はそうじゃない。

あたなとは断固として戦うわ」

とイレーネがキッパリと言った。


「ふーん、そうかい、随分とご立派な口がきけるようになったもんだ」

とメディア。


父、国王も驚き半分、喜び半分で娘であるイレーネの言葉を聞いていた。

「イレーネが」

堂々と魔女メディアに対等するイレーネを誇らしく思っていた。

今までにはなかった気持ちだった。


「でもね、一つだけ許せないのが」

そう言うと、メディアに背を向たイレーネ、壁の方を見ると、


「私のファーストキス、返してよ」

と大声で叫んだ。


その言葉を、魔法使いアゼリアが捕まえ、そして言葉弾にして外に放りだした。

その言葉弾は、ものすごい勢いで飛んで行く。

ドルーガ王国を目指し。


ドルーガ王国、皇太子、シャルの部屋。

そこに、アゼリアが弾丸に変えたイレーネの「文句」が飛び込んでした。


シャル皇太子の部屋で炸裂した言葉弾。

その衝撃で部屋にあったシャルの趣味である「虫たち」の飼育箱が床に散乱した。

沢山の虫たちが逃げ出していた。

王の部屋にいるシャルはまだそれに気付いていない。


「一言じゃ足りないわ」

イレーネは、まだ文句を言いたいらしい。


しかし、

「これ以上はおやめなさい、イレーネ。

あのキッス、先に仕掛けたのは貴女でしょう、誘惑なんてことをするからよ」

とアゼリアにいさめられてしまった。


「じゃあ、仕方ないわね。でもあのシャルが我が物顔でアデーレの事を語るなんて絶対に許せない」

と不満げに言い放つイレーネ。


それを見たハンスが、

「イレーネ、冷静に。私情を挟んではいけません。本質を見失ってしまいますよ」

と静かに言った。


大きく息をして、うなずくイレーネ。

自分を落ち着かせようとしているのだ。


そんなやり取りを見つめる国王、

「頼もしいじゃないか」

ハンスを見つめるその表情は満足そうに晴れ晴れとしたものだった。

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