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ポンコツ勇者と性格の悪い姫  作者: 明けの明星


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私の「弟」

弟の存在、かけがいのないもののようですね。

クレメンタイン城のかなり上層階にある、王一家の居住区間。

そこには王や王妃の寝室のほか、イレーネの部屋、そして談話室、応接室などがある。

そして、王の執務室。ここは公式な部屋ではなく側近たちのみ立ち入ることの出来る特別な部屋だ。そしていくつもの重要事項がここで決められた。


その中に「ロベルト王子の育児室」があった。

かつてが「イレーネ王女の育児室」だったところだ。


そこから聞こえて来た泣き声につられて部屋に入ったイレーネとハンス。

そこに、弟、がいたのだ。


「これ誰よ?」

小さな赤ん坊を指さしながらハンスに聞くイレーネ。


しかし

「弟って言われてますよ」

としか答えようのないハンス。


仕方なく昔からいる侍女の一人を部屋の片隅に連れて行き、こっそりと事情を聴いた。


「要は、私の弟、で間違いないのね」

とイレーネ。


「そのようですね」

とハンスも言う。


侍女の説明がなかったとしても、ベッドにいる赤ん坊、その顔立ちは自分によく似ている。

口の形がそっくりだ。そして父や母の面影もある。


「やはり、私の弟だ。」


そう思うと、その赤ん坊が急に愛しくなるイレーネ。

ベッドを覗き込み、小さな頬に手を当ててみる。

とても熱い。


冬の国で、氷の王宮から帰る途中に、女神テイアの娘、セレナが熱を出していたことを思い出した。

しかし、セレナの時よりも、なんと言えばいいのか、


「心配でたまらない」


と心の内を漏らすイレーネ


「よく病気をするの?」

と周囲の医師に聞く。


医師団の一人の老医師が、

「そうですね。王子はいささか虚弱でいらっしゃる。

ご成長とともに丈夫におなりになるといいが。

イレーネ王女、貴女様はとてもお健やかでいらした。ご病気などはめったになく、

我々の出番といえば、お転婆が過ぎた時のお怪我の治療や、寒い中、上着も着ないで走り回り、大汗をおかきなのにそのままにしてお風邪を召された、それくらいでしたかねえ」

と懐かし気に言う。


「そうだったわね」

と多少気まずそうなイレーネ。


「想像つきますね」

と笑うハンス。


「とにかく、弟をお願いします。みなさんもお疲れとは思いますが、どうか早く良くなるようお力をください。」

と医師団、乳母や侍女に頼むイレーネ。


その「懸命」な姿に、周囲は少々ためらいながら


「全力をつくします」

と答える。


医師たち皆で顔を見合わせながらが

「王女?」

と声をかける。


「王女、何というか、なんと申し上げたらよいのか、王女は大人になられましたな」

と先ほどの老医師が言う。


「そんなにおかしい?」

とハンスに聞くが、答えてくれない。


代わって侍女の一人が、

「イレーネ様はこんな風に、周囲にねぎらいの言葉をくださったり、お願いされることなどありませんでした。よほどロベルト様のことがよほどご心配なのですね」

そんな言葉をかけた。


イレーネはロベルト王子を取り巻く人々に一礼をし、部屋を出た。

その姿にまたも驚きを隠さない人々。


「王女が」

「我々に」

「礼をするなど」

「感無量だ」

と言う声が漏れ聞こえていた。


「貴女って、前はどんな奴だったんですか?

一礼しただけて、みなさんあんなに感激してますよ」

とハンスが半ば呆れたように言う。


「はいはい、私、性格の悪い姫でしたよ」

とイレーネ。


「今でもでしょ」

とハンスが一人語を言うが、それをイレーネは聞き逃さない。


「悪いか」

と吐き捨てるイレーネ。


「ま、僕は貴女のそういうところ、好きですけどね」

とハンス。


コイツは何を言っているんだ。

好き、とか。

何言っちゃってんの。


イレーネは内心焦りながらも平静を装い、

「さあ、お父様の執務室へ」

と言いながら迷路のような廊下を進んだ。


廊下を進みながら、

「弟だって、私の」

とつぶやくイレーネ。


「でも弟って、かわいいのね。かけがえのない存在って気がする。初めてだわ、こんな気持ちになるの」

と続けた。


「いいですね、きょうだいって。僕は一人っ子ですからね」

とハンス。


「そうか、私もついさっきまでは一人っ子だと思ってたわ。

でも兄弟姉妹、いいものね。私たちの子はたくさんの兄弟がいるといいわね」

さらりと言うイレーネに、


「僕たち、結局まだ女神の試験には合格してないんですよね?

貴方は誰と家族になるのやら」

と話をはぐらかすハンス。


しばしの沈黙の後、


「いずれにせよ、王位継承者が貴女だけではなくなったということです。

影響がないといいけれど」

とハンス。


「そっか、ロベルトが次期国王ってのもアリよね」


そんなイレーネの言葉に、

「気軽に言わないで下さい。

王子推奨派なんかでてきたら、やっかいですよ」


「そんなことにはさせないわ。野心を持つ連中に弟を利用されてたまるもんですか。

でもまずはあれを攻略しないとね。

アデーレ王国は今も未来もアデーレの民のもの。どこの侵略も介入も許さない」

とイレーネが指さす先に、父の私設執務室が見えてきた。


「あちらは私たちがそろそろ到着するってお見通しよ。

魔女だもん。でも、臆することはない。私たちは時期女王とその、」


そこまで言って口をつぐむイレーネ。


「続きはメディアを成敗したら言うわ」

と小さくつぶやき、廊下をひた走った。


そして、古い扉の前で立ち止まる、

「ここが父上の執務室よ」

そう言いながら、勢いよくその扉を開いた。




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