クレメンタイン城で
訳も分からずアデーレ王国のクレメンタイン城に戻ってきたイレーネとハンス。
これからどうなる?
「まずは、アデーレ王国にお行きなさい」
と言うアフロディーテ。
訳が分からない二人
ここに戻れば即再試験となるはずなのに。
立ち会うはずの父と母 アデーレ国王や王妃の姿もない。
「どうしたっていうの?」
とイレーネ。
「すぐにアデーレに戻りなさい、王宮が襲撃を受けています」
「襲撃?」
「そうです、魔女メディアのとその一団がアデーレ王国に攻め入ったのです」
とアフロディーテ。
そして何かを問う間もなくアフロディーテの手により、
イレーネとハンスは一瞬にして、アデーレ王国、クレメンタイン城へと移動していった。
「ここどこなんですか?」
薄暗い通路に立ち尽くすハンスがイレーネに尋ねた。
「ここはね、クレメンタイン城の地下廊下よ」
とイレーネ。
城というのは外敵からの侵入に備えて、内部の通路はかなり入り組んでいるものだ。
ここ、クレメンタイン城も例外ではない。
廊下をまっすぐ歩いているはずなのに、その先に進むことができなくなる、
来た道を戻ったはずなのに、元の位置に戻れない、
そんなこがよくおきる。
イレーネにとってはそんな迷路のような城内も手慣れたものだ。
幼い頃から乳母や侍女の目を盗んでは、城中を探検していた。
決して誰もたどり着けない、戻ってくることも出来ないと言う場所にある地下牢に囚われていた、
重罪人と仲良くなったりもした。
さすがにその時は、
「二度と近寄りません」
と誓いを立てるまで、お説教を食らったが。
そして、父からアデーレ王国に国王と王位を継ぐ者しか知ることがないという、
極秘の脱出路も教えてもらった。
「こっちよ」
イレーネが先導して廊下を進む。
階段を上がり、地表階へと出たようだ。
灯りの漏れる部屋の前で、立ち止まり中の様子を伺うイレーネ。
「テルト爺、いる?」
そう言いながら中へと入った。
ハンスも周囲を伺いながら後に続く。
さほど大きくはない部屋の中は、たくさんの荷物であふれていた。
壁際には小さな箱がいくつも並べられ、そのなかには封筒やはがきが入れられている。
「ここはね、クレメンタイン城の郵便室だよ」
とイレーネ。
「やあ、姫じゃないか。お戻りになったんだね。よかった」
荷物の間から、背中が曲がった、しわだらけの顔をした老人が現れた。
「テルト爺」
イレーネが駆け寄りる。
「紹介するわね、ハンス。こちらはテルト爺。郵便室の主よ。
もう何百年もここで郵便の管理をしてくれているの」
とイレーネ。
確かにこの老人は高齢のようだが、何百年だなんて。
そう言う思いが顔に出ていたようだ。
「わしは、魔人でな。魔女や魔人というのは不老不死なんだ。
でもわしは見た通りの爺さん。
こんなタイプもいるんだ」
と見事な髭触りながら、テルト爺が言った。
「テルト爺はアリアーネ女王の事も知っているのよ。」
何故かイレーネが自慢げに言う。
イレーネの尊敬するアデーレ王国初の女王。
「ああ、イレーネはアリアーネによく似ている。小さい頃はやんちゃなお転婆娘で、そんな姿もお前さんとそっくりだ。昨日のことのようだよ、アリアーネと地下通路でかくれんぼをしたのは」
とテルト爺、しばし懐かしそうに話したがすぐに真剣な顔をした。
「そんなことより」
そう言うテルト爺とほぼ同時に、
「テルト爺に聞きたいことがあるの。ここで何が起こっているの?
私たち、女神の間からいきなりここへ飛ばされてきたのよ」
とイレーネが聞いた。
「ああ、姫、やはり花嫁学校なんぞに行っていたのではないな。
女神の差し金で旅に出ていた、そんなところだろう」
そういうとテルト爺が、立ち上がり部屋の小窓から外を見上げると、
「イレーネ、王の間へ行け」
と一言イレーネに告げた。
「わかった」
と、うなずいたイレーネ、そして
「さあ行こう」
とハンスに向かった言った。
「またあとでね」
そう言いながら部屋を出ようとするイレーネに、
「ああ、そうだ、そうだ、そこのにいちゃん、あんたに荷物が届いているよ」
とテルト爺が大きな荷物を細長い包みを引きずってきた。
荷物を確かめるハンス。
それは、冬の国、クリスタルホテルの客室に残してきた荷物、そして聖剣シュバだった。
「ミセス・フロリナが送ってくれたのね」
差出人は書かれていなかったが、イレーネもハンスもそう思った。
荷物はここ、郵便室に残しシュバだけをもって部屋を出るハンス、
そしてイレーネ。
イレーネの案内で普段は使われていないと思われる、細い通路を進んでいた。
「この道を進んでいけば、お父様の執務室に着くわ。そこにメディアとその取り巻きがいる」
とイレーネ。
「テルト爺がみつけてくれていた」
そんなイレーネの言葉に、
「でも、テルト爺さんは何も言わなかったじゃないですか。部屋に行けって言っただけで」
とハンス。
「テルト爺は魔族だから、魔女メディアの名を出せば、メディアに気付かれてしまうの。
私たちがここにいるって。
だからあえて言わなかったのよ」
「そういうことですか。
でも何故、王の執務室に?城に攻め込んだんじゃ?」
「まずは王を失脚させるつもりね。それから城を乗っ取り、それから国全土」
イレーネはそう判断したようだ。
「そうでしょうね。大軍を率いて攻め込むのは分が悪い。アデーレ王国軍の方がドルーガ王国よりはるかに勝る軍事力ですからね。
でも、魔女は国の君主にはなれないでしょう?」
「そうよ、魔女メディアは女王になることを望んではいないわ。陰で操れればそれでいいの。
ドルーガ王国が侵略してくるってことね。
ドルーガの国王、いやなオヤジよ。皇太子だってバカ息子だし」
「ロイド国王とシャル皇太子でたっけ?皇太子は少し年上でしたよね、貴女より。
お似合いのお二人なんて言われてませんでしたっけ?王室ジャーナルで見ましたよ」
「やめてよ、あの嫌な男。意地悪だし」
「お互い様でしょ」
「それに虫が大好きなんだよ。信じられない」
「虫好きで悪いんですか?」
「あとさ、消したい記憶なんだけど」
「え?なんですか?」
「もう消してしまい記憶なんだけど、私のファーストキスの相手、あいつなのよね」
とイレーネが言ったところで、会話が途絶えた。
かなり階段を昇ったところで、遠くから声が、いや赤ん坊の泣き声が聞こえて来た。
声のする方に進むイレーネとハンス。
その扉を開けると、そこには豪華なベビーベッド置かれていた。
その周囲を、王宮医師や看護師が取り囲んでいる。
「イレーネ王女、お見舞いに来てくださったのですか?」
イレーネに気付いた医師の一人がそう言った。
「さあ、おそばに来てやってくださいませ」
と侍女も言う。
そんな言葉に戸惑うイレーネ。
しかたなくベビーベッドに近寄ると、そこにいたのは熱があるのか、赤い顔をした小さな赤ん坊だった。
「さあ、ロベルト様、お姉さまがいらっしゃいましたよ」
と侍女。
「イレーネ王女、弟君は昨夜からお身体を崩しておいでです。どうかお見舞いを」
と周囲が口々に言った。
「弟?ですって?」
イレーネは呆然とたちすくんだ
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