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ポンコツ勇者と性格の悪い姫  作者: 明けの明星


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その後と氷の祭典

氷の王宮での「反乱」その翌日

「一緒に見ておきたいの?何を?」

氷の祭典に行こうというハンスのこの言葉に、イレーネは思わず聞き返した。

でもハンスは明確に答えることはなく、


「まあ、行けばわかりますよ」

と言っただけだった。


イレーネとハンスはクリスタルホテルのラウンジに向かった。

まずは朝食、それからだ、と二人の意見が同意した。


何度かここで食事をとっているが、今までとは雰囲気が微妙に違っている。

「なんだか、お目通りのシステム、当分中止になったらしいわよ」

という会話が聞こえていた。


そして、クリスタルホテルに宿泊していたこの地域の上流階級の宿泊客たちが、慌てて去って行っていた。

逃げていった、というほうが正解だ。

そういえば、朝早くから窓の下から馬車が慌ただしく行き来する音がしていた。


「あら、あなたは」

ラウンジの近くですれ違ったのは、昨夜のフィリップ殿下の誕生日会でいっしょだったリーゼだ。

数人の召使に囲まれ旅支度をしている。


「リーゼ?」

とイレーネが声をかける。


「まあ、お互いに無事でよかったわね、私はこれから家族と一緒に遠くへ行くわ。

ここはもう危ないから。急な勢力の変更なんて日常茶飯事よ、このあたりでは。

そのたび、私たちは移動してるってわけ。今回は国の反対側まで行く予定よ」

リーゼが口早に話した。


昨日までの上流階級が、翌日には敵対勢力をみなされる。

ここでは、そんなことが頻繁に起きているのだ。


「あなたに会うことももうないでしょうけど、元気でね」

そう言いながら召使にせかされてリーゼは去っていった。


去り際に、

「貴女は、誰なの?」

と言い残して。


「下剋上ってやつですね」

リーゼの後姿を見ながらハンスが言う。


「昨日まで強かったものが一夜にして底辺に落とされる、よくあることだ」

とハンスが続けた。


「権力を持つ者は常にそのことを意識しているわよ」

とイレーネ。

イレーネは幼い頃から、王である父から教え込まれていた。

権力は絶対ではないことを。


ラウンジのテーブルで朝食を食べる二人、そこにミセス・フロリナがやってきた。

「あら、お二人ともよくお休みになれましたか?」

そう言いながら。


「あの、大きなことが起きたはずなのに」

とイレーネがこっそりと聞いてみた。

氷の王宮での反乱、これは政権の転覆のはずなのに、多少のざわつきと「上流階級」が去ってしまったこと以外、いたっていつも通りなのだ。


「そうですね、皆あえて口には出しませんね。

ここにいる方々は多少の恩恵を受けられる皆さまばかりですからね」

とミセス・フロリナ。


そう言えば、周囲は海外からの旅行者に交じってつい先日まで「下級民」と呼ばれていた人種が混ざっていた。


「わたくしの生活も向上することでしょうからね」

とミセス・フロリナが安心したように言った。


「ところで、僕たち氷の祭典に行こうと思うのですが」

とハンスが言った途端、ミセス・フロリナがシッと声を小さくするように伝えた。


「氷の祭典は非公開の催しなんです。だから公には口に出すことはしないで」

と慌てて言った。


「そう言うわけね」

とイレーネ。

氷の祭典が周知されていないことに納得だ。


「でも、祭典の主催者側は自警団ですから、これからは大きなイベントになるでしょうね。では馬車を手配いたしますね、そのまま直行できますよ」

とミセス・フロリナ。


ミセス・フロリナのお陰で、氷の祭典会場に向かう馬車に乗っているイレーネとハンス。

乗合ではなく、二人だけの専用だった。


「ミセス・フロリナに感謝だね、あっという間に会場に着きそう」

とイレーネ。


しかしハンスは少しだけ、ミセス・フロリナの配慮に疑問を感じていた、

「僕たちに、いやイレーネに親切すぎる」

と。


馬車はほどなく氷の祭典会場、入り口に到着した。

御者が二人を降ろして、

「では、夕刻にはお迎えに上がります」

と言い残し去って行った。


氷の祭典の会場、ここは前にアンたちと来た時そのままだった。

相変わらず大勢の人でにぎわっている。


「まずは氷のレストランに行こう」

とイレーネ、

ジャン・ジールがアンやジール魔法団の研修生たちを「閉じ込めた」あのレストランだ。


もうあそこにはいないかもしれない、

ジャン・ジールが氷のレストランに戻ったのは昨夜の事だ。

もう、みんなを元に戻して、みんな帰っちゃったかもしれない。

そうだったら、


「さよなら」

って言えなかった。

アンにもジャン・ジールにも、みんなにも。

これから、女神の元に行き、そしてアデーレ王国に戻れば、

「もう会えない」

かもしれないのに。


イレーネはそんな思いを抱えながら、氷のレストランを目指していた。

時々、彼女は出会いと別れを考える。

なんで、あの時、ちゃんとさよなら、って言わなかったんだろう。

なんで、昨夜、ジャン・ジールと一緒に行かなかったんだろう。

人がいなくなっちゃうのはいつも突然、そんなことはわかっていたことなのに。

私はいつもそう言うところが「ドンクサイ」


氷のレストラン街は、いくつもの個室ブースが並んでいるエリアだ。

そのうちの一つ、アンや研修生たちがいたはずの個室に向かうイレーネ。


ドアの前で一瞬立ち止まった。

中はどうなっているのか、不安ですぐに開けられない。

それを感じたハンスが、ドアを開ける、イレーネに代わり。


「どんなことでも乗り切りましょう。僕たち二人で」

と言いながら。

ハンスはイレーネの心の動きをすべて察していたのだ。


すると、中からは。


大勢が食事をしながらどんちゃん騒ぎと繰り広げていた。

周囲は氷でできた極寒のブースなのに、熱気であふれている。


その真ん中あたりにいるのは、

「ジャン!」

そう言いながらイレーネが駆け寄った。


「おお、イレーネ、よく来たね」

赤い顔をしながらジャン・ジールが言った。


「昨夜から夜通し酒盛りだ。まあ、奴らにとっては時間は立っていないんだけどね」

ジャンが言うには、昨夜ここに戻り封印した氷のレストランを解放した。

封印されている間の記憶は、皆にはないのだ。


「え、アンも?夜更かしさせたの?」

とイレーネ。


「それに、ここの子たち、まだお酒を呑んじゃダメな年齢なんじゃないの?」

と続けざまに言うイレーネ。


「アンはあそこで眠っているよ、そりゃー年齢が足らない研修生はもちろん酒は飲んでない、

飲んでない、飲んでないぞ」

とジャン・ジール。


部屋の隅で眠っているアンを見て安心したイレーネ。

まあ、多少の酒盛りは大目に見るしかないようだ。


「いや、ジール魔法団本拠地の襲撃撃退記念ということで」

そう言われてしまえば、多少の酒盛り」は大目に見るしかないようだ。


「奇襲されたの?」

そう聞くイレーネに、


「ああ、想定通りだ。ドルーガの魔女メディアとその一派だ」

とジャン。


「気をつけろ」

と小さな声でイレーネに伝えた。

それの声は「酔いどれ」のものではなかった。



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