これから~1~
冬の国にいられるのもあとわずか
クリスタルホテルの客室で迎える朝、
まだ早い時間に目を覚ましたイレーネ。
隣のベッドにはハンスが寝ている。
大の字で。
一瞬、ぎょっとしたが自分から隣で寝てほしいと言った、それを思い出した。
い色々なことが起きた昨日、この部屋のテラスから夜空を見ていたら、なぜかとても切なく、寂しい気持ちになっていたのだ。
追い打ちをかけるように、お風呂に入っていた時の停電。
暗いのは嫌いだ。
一人ぼっちの夜を思い出すから。
こういう時、誰かが傍にいてくれる。
なんて心が穏やかになるのだろう。
もちろん、「誰か」というのは誰でもいいわけではないけれど。
ハンスを起こさないように静かにベッドを抜け出し、テラスに出るイレーネ。
朝日が昇ったばかりの澄み渡る空。
この空はアデーレ王国まで続いている。
しばらく空を見ていたイレーネが、身を震わせて部屋の中に戻ってきた。
晴れていても外気は冷たい。
薄手の夜着にガウンを羽織っただけではあっという間に体が冷えてしまう。
ハンスは先ほどからそんなイレーネの様子を、ベッドの中からぼんやりと眺めていた。
まだ起きだしたくはないが、目は覚めている。
イレーネは部屋に戻ると、ハンスのベッドに近づいた。
ハンスは慌てて目を閉じ、まだ寝てる素振りをする。
そんなハンスに近寄るイレーネ。
そして、
そして、ハンスの頬にそっとキスをした。
ハンスは、自分の頬にイレーネの唇の感触をそして吐息を感じていた。
しかし、そのまま身動きも出来ず、そのまま目を閉じて身を固くする。
やがてイレーネは洗面室へと向かう。
薄目を開けてそれを確認したハンス、ようやく大きく息をついた。
着替えを済ませ、洗面室からイレーネが戻ってきた。
ハンスはようやく起き上がり、
「おはようございます、イレーネ。随分と早起きですね」
と声をかけた。
「そうね、とてもよく寝たから早く起きちゃった。気持ちのいい朝よ」
とイレーネ。
ハンスもやっとベッドから起きだし、身支度を整える。
そんなハンスに、
「ねえ、これからどうするの?私たちもうあまり長くここにはいられないんでしょ?」
とイレーネが改まって聞いた。
イレーネも昨夜の星空に北斗七星を見つけていたのだ。
「そうですね、そろそろこの国を出ないと」
そう言うハンスに、
「次は認定試験の再試験。女神のところね」
イレーネが言う。
その表情は、不安と期待がいり混じっている、そんな表現がぴったりだ。
「でもその前に」
とハンス。
イレーネをしっかりと見つめながら。
「氷の祭典にいきませんか?」
「ここでの最後、お祭りっていうのもいいかもね」
とイレーネが答えたが、
「どうしても、貴女と一緒に見ておきたいものがあるんです」
とハンスが言った。
少し短めです。
応援していただけるとうれしいです。




