表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポンコツ勇者と性格の悪い姫  作者: 明けの明星


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

107/126

攻防、脱出、そして別れ

王宮から脱出し、そして。

イレーネがフィリップの手をひき、王宮の廊下をひた走る。

いつの間にか、王宮内部には大勢の「反乱軍」が攻め込んでいた。


応戦しているのは氷の宮殿の従者たち。

それも、特別な制服を着ている、「王の従者」ではない。

フィリップの言う通りだ。


王の従者はというと、いつのまにやら姿を消してどこにも見当たらない。

隠れてでもいるのだろうか。


「こっちだよ」

フィリップに言われて進むが、この宮殿はまるで迷路のようだ。


「北の門まであと少しだよ、そうすればそこには馬屋がある、イレーネは馬に乗れるの?」

とフィリップが言うので、


「まかせてよ」

とイレーネ。

乗馬は王女のたしなみだ。

北の門から出よう、これは事前にフィリップが言っていたことだ。


遠くから、

「皆さんはこちらへ」

と言う声がする。

ジャン・ジールの声だ。

誕生日会の会場にいた招待客をつれ、どこかに移動しようとしていた。


「ジャンが一緒ならもう安心ね」

とイレーネ。

だかその中にハンスの姿はない。

ハンスとは北の門で落ち合うことになっている。


廊下を進む所々で、「反乱軍」の攻撃に合うイレーネとフィリップ。

その都度、イレーネが聖剣フリージアで応戦する。

華麗な剣さばきだ。


そうこうしているうちに、二人はとある部屋の前にいた。

フィリップが北の門へ行く前に、ここに行かなければと言ったのだ。


部屋に入ると、そこにはハンスと偽イレーネ、ジャン・ジール、そして王の従者たち。

それからもう一人、自警団、総帥と言う男だ。


ほどなくして、この部屋からイレーネ、ハンス、そしてフィリップが出て来た。

遅れてジャン・ジールも。


「これでいいの?」

とイレーネ。


「まあいいって言ってるんだから、いいってことだよ」

とジャン・ジール。


反乱軍のリーダーでもある総帥、彼がフィリップを解放するというのだ。

そのままどこにでも行けばいいと。


この氷の王宮は「偽イレーネ」が新たな女王となる

そして、側近となるのは反乱軍の幹部、そして王の従者。


イレーネは偽イレーネとなりここにいる、ホワイトダンスを一緒に踊ったライラに話しかけた。

「ねえ、あなたライラよね。あの時、誰かのお嫁さんになったんじゃないの?」


ライラもイレーネを見て、

「そういうあたなは、イーリアさんよね。なぜここに?私はイレーネ王女の身代わりでここにいるの」

というライラ。


「イレーネ王女の名を語ったのは致し方なかったんだ。王女の名を出さねばここには招待されなかった」

とライラに寄り添う総帥が言う。


「ライラ、もういい。君はもうライラに戻るんだ」

と総帥がライラに言う。


「でも、私はこの氷の王宮の女王になる」

とライラ。


「あなたたちの王として」


総帥の話によると、ライラはかつての王族の末裔なのだそうだ。

らいらの先祖は没落し、北の国の片隅でひっそりと暮らしていた、そしてライラもまた

田舎から出たこともない村の娘だった。

「氷の王宮には新しい君主が必要だ」

と総帥。


「だから私はここにいるわ、イーリア。飾り物女王でもいいの。

田舎の小娘が、女王になれたんだもの」


北の門に着いたイレーネたち。

少しの後味の悪さを感じながら、馬に乗りフィリップの家を目指した。

ダウンタウン・バッドの路地裏だ。


ロージーマリーの家に着いた。

そっとドアを開けるフィリップ。


中にいたロージーマリーが振り返り、フィリップを見た。

静かに抱き合う二人。


「お帰りなさい」

「ただいま、ママ」


「大きくなって」

とロージーマリー。

王として連れて行かれた時から比べるとずっと成長している。


そしてイレーネに向かって、

「本当にフィリップを連れ戻してくれたのね。わかってくれてありがとう」

そう言うロージーマリー。


「ロージーマリー、なぜ私に魔法をかけなかったの?」

とイレーネ。


魔女であるロージーマリーなら、フィリップを連れ戻すように命ずる魔法をかけるなんて簡単だ。

でも洗面台でフィリップの写真を見た時もそんな気配は感じられなかった。


「貴女には魔法は必要ないと思ったのよ」

とロージーマリー。


「これからどうするの?」

イレーネが聞く。


「フィリップが戻ってきてくれて、やっと二人の生活が出来るわ。

でも生活に大きな変わりはないわ。センターシティで仕事をしてこの路地裏で暮らすの。今まで通りにね、生活は少しは良くなるかしら。この地域の自警団が王宮の幹部となるんだから」

ロージーマリーには氷の王宮で起きたことがわかっていた。


「これから、平穏に暮らせるのですか?」

とハンスも聞く。


「もちろんよ、私たちはごく普通の母子、それ以外の何者でもないわ」

ロージーマリーは笑って言う。


「確かに私は魔女よ、でもその前にこの子のママだから」

と付け加えた。

ロージーマリーの力なら、それくらいの偽装は簡単だ。


「じゃあ、そろそろ僕たちも行こう」

とジャン・ジールが声をかけた。

すると、イレーネの前に進み出たフィリップが、


「イレーネ、お願いがある」

と声をかけた。


「いつか君は僕のお嫁さんになってくれる?」

とはっきりと言い放つフィリップ。


「おい、求婚だぞ」

とジャン・ジール。

ハンスも一瞬たじろいでフィリップとイレーネの両方を見る。


イレーネは優しくフィリップを抱きしめ

「フィリップのことは大好きだけど、あなたのお嫁さんにはなれない。

あなたがお嫁さんを迎えるにふさわしい年ごろになったときには私なんかには興味がなくなっているわ。

そして、あなたにふさわしい女の子と出会うはずよ」

と静かに言った。


少しだけうつむくフィリップ。

その肩をロジ―マリーが引き寄せていた。


「じゃあ、別のお願い。貴女は世界一、素敵で幸せな王女様に、そして女王になってね」

そういうフィリップにイレーネはうなずいていた。


「約束するわ」


ロージーマリー、そしてフィリップと別れを告げて、センターシティのクリスタルホテルに戻るイレーネ達。

別離は寂しいが、三人の顔は皆晴れやかだ。

フィリップとロージーマリーのこれからが明るいことがわかっているから。


「僕はそのまま氷の祭典会場に行くよ。あいつらを解放してやらなと」

とジャン・ジール。


クリスタルホテルに着くと、ミセス・フロリナが出迎えてくれた。

氷の王宮で反乱がおきたことは皆知っていた。


「よかった無事だったのね」

とイレーネに言う。

イレーネの姿を見て多少驚いてはいたが。


「ミセス・フロリナ、ごめんなさい、選んでくれたドレス、王宮で脱いじゃったの。

動きにくかったから」

と言うイレーネに、


「じゃあ、今度はもう少しカジュアルなお洋服を選びましょう」

とミセス・フロリナ。

その目はとても優しい。


「今日はお疲れになったでしょう。まずはお部屋でゆっくりとお休みになってくださいね」

ミセス・フロリナが部屋の鍵を持ってきてくれた。


イレーネ、ハンス、ジャン・ジールの三人で、5階の客室に向かった。

ここはベッドが二つのツインルームだ。


「では、僕はこのまま氷の祭典に行きます。氷のレストランに閉じ込めた、あいつらを一刻も早く解放してやりたいから」

そう言うと、ジャン・ジールは窓から外にむかって消えて行った。


部屋に残されたイレーネとハンス。

「この部屋でイレーネとジャン・ジールは一緒に泊まったんだ」

とハンスは思う。

複雑な心境だ。


「じゃ、ハンスはテラスで寝てね」

とイレーネ。


「テラス?」

この寒さの中で?


「こんなに気温が低いのに、テラスなんかで寝たら凍え死にしちゃいますよ」

とイレーネに言う。


「だって、ジャン・ジールはテラスで寝袋にくるまってたもん」

とイレーネ。


ハンスはジャン・ジールはこの部屋には泊まらず、テラスで寝たのだと理解した。

イレーネの隣のベッドに寝たわけではないんだ。

そう思いほっとするハンス。


こころは暖かくなったが、テラスで眠るのはとても無理だ。


「イレーネ、お願いだから部屋の中で寝させてよ。

ソファでいいから」

とハンスはイレーネに懇願していた。




応援していただけるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ