第一の運命との対決
少々遅れてしまいました…。
ついにこの時がやってきた。ジル様が魔法で襲われるであろうパーティに参加すべく、私は今馬車で揺られている。
事件が起こるのは今夜。私とジル様が初めて参加する夜会だ。
10歳と言ったらまだまだ子供で、普通の貴族の子供は夜には参加できない。けれど、王族とその関係者はその限りではない。基本的には14、15歳から参加するものが多いが、王族は貴族に顔を覚えさせるためなどもあり10歳の誕生日パーティが初の社交界となる。そして婚約者である私も婚約の発表もかねて一緒に社交界に出ることになる。
本当はとてもめでたく嬉しいことなのだけど、ジル様が危ない目にあうかもしれないと思うと浮かれてなどいられない。
「お嬢様、会場に到着いたしました。」
アンの言葉にハッとして、暗い顔は似合わないと気合を入れなおす。
今の私は淡い水色のプリンセスラインのドレスにジル様の髪と瞳の色である金と青い宝石の首飾りをしている。ジル様の誕生日だが、私の社交界入りと婚約発表も兼ねているからとジル様が下さったものだ。こんな暗い顔をしていればジル様ががっかりしてしまう。
本来なら婚約者がいるものは婚約者とともに会場に行くのが普通であるけれど、ジル様は今日の主役だ。会場には陛下とともに参加者がそろってから顔を見せるので、今回のエスコートはお父様にお願いした。
「アイリーン、大丈夫だ。緊張しなくてもいい。お前のダンスはそこいらの貴族とは比べ物にならないくらい素晴らしいのだから。」
緊張したような顔をしていたからかお父様に励まされた。実際は別のことを考えていたのだが、お父様はジル様と2人で皆が注目する中ダンスを一緒に踊らなければいけないから緊張していると思ったのだろう。まぁそれもあるけどね。
「はい、お父様。トレイドル家の恥にならぬようしっかり務めを果たしてまいりますわ。」
「頼もしいよ。」
お父様はお母様よりもましだけれど、かなりの親バカだ。家では私の晴れ姿だなんだとデレデレ顔を晒していたが今はキリッとかっこいい。
お父様とともに集まった他の貴族に挨拶をしていく。この後に婚約発表があるけれど、私が婚約者であることは周知の事実であるので、お父様と親交のある貴族は「早いですが先にお祝いを」と祝いの言葉をくださる方もいた。
そうして過ごしていると、陛下が登場される合図の鐘が鳴り響いた。騒がしかった会場はシンと静まり返る。
貴族たちが今か今かと見守る中、陛下とともにジル様が登場され、陛下が口を開いた。
「皆の者、よく来てくれた。今日は我が息子であり皇太子であるジルベールが、10歳となる。今日はそんな息子の祝いの席に来てくれたことを嬉しく思う。ジルベール、皆に挨拶を。」
陛下には少し息子を気遣う温かみのある声が宿り、その声に促されジル様が一歩前に出る。
「皆様、本日は私のためにお集まりいただき感謝いたします。大人と呼ぶにはまだ早く、幼い我が身ではございますが、皇太子としての務めを果たしてまいりたいと思います。ーーーそして、僭越ながら、この場をお借りして紹介したいものがおります。」
そっとジル様が私の方を見、そっと手を差し出す。これは事前に聞いていたことだ。ジル様の挨拶の際に私の紹介をする。私はジル様の傍に足を進め、会場にいる貴族たちの前に立つ。
「こちらはアイリーン・トレイドル。知っているものも多いでしょうが、此度私と婚約を結ぶこととなりました。我々を見守っていただけると嬉しく思います。」
挨拶を終えると盛大な拍手の波が押し寄せた。ジル様は皇太子の名に恥じぬ優秀な方であるので多くの貴族がジル様を支持し、祝福をしている証だ。私がこのような方の横に立てるのはヒロインがくるまでの間、今だけ、そう思っても、とても嬉しい。
でもいつまでも喜んでるだけじゃいけないのよね。あの事件では怪我をしたのはアイリーンとジル様だけ、その状況から考えると一番狙いやすいのはこの後のダンスのタイミングだろう。全員が2人に注目している間がたくらみ事をするには案外一番気づかれにくい。回想のスチルでも2人の周囲の人は近くにいなかったはずだし…。
「イリー、難しい顔をしてどうした?」
ジル様が心配そうに声をかけてくれる。事件について考えたらまた顔に出ていたようだ。
「えっと…この後、皆様の前で踊ると思うと緊張してしまって。」
ジル様が襲われるなんて言えるわけがない。そんなことを言えば私たちの家がたくらんだのではないかと疑われてしまう。ダンスに緊張していたのも事実であるのでそう伝えた。
「そうか、確かにこんな大勢の前では初めてだものな。俺も緊張する。でも大丈夫、俺達には四つ葉のクローブがあるから。」
そう言って殿下は私の作ったハンカチを見せてくれた。
「持っていてくださったのですね。」
「当たり前だろ。イリーが私を守るためにと作ってくれたものだ。肌身離さず持っているに決まっているだろ。」
「とても…嬉しいですわ。」
嬉しい…そんなことを言われると、ついつい頬を緩めてしまう。
「…イリーを皆に早くみせびらかしたいと思っていたが、少しもったいないな…」
何か呟いたジル様はどこか照れたような表情をして、顔をそらした。そして一つ咳ばらいをすると私に手を伸ばした。
「時間だな。では、一曲私と踊ってくださいますか。私の愛しい婚約者殿。」
「はい、喜んでお受けいたしますわ。」
会場が音楽に包まれ、私たちだけがその中で踊る。ほぅという感嘆の声や黄色い声が遠くの方で聞こえる。
優しくリードしてくれるジル様とのダンスはとても踊りやすい。この幸せなときがずっと流れていたらいいのに…。
そう願っていた。
しかしそんなものは運命にはかなわないのだろう。
…きた。
誰かがジル様を狙っている。気配察知の魔法を学んでいたこともあったからか、案外わかりやすかった。こんなにも明らかな敵意がまだ10歳になったばかりのジル様に向けられていると思うと、王家という立場の重さが嫌というほどわかる。ゲームのアイリーンはわからなかったけど、きっと騎士の人とかはこの嫌な気配を感じてもう動き出しているのではないだろうか。
ダンスも終盤にさしかかったとき、強い光が迫ってくるのがみえた。
「イリー「ジル様!!!」」
視界にとらえた雷の魔法に対してジル様が私を庇うために体を抱き寄せるのを私は力いっぱい押した。本当なら私も避ける気でいたのだが、衝撃で折れてしまったヒールでバランスを崩し、私は魔法をよけきれなかった。
「・・・-!!!イリーっ!!!イリー!!!!」
あぁ…ジル様が叫んでいる…。
「殿下が怪我をなさっている早く治癒師を呼べ。早く治療を!!」
怪我…?ジル様は怪我をしているの?力いっぱい押したのに庇いきれなかった?
暗い表情をしたゲームのジル様が頭によぎる。
…いけない、早くジル様を治癒しなければ…。ジル様が王にふさわしくないのではないかなんて悩まなくてもいいように…。
「ウッ。」
体が痛くて動けない…。動いて…。
ジル様、早くジル様を…。
「俺はいい!早くイリーに治癒をしろ!!」
誰かが私を抱きかかえる。
あぁこれはジル様の匂いだ。これならジル様に治癒魔法をかけられる。どんな怪我かわからないからイメージがしにくいけれど…。応急処置くらいならできる?せめて痛みだけでも…。
「…ジル様、怪我を…」
「あぁわかっている。すぐに治癒師がくるはずだ。そうすればイリーの治癒ができ「…ジル様の怪我を…早く…治さなくては…。ジル様の…。」」
「俺はいい!!!君の方が何倍もひどい怪我じゃないか!頼むから…俺の前からいなくなるなよ……。」
ジル様が何かを呟いたが私にその言葉は届かなかった。痛みで遠のく意識の中、その意識が途絶えるまで、ただ治癒魔法をジル様にかけ続けていた…。
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ありがとうございます。
作者のお花畑な脳内にようこそおいでくださいました。喜びと緊張を感じつつ、今後も書けていけたらと思っております。




