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盲目の悪役令嬢  作者: 桜木風
10/11

はじまる物語

皆様お待たせしました。

ついにゲーム開始の時がやってきました。

 

ガタン


馬車に揺られ、私は学園に向かっている。



 時がたつのは早い。

 私ももう15歳だ。そして数日後には貴院学園の入学式もある。ついにこの時が来た。学園生活の始まり…つまりそれはゲームのSTARTを意味する。



 辺境の男爵令嬢のヒロインはお茶会などにめったに参加できず、彼女は王都に友人が少ない。そんな中一人で心細く学院に来る。ヒロインは寮へ向かおうとするが広い学院内で迷子になってしまう。そこに現れ、寮に連れて行ってくれるのが同じ日に入寮したジル様だ。


 なんだかんだ結構覚えてるものね…


周回するために飛ばされがちな始まりのこのシーンを、私はスキップせずに毎回律儀に観ていたせいもあるのかもしれない。


 あのスチルのジル様かっこよかったなぁ。ヒロインに対して王族とは思えない親しげな様子で、手を差し伸べて言うの。


「さぁ俺が寮まで案内しよう。行くぞイリー。」


 そうこんな感じ……ってなんで私がイベントもどきをしてるの?ヒロインに起こるイベントよね?実際の姿は見ることができないけど鍛えた探査魔法でジル様が手を出しているのはわかる。セリフも同じ…。うん…やっぱりこれジル様との出会いイベントだよね???



「…ありがとうございます。ジル様。」



 そんなことを考えていると悟られぬよう、いつも通りにジル様の手を取り横に並ぶ。まぁジル様のご好意をむげにはできないし、いっか…。それに一緒に入寮のために学園へきている段階でもうゲームとは違うのよね。


 ゲームではアイリーンはジル様と一緒にいなかった。ジル様も一人で入寮するつもりだったとヒロインに言っていたはずだ。

 じゃないと初めからアイリーンに突き飛ばされるだろうしな…。イベントが成立しないものね。


 それではなぜ私がジル様と一緒に学園に来ているかというと・・・・

『「イリー入寮の日はいつだ?俺とともに行こう。」

「え、いいのですか?(ゲームではジル様1人だったよね?)」

「いくら魔法で物の位置がわかると言っても広い範囲は見えないのだろう。それに初めての場所ではどちらが寮につながる道かイリーはわからないだろう。」

「(う~んヒロインとの出会いイベントに何か問題でも起こらないかな、それに私にはアンがついてるから大丈夫だと思うし…)寮まではアンが「それでは殿下が案内をされている間に私とセバス様で手続きの方をいたしておきますわ。お嬢様は殿下と2人で寮まで足をお運びください!!!」」』

 ・・・・という会話が数日前にあったからだ。あの時のアンの勢いはすごかった。



「黙って何を考えているんだ?」

「えっ」

「俺とともにいるのに考え事か?」



 急にジル様が腰に手をまわして密着するようにエスコートを始めた。ジル様がこういうことをするときは基本的にほっとかれて拗ねている時だ。いつからか拗ねるとこういう態度をとるようになったのだが、急にされると本当に心臓に悪い。密着というのはやめていただきたい…。15歳になったジル様の容姿は実際には見ることはできないけれど、あのゲームの時のように格好良くなっているのだろう。明らかに背も高くなっているとわかる。最後にみた10歳のジル様からどれだけ成長したのだろう。



「ジル様が大きくなったなぁと思っておりました。」

「む…その言い方はまるで母上のようだぞ。」


 少しむっとしたようにジル様が返してくる。


「でも事実ですわ。今この腰に回されている手も、上から聞こえる声も私自身の感覚でジル様の成長を感じております。まぁ格好良くなられたでしょうお顔を拝見できないのは少し残念ですが。」



 少しおどけていってみせると、ジル様の手の力が強くなりさらに密着される。



「あぁ見せられないのが残念だ。いつかイリーの目を治したら真っ先に見せてやろう。だが、格好良すぎて直視できないかもしれないがな。」



 最近は目のことを話しても、ジル様もこんな風に冗談で返してくださるようになった。これも成長かしらね。


 密着しすぎているのはちょっとどうかと思うけど、まぁこの人はきっと人よりもパーソナルスペースが狭いのだろう。こちらとしては恥ずかしいやらドキドキしてしまうやら、精神的攻撃力が高いから、あまりしてほしくはないんだけど…。



「ほらついたぞ。」

「あら、意外と近いのですね。」

「学園の学び舎の方まで先に馬車で来ていたからな。門からは遠いが、学園は徒歩で行き来できるように近く設計されているんだ。」

「そうでしたのね。私てっきり門から歩いているのかと思いましたわ。」

「歩いてみてもいいかもしれないがなかなかの距離だぞ?入寮の日は忙しいしそんなことをするバカはいないだろう。 だがまぁ寮と門の間に池やら丘やらがあったはずだ。本当はイリーと寄ろうかとも思っていたんだが、イリーを見ていたら御者に声をかけるのを忘れてしまってな。今度一緒に散歩にでも行こう。」

「みて…コホン…では今度連れて行ってくださいまし。」

「あぁもちろんだ。」



「寮の前でイチャつかないでくださいますか。殿下、アイリーン嬢。」



 ジル様と話していると溜息をつきながら声をかけられた。


「…その声は、ミシェル様ですか?」

「はい、しばらくぶりですアイリーン嬢。覚えていていただき光栄です。殿下は昨日ぶりですね。」

「…あぁ。」


 ちょっと不機嫌そうなジル様の返事にミシェル様はまた大きめの溜息を吐いた。ミシェル様は我がトレイドル公爵家に並ぶ、デリプール公爵家の嫡男で、ジル様のご友人の一人だ。背はジル様と同じくらい。うーんおそらく攻略対象だとは思うのだけどジル様のルート以外ちゃんと覚えてないからわからないのよね。


まぁこういうゲームでは側近も攻略対象なんてことはよくある話だ。私はジル様ルートの悪役だが他の攻略者や悪役もいる。ジル様のことで頭がいっぱいだったが学園に来た以上は彼らにも注意をしないといけないな…。


「少し邪魔されたからと不機嫌にならないでください殿下、あなたはもっと人目というものを気にした方がいい。大勢の生徒がいる前なのですから自重してください。殿下がもっと気を付けるべきでしょう。アイリーン嬢も殿下を少し甘やかしすぎです。」

「え?」


考え事をしていたらミシェル様の言葉を聞き逃してしまった。


「あなたが甘やかすから殿下が調子に乗るのですよ。このままではアイリーン嬢を膝にのせられたまま講義を受けるなんて言い出しかねませんよ?」

「それは…困りますね…。」

「今日だけでなくこれからは毎日多くの生徒が周りにいるのですから、ふさわしい行動と態度を意識してください。」


 怒られてしまった…そうか、今日からは周りに大勢いる生活が当たり前になるのだ。先ほどの殿下とのやり取りも大勢に…急に恥ずかしくなってきてしまった…。



「ほら、アイリーン嬢が恥ずかしがっていらっしゃるじゃないですか。」

「お前が言わなければそうはならなかっただろう。それにこれは牽制も兼ねているんだ。イリーに余計な虫がつかないようにな。それに後で俺から言うつもりではあったよ。だがここでいう必要はなかった。…それこそ余計な虫がついてしまう。この真っ赤な様子を見るのは俺だけでいいんだ…。」


 ジル様の最後の言葉は小さく聞き取れなかったが、ミシェル様が教えてくださってよかったと思う。学園には王宮より人が多いからジル様のスキンシップは気を付けなければいけない。わかっていたようで注意が足りなかった。


「本当に殿下は相変わらず…。アイリーン嬢、本当に殿下に任せるのはやめた方がいいですよ。いつか襲われます。」

「え?あぁはいわかりましたわ。」


 よくわからないけど反射的に答えてしまった。襲われるとはどういうことだろう。どっきりでも仕掛けられるということだろうか。はっ!!もしやこれが断罪のフラグ?!


「イリーに変なことを吹き込むなミシェル。」

「殿下がそんなだから代わりに俺が忠告しているのです。まぁあまり効いていないようですが…。アイリーン嬢は危機感というものが足りないようですね。このままでは別の輩にどうかされてしまいますよ殿下。」

「だから牽制していたのだろう。何度も言わせるな。 イリー、俺以外の男には触れられてはいけないからな。案内をするといっても俺かアン、もしくは信用できる令嬢の友人のみにしかついていってはいけないからな。絶対だぞ。」

「学院でも侍女を連れるのは認められていますし、基本的にはアンに案内してもらうつもりですが、友人でもですか?ミシェル様も?」

「絶対ダメだ。」


 知らない人にはついていくなということだと思うのだけど、なぜミシェル様のような友人もダメなのだろう。信用できない人ではないでしょうに…。でも別の攻略者には極力関わらない方がいいのかもしれない。


「わかりましたわ。他でもないジル様のおっしゃることですし、気を付けるようにしますわ。でも少し子ども扱いされているようですわ。私知らない人についていくようなおバカさんではありませんもの。」

「子ども扱いなどしていない。…むしろ逆なんだが……イリーは少し無防備すぎるから…何でもない。約束さえ守ってくれれば俺は安心できるんだ。わかったか?」

「ジル様がそれで心穏やかに過ごせるならそう致しますわ。」

「それでいい。俺も迎えに行くようにするから。」

「いえ、ジル様のお手を煩わせてしまうわけにはまいりませんわ。」

「いやそうでなく」

「大丈夫ですわジル様、ジル様はご予定も多いでしょうし私なんかに時間を割かなくてもよいのです。ひとつ我儘を言うなら何かあったら抱え込まずに相談してくださいね。」

「…あぁわかった。」




「ああ、なるほどこれは…。殿下がそこまでしてしまう理由の一つを垣間見た気がします。鈍いというかなんというか…。」




 かすかにミシェル様は笑っていたようだが、何がおかしな事でもあったのかな。


 アンが戻ってきてその日はジル様とも別れ、私は女子寮に入寮した。




 さぁ乙女ゲームはついに始まった…のだろうか?ヒロインらしき人物と会わなかったな。

学園生活が始まればわかるだろうか。


これからの不安を少し抱きつつ、この日は眠りについた。学園の寮の部屋は狭い部屋をと頼み込んでいたので、懐かしい広さに今の実家よりも熟睡した。






お読みいただきありがとうございます。

今後も更新が不定期になり、長くお待たせすることもあると思いますが、完結まで頑張っていきますので暖かく見守ってくださると嬉しいです。

ちなみにミシェル様は紺色の髪に眼鏡のインテリイケメンです。

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