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白くなったキャンバスに再び思い出が描かれるように  作者: さかき原 枝都は
白くなったキャンバスに再び思い出が描かれるように
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運命の悪戯***Ⅱ 探す

     ***Ⅱ 探す***

 

 今日の講義は3つ、今日一つ目の講義は10時から始まる。終わりは4時過ぎになるだろう。今日の一つ目と三つ目の講義はどうしても外せない科目だ。この講義はレポートの提出だけは単位は取得できない。ましてこの講義は代返を頼んでも、後で窮地に立たされるのは僕自身であることをよく理解している。でも、二つ目の講義はレポートさえ提出していれば確実に単位はもらえる。


 僕は二つ目の講義をさぼった。そして、教育学部のある校舎へ足を向けた。


 初めて入る学部の校舎、同じ大学なのに学部が違うと、その雰囲気や空気まで違うように感じられた。


 きょろきょろしながら廊下を歩き、目に付いた何人かに 3年の今村沙織が今何処にいるか訊いた。でも、芸能人学生の様に名が知れ渡っている訳でもなく、彼女を知っている学生はいなかった。


 諦めて校舎を出ようとした時、後ろから呼び止められた。


 「ちょっと、沙織の事訊き回っているのは貴方」


 振り向くとそこには、肩まである髪に緩いパーマをかけたような、癖っけのある髪の女性が立っていた。


 「あ、沙織さんの事ご存知なんですか」


 僕は何気なくその女性に彼女を訊いた。


 すると、その女性は眉をキッとさせ強い口調で僕へ向かい言い放つ


 「貴方、沙織の事訊き回って沙織をどうしようとしてんの」


 その声に近くにいる学生達が足を止め、その視線を全て僕に向けさせた。


 「ど、どうしようって、僕はただ今村さんがこの教育学部にいるって訊いたから、その、何て言うか……」


 しどろもどろになる僕と、それを足を止めて見る学生たち。この光景に、その彼女もさすがに罰が悪そうにして。

 「ちょっと貴方こっちに来て」


 僕の手首をギュッと攫み、人気の少ない校舎横の中庭に連れ出した。


 そして、相変わらずきつい口調で


 「貴方うちの学生、何処の学部なの。どうして沙織に付き纏うの。どうして……」


 彼女はまるでマシンガンの様に次々と僕に質問を浴びさせる。


 止め処もなく話す彼女に


 「ちょっと待った。君何か勘違いしてない」


 彼女の攻撃を止めた。

 「か、勘違いって、何よ。それはそうと、貴方は誰なの」


 「僕は、亜咲達哉。この大学の文学部3年。僕は……」


 彼女に、事の経緯を話した。


 昨日、偶然今村沙織さんに出会い、僕の書いた小説を読んでもらって、彼女が同じ大学の教育学部に居るって言ってたから、その、挨拶にでもと思って連絡もしなかったのは悪かったけど、会えるかと思って探していた事を。

 それを訊いて彼女は腹を抱えて


 「ハハハ、そ、それじゃ貴方だったのね、沙織が言っていた小説家の卵さんって」


 「え、沙織さん何か言っていましたか」


 彼女はさっきまでのきつい口調から、サバサバとして何処となく人懐っこい話し方で


 「ええ、昨日の夜にSNSで沙織が言っていたわ。今日、何だか一緒にいると、とても暖かく感じる小説家の卵さんに出会ったって」


 「えっ、それって」


 僕は少しきょとんとして

 「面白いお話しを読ませてもらったて言っていたわ。あの子、本読むの好きだから、沙織が一目見て読みたがる小説を書く人って、どんな人かと思ってた」


 そうなんだ彼女、今村沙織さんはただの興味だけで、僕の小説を面白いって言ったんじゃないんだ。


 そう彼女が想ってくれた事がとても嬉しかった。


 「それで、今村沙織さんは今日は何処に」


 僕は彼女の居場所を訊こうとした。


 すると


 「沙織、今日は来てないわよ」


 そっかぁ、彼女今日は講義なかったんだ。そう勝手に思い込んだ。


 「沙織、今日朝から具合悪くて休んだのよ。おかげで今日は私2回も代返よ。ばれるかと思ってひやひやしたけどね」


 その顔は、ちょっとはにかんだお茶目と言った感じだった。


 「そうそう私、美津那みつな 那月なつきみんなナッキて呼んでるわ。沙織の親友、さっきはごめんなさい」


 彼女は、スポーツマンの様にきりっとした態度で軽く頭を下げた。


 そして腕時計を見て


 「あっいけない、もうじき次の講義が始まっちゃう」


 そう言って校舎の方へ駆け足で向かった。途中、足を止めて振り返り大声で


 「亜咲君て言ったけ、もしかしたらあんたと沙織意外とお似合いかもね」


 屈託のない子供のような笑顔で校舎に消えた。


 一人中庭に残った僕は、彼女の言った「お似合いかもね」が頭の中でコダマしていた。顔が赤くなるのを感じながら。


 そのあとの受けた講義は、意外と早く終わっ様に感じた。と、言うよりも「お似合い」と言う言葉をずっと頭の中で双幅させながら、「ふう」とため息をついたり、時には顔を赤らめたり、我ながらその想像力はたくましいものだと感じた。


 さぞかし、僕の近くで講義を受けていた奴は、僕の事を何処かおかしい奴だと感じていたに違いない。


 それはそれで、僕にとっては知ったこっちゃない。


 サークルの定例ミーティング。ドアを開けるとミーティングはすでに始まっていた。


 僕は今回の議長である部長に軽く会釈をして席に着いた。


 部長が議長を務める今回の議題は、学園祭で出版する文芸誌についてだった。


 文芸サークル。正確にこの大学では文芸部と言う位置にある。だが、文芸と言えばタダでさえ肩ぐるしいイメージがある。部活となればなおさらだ。そんなイメージを和らげ、少しでも興味のある部員を獲得するために、3年前から表向きサークルと銘打っているらしい。だから、出席についてそんなに厳しくはない。


 それに、サークルと名乗る事でそれなりのメリットもあるらしい。


 一部非公式的な活動もしている為、インカレサークル(他の大学から参加して活動を共にするサークル体制)的な部分もある。もっぱら来るのは自校に文芸部がない奴らばかりだ。


 その影響もあり、ここ数年文芸小説とはかけ離れた、ラノベ小説がこの文芸サークルの花形になりつつある。

 時代の移り変わりと共に、そのかたちは変わりつつある。


 「遅ーじゃねーか亜咲」


 「悪りぃ、講義がこの時間までだったんだ」


 僕の隣で話しかけてきたのは、同期の「宮村みやむら 孝之たかゆき」彼は経済学部と学部は違うが、この大学に入学した頃からかなり親しくしている。いわば親友とも呼べる仲だ。


 そんな宮村も実を言う文学青年で、中学の時から小説の執筆活動をしている。


 宮村は文学青年ではあるが、その性格は明るく社交的で人見知りを感じさせないタイプ。しかもスポーツ万能、今でも各部から誘いが来ている。だからだろうか、彼は顔が広い。色んな人との人脈を持っている。合コンや飲み会となれば彼のリーダーシップは発揮される。


 そして彼が執筆する小説は、異世界物が支流でライトノベル向けの小説をよく執筆している。


 だからかも知れない。僕の執筆する恋愛小説の感想をいつも「こんなもんだろう」と返すのは。彼は小説の中では、あまり恋愛には興味が無いらしい。


 それでも、現実に彼には可愛い彼女がいる。


 「訊いたぜ亜咲。お前今日、教育学部で女探していたそうじゃないか。ようやくお前にも春が来たか」

 僕は動揺しながら


 「そ、そんなんじゃない」


 「おいおい、そんなに顔赤くして力まなくても、第一お前は女には奥手だからな。俺は安心してるんだよ、妄想の恋愛から現実の恋愛に目を向けたっていうところをな」


 「だから、宮村……」


 「そこ、私語は謹んでください」


 部長から注意の槍が刺される。


 宮村は小声で


 「今度飲みに行って詳しく訊かせろ」


 顔をニッとさせ、資料を見る振りをし始めた。

 

 手元にある資料には、今回出稿されるリストとその著者名、それに学園祭までのタイムスケジュールがびっしりと記載されていた。


 その中でも一番注目されるのが、部長である「有田ありた 優子ゆうこの作品だろう。


 彼女は学生でありながら、既にプロの作家として活躍している。


 数ある彼女の著書の中で、大きな大賞を受けた作品が2つ。彼女は今、もっともトレンディな若手作家として注目されている。


 聡明で美人な彼女は、小説作家を目指す僕らにとって憧れの存在である事は言うまでもない。


 彼女は今回、既に発売されている既存作品一点と、この文芸誌の為に書き下ろした中編作2点を寄贈した。


 この文芸誌に彼女の書き下ろし作品を載せると言う事は、この文芸誌の売り上げを考えての事だと僕は思った。同じようなことを考えている部員が、臆せず部長へ訊いた。


 「部長の書き下ろし作品が文芸誌に載ると、相当反響が大きいですよね」


 反響が大きい。いわば売れると言う事を遠回しに言いたかったのだろう。


 だが、彼女はこの問いに意外なことを返した。


 「私は今、作家として作品を執筆しています。当然、作品を出版するには、出版社の力を得る事が一番だと思っていました。でも執筆を重ね、いろんな状遇じょうぐうにあたり、その出版社だけに依存するのは、私自身これからの先が無いように思えてきました。今は、出版社意外にも数多くのアプローチの方法が存在知得ます。だから、自分が自信を持って出す作品だからこそ、今までと違ったアプローチも必要になると考えています。ですからから今回は、その一環でもあるのです」


 拍手が沸いた。


 実際に世に出す作品を執筆し、体感したからこそ言える事だと感じた。だが僕はまだ、彼女の足元にも及ばない作家志願者だ。彼女の話は遥か遠いことの様に思えた。


 ふと、誰かの視線を感じる。


 その視線の先に目をやると、部長の有田優子がニコッと微笑んだ。


 とっさに目を逸らした。その後、僕はただ資料を眺める事しか出来なかった。


 それから間もなくミーティングは終わった。


 バイトに向かう途中、電車の中で沙織さんからのメッセージに気が付いた。


 「今村沙織***今日は、学部にまで来て頂いたのに、休んでしまってごめんなさい。さっきナッキから連絡ありました。それと彼女の事、許してあげてください。彼女も私の事、心配しての事だと思います。普段はとてもいい子なんです。私の唯一の親友ですから」


 僕はすぐに返信をした。


 「僕は大丈夫ですよ。彼女も最後は解ってくれたようですし。それより、沙織さんの具合どうですか」

 送信してから僕はある事に気が付いた。彼女を彼女の名前で送った事に。


 昨日、彼女と初めて出会ったばかりなのに、名前で表記した事に「しまった」と思った。馴れ馴れしい男だと思ったに違いない。


 謝罪文を送ろうとした時、彼女からまたメッセージが届いた。 


 「今村沙織***ご心配頂きありがとうございます。大分よくなりました。明日は大学行けると思います。それと、私の事名前で呼んで頂いているんですね。嬉しいです。同い年の男性の方から名前で呼ばれるの、久しぶりだから少し恥ずかしいけど。私も、達哉さんとお呼びしても大丈夫ですか」 


 僕はふっと肩を落とした。彼女の文面からは嫌な雰囲気は感じられなかったから。


 それでも一言付け加えて


 「済みません。いきなり名前でお呼びするなんて失礼な事をして。僕の方は全然大丈夫です。達哉さんでも、達哉でも好きなように呼んでください」


 「今村沙織***ふふふ、そんなに気に為さらないでください。それにナッキから既に、達哉さんが私を名前で呼んでいたのを訊いていましたから」


 それを知って僕はまた「しまった」と思ったが、後の祭りだった。


 降りる駅が近づいてきた。


 「色んな意味を込めて、ありがとうございます。もう、バイトの時間なのでこれで失礼します」


 電車のドアが開き改札に向かう途中


 「今村沙織***アルバイトなさってるんですね。お仕事頑張ってください」


 彼女の「お仕事頑張ってください」の一言でまた顔が綻んでしまう。


 僕はじんわりと、胸の中が熱くなるのを感じながらバイト先へ向かった。



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