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白くなったキャンバスに再び思い出が描かれるように  作者: さかき原 枝都は
白くなったキャンバスに再び思い出が描かれるように
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ストーリー


  ***ストーリー***


 沙織を駅で見送りアパートへ向かい歩いた。


 たどり着いた、数日空けた僕の部屋はいつになくがらんとしている。沙織もいない、そしてさっきまでいたあの海と店のざわめき。まだ耳の奥でその音が聞こえている。


 バイトは今日と明日の2日連休。むこうでの体がまたここでの生活に物足りなさを感じさせた。


 「とりあえずシャワーを浴びよう」


 シャワーを浴びた後、書くことが出来なかった日記をまとめて書き綴る。


 ガラガラ、窓を開けた。見上げる雲がピンク色に染まっている。煙草に火を点けふうと煙を吐いた。


 今の時期にしては涼しい風が舞い込んできた。


 ふと沙織の事を思っていた。


 沙織は良く涙を流す。事あるごとに、それが彼女だと言えばそうかもしれない。そして一つ一つくだらない事でも一つでも思い出にしたい。ちょっとしたこと、毎日繰り返すちょっとしたしぐさを。

 

 彼女の中にある世界は、沙織はどんな世界にいるんだろう。


 そして事あるごとにする涙。 


 沙織は幸せだから。幸せだから出るんだよ。そう言っていた。


 沙織に触れたとき、たまにとても冷たく感じることがある。そして沙織の中から何かが消えてしまいそうな。


 沙織は自分を自分の中にある自分を、自分で刺すようなことがある。それは彼女自身感じていない事。無意識にやっている事。愛奈ちゃんのようなそんな感じではなく。自分ですべてが解りそれを恐れ刺し殺す。


だからとてもつらい。それを繰り返し……


 いつか沙織が僕の前から消えてしまいそうな……


 美野里と同じように、彼女も僕の前からいなくなってしまうのか。


 そんなことが、頭の中を駆け巡った。


 沙織との約束。


 もし見失ってもまた見つけ出せるように彼女の小説を書くと、約束した。


 でも、沙織が言う見失う事それは何を意味しているのは解らない。


 それから僕は沙織の小説に没頭した。


 僕は沙織の小説と言っているが、実際は少し違う。


 それは小説の中では沙織が二人いるからだ。彼女たちの名前はまだ決めていない。お互い違う名前にするつもりだ。


 一人は、この世界この現実の世界で成長し生きる沙織。そしてもう一人は、沙織と同じ生を受けた沙織。だがその沙織は遠い空でしか生を成すことが出来なかった。肉体もなく生きる心だけの沙織。  


 彼女は共に成長した自分をいつもいつも見続けている。


 これは、空にいる沙織が見た、もう一人の自分を描いた物語。


 なぜ、二人の沙織にしたのかは自分でもわからない。


 もしかしたら空にいる沙織は僕自身なのかもしれない。


 ストーリーは沙織が中学になるころから始まる設定。そして成長していくその描写をスポット的に抜粋し、短編連構成で組み立てる。


 どの場面まで描写するかはまだ決めていない。今、書ける部分を書いている。今書ける部品となる部分を書いている。


 そしてこの小説は主人公となる沙織の心の中をさらけ出すストリーでもある。人間の心理、それに伴う行動。喜怒哀楽この熟語がなす意味を掘り下げながら、それを沙織の心と照らし合わせて描写する。


 ストーリーの本筋は恋愛することの意味を投げかける内容にしようと考えている。沙織の成す恋愛で……


 プロット的に大枠が決まると、おのずと進んでいった。今まで見ていた考え方を変え角度を変え彼女の心の中を探る。自分なりに。


 夏休みの間書けるだけ書こうと思った。書けるとき少しでも一行でも多く。


 バイトと小説に没頭した。書くときはそれに専念した。沙織もそんな僕に協力してくれた。いろんなことを話して訊いて。嫌なことも楽しいことも悲しいこともさらけ出して話してくれた。


 そしてお互いの心は一つ一つ結び付いていった。


 出来た所を沙織に読ませてやると


 「ねぇねぇ、ここ違うよ。私はこう感じてたんだよ」


 「ええ、そんなとこ良く見ていたね。自分でも知らなかった」


 「うん、そう。だから私はあなたを好きになったと思う」


 「ちょっとぉ。勝手に盛らないでよ。私そんなんじゃない」


 「うん、わかった。じゃ、こうして……」


 彼女の言葉一つ一つで埋まっていった。僕一人で描く小説じゃない。


 僕たち二人で描く小説。愛する人に捧げるストーリだった。



 「達哉、ご飯で来たよ」


 「ああ、解った。いったん止めよう」


 テーブルには沙織が作った夕飯が並ばれていた。


 「お、美味そうじゃん。どれどれ」


 「美味しい」


 「うん、うまい」


 「良かった」沙織の口癖。


 椀を持ち味噌汁を啜る。一口啜る、二口啜る。そして三口啜る。


 うまい。ちゃんと丁寧に出汁を取ったしっかりとした味。


 「お味噌汁、どう」沙織が心配そうに僕を見つめる。


 僕は椀を置き、箸を置いて


 「沙織、頑張ったな」沙織にとって最高の褒め言葉だった。


 「ありがとう。達哉」幸せと言った笑みがこぼれる。


 「お袋、よく言ってたな。嫁にもらうなら、味噌汁がうまい人にしろって」


 「私、資格あるかなぁ」


 「十分に許容範囲に収まってるよ。味噌汁は」


 「ああ、それって、お味噌汁だけってこと」


 沙織はいつものようにプンとすねる。僕はその顔を見たいがために言う。沙織もそれを知っててプンとする。

 僕たち二人のいつもの日課になっている。


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