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白くなったキャンバスに再び思い出が描かれるように  作者: さかき原 枝都は
白くなったキャンバスに再び思い出が描かれるように
10/27

思い出になった夏休み***バイトヘルプ


***思い出になった夏休み***

   ***バイトヘルプ***  


 予定の講義日程、それに試験が入る。


 そんな中、僕は沙織さんをモチーフにした小説に取り掛かっていた。


 今良かったと思う、1,2年と詰めるだけ詰めて講義を入れ単位を取得していたことを。それにもういくつかの企業から内定を受けている奴も見られるようになった3年の夏。


僕ら大学生に取ってここからが実社会にデビューするオーディションが始まる。


 僕の所属する文学部の試験は7月の26日で終わる。それから補講期間が7日ある。僕が出席しなければいけない講義は7月中2日間だけだった。


 実質8月からは9月の末まで大学は夏季休業となる。


 あの日、沙織さんと僕のバイトするカフェに行った時、厨房で僕が彼女を連れてきたことで騒いでいると思っていたが、以外にもみんな冷静だった。


 次の日僕は沙織さんとの事を騒がれるのを覚悟してバイトに向かった。



 「亜咲、亜咲。こっちこっち」



 制服に着替えると僕は厨房の方へ呼ばれた。そうら来たと思っていたが「凄いな亜咲お前の彼女めちゃ可愛いし美人じゃん」厨房のメンバーも「俺も見たかったなぁ亜咲の彼女。また連れて来いよ」と言ってくれ、同じフロアパーサーの女の子も「はぁ、亜咲さんにもっと早くアプローチしておけばよかったなぁ。


でもあんなに可愛い人と知り合いなんだから、私なんか目にも掛けてくれないだろうけど」


 「…………」


 そこに恵梨佳さんと支配人が来て


 「みんなあなたの事を祝福してくれているのよ」恵梨佳さんが微笑んでいってくれた。そして昨日人気の席を支配人が抑えてくれたことに礼を言った。


 「済みませんあの時間に一番人気の席を抑えていただいて」


 すると支配人は


 「確かに私も指示しましたけど、あの席を知っておられるお客様も多くいらっしゃますし指定されればお通しするつもりでしたよ。でもフロアのみんなや厨房スタッフの協力でうまい具合にほかの席に誘導していたみたいですけどね」


 それを聞いて涙が出そうになった。沙織さんが言うように僕の傍には素晴らしい仲間がたくさんいた。そしてみんなに感謝を込めて


 「みんな、ありがとうございます」頭を下げて礼を言った。


 そして恵梨佳さんが締めるように


 「さ、みんなピークタイムよ。気合い入れていきましょ」


 みんな口をそろえて「ハイ」と返事をした。


 「それでは亜咲君よろしくお願いします」


 「ハイよろしくお願いします」と言って僕はホールへ向かった。



 

 沙織さんに好きだと言って一緒に朝を迎えてから僕はほとんど毎日のように沙織さんと会っている。


 あの日の朝、僕はいつものように起き上がり、僕の横で可愛い顔で寝ている沙織さんを起こさない様に朝食の準備をした。と言っても冷蔵庫にあるものであり合わせで作る朝食。


 出来上がったコーヒーをカップに注ぎ、ベットの前のテーブルに置いた。そして気持ちよさそうに寝ている沙織さんのほっぺに軽くキスをした。


 ううん、と言いながらゆっくりと目を開けた。


 「おはよ。コーヒー出来たよ」



 僕の声と次第に鮮明になる僕の姿を見て「ハッと」して起き上がった。そして今、自分の体に何も着けづ上半身の胸があらわになっているのに気づき、慌てて胸を隠すように毛布をたぐり寄せた。



 それを見て笑いながら僕は「目覚めましたか」と言うと頬を膨らませて「知らない」とすねた様にそっぽを向いた。その表情としぐさがたまらく可愛い。



 「朝食もう少しで出来るから、シャワー浴びておいで」


 沙織さんはそれを聞いて頷きながらあたりをきょろきょろ見回している。「どうした」と聞くと小さな声で「下着」と呟いた。


 僕はベットの端の方に服と一緒に綺麗に畳んであるのを指さして


 「覚えてないの。いきなり起きて服畳始めたと思ったら、またおやすみなさいって言って寝ちゃうんだもん」


 沙織さんは見る見るうちに赤くなり「ん、もう知らない」と言ってつかむ毛布を振り払う。



そして彼女の体があらわになった。思わずキスをして彼女の体を抱き抱える。



 今日の講義は?、彼女は無いと呟き僕もないと答えた。そしてまたキスをした。



 メニューに合わない味噌汁付きの朝食はお預けになった。


 今日はナッキから目覚まし電話なかったね。


 その日の昼過ぎ沙織さんは家に帰り、その後僕はバイトに向かった。



 試験勉強は、沙織さんとナッキを含め3人で行った。意外と共通する部分が多かったからだ。


 「達哉さんすごい。よくそんなこと知ってるね」と感心されたり、「伊達に小説書いてるんじゃないね亜咲君は」とナッキに言われ「お前らなぁ、これって二人ともやってるじゃん」と僕から言われ二人ともシュンとなったり。今までと違った春期の試験勉強試験期間だった。



 沙織さんたち教育学部の試験は28日まで、彼女たちの補講は4講義、どれも全部始めの方に予定されていた。

 僕は一足先に補講も終わり夏休みに入った。





 今、僕のバイトするカフェは従業員の数が通常の三分の一で店をまわしている。


それは今年会社の意向でビーチに海の家ならず、夏にオープンテラスを主体として営業できる新店をオープンさせたからだ。今ここにいないメンバーは新店の応援ヘルプへ駆り出されている。そんな時、僕は恵梨佳さんから呼び止められた。



 「あ、亜咲君ちょっといい」僕はトレーを置いて恵梨佳さんの所に行った。


 事務所に行くと恵梨佳さんはパソコンでシフトを作成していた。


 「恵梨佳さんなんですか」と訊くと


 「うーん、それがねさっき新店から連絡が来て、もう一人ヘルプ出せないかって。ほら、行っている子たちの休みが重なっちゃって、3日くらいでいいんだけど。それでね亜咲君はどうかなって」


 ちょっとすがる様な感じで恵梨佳さんは訊いてきた。


 「あ、無理にとは言わないわ、彼女との予定があるんだったらそっちを優先していいから」


 特別沙織さんとの予定も組んでいなかったから引き受けた。


 「ハイ大丈夫ですよ。特別予定もありませんから」


 恵梨佳さんは「ありがとう」と言った。


 「それでいつからですか」と訊くと8月の1から3日までと答えた、付け加えて


 「こっち2日から4日まで改装工事入るからお店休みになるんだけど、こっちのメンバーも少ない人員の中やっているから、みんなにお休みもやらないといけないし、ちょっと困ってたの。亜咲君引き受けてくれて助かっちゃった」


 そういえば前から告知の張り紙が掲示されていた。8月の2日と3日そして4日の3日間店内改装のため休業すると。


 その日、僕は沙織さんに新店にヘルプに行くことを伝えた。


 大学が休みになった僕の今日のシフトは早番だったから明るいうちにアパートに帰っていた。そこには、明日最後の補講を残した沙織さんもいた。


 「ええ、あさってからヘルプで行くの。でもいいなぁビーチの真ん前なんでしょ、私も行きたいなぁ」と羨ましがっていた。


 「でもビーチに遊びに行くんじゃないから大変だよ」


 「それもそうだけど……」


 ちょっと残念そうにしていた。


 「寂しいけど、お土産買ってくるから。あ、そうだ宮村にも連絡しておかないと」


 僕は宮村にもヘルプに行くことを伝えた。今はもうだいぶ落ち着いているが、もしもの為に……。


 「そういえば、最近ナッキの姿見えないな」


 「ああ、ナッキ。彼女9月に個人戦控えてるから、だから練習に励んでる」


 アーチェリー部のと訊くと「そ」と沙織さんは答えた。


 スマホの着信音が鳴った。見るとお袋からだった。


 準備の都合があるから今年の盆は帰るのかとの問い合わせだった。


 「ああ、お盆。まだ解んないよ、それに俺明日からバイト先で別の店にヘルプなんだ3日間だけど。うん、また近くになったら連絡するよ。ねぇ、後ろで泣いてるの咲良さくらちゃん、元気だねぇ」


 姉貴は去年、5年付き合った人とようやく結婚した。そして生まれたのが姪の咲良だ。8月で5か月になる。


 「あなたもこっちに返ってくると辛いのは分かるけど、たまには帰ってきなさい。解った」


 お袋はまだ美野里の事を引きずっていると思っている。


 「解ったよ。それじゃ兄さんにも宜しく言っといて」


 そう言って電話を切った。


 「お母さんから」と沙織さんは遠慮がちに聞いた。


 「うん、盆に帰ってくるかって」


 「どうするの」


 「その時にならないと解んないよ。どうせ家じゃ僕より姪の咲良ちゃんがメインなんだろうけどね」


 「そっかぁ」沙織さんは漏らすように言った。


 そして少し下を俯いて



 「あのね、達哉さん。私たちの事お母さんにばれちゃった」



 「えっ」


 別に悪いことをしている訳でもないのにドキッとした。


 「そ、それで」


 心配そうに訊くと沙織さんは笑って


 「大丈夫よ、怒られたり別れろなんて言わないから、家のお母さん。意外とオープンなのよ」


 「オープンだからって……」


 笑ってはいるが何か言われたことは確かなことだ。


 「最近ね、お母さんから何だかいつもうれしそうねって言われて、いきなり彼氏でも出来た?なんて訊くから思わず顔色変わっちゃったの。そうしたらお母さん、そうら図星ってまんまとはまっちゃった」


 「それでお母さんなんて」


 「よかっったねって」ホット肩を撫でおろした。 


 「それでね、それからが大変なの。弟の性格って多分お母さんの性格だったのね。くれぐれも今はちゃんと避妊してねだって。もう二十歳にもなる大人なんだけど、今はまだ学生なんだからって。


そしてね自分も、もう少し若ければいい男見つけに行くんだけどなぁだって、呆れちゃった」


 笑うしかなかった。沙織さんの弟君の事を思い出して、あの子ありのその親ありと思ってしまった。それを考えると意外と沙織さんもオープンな性格の持ち主なのかもしれない。


それをあまり表に出さないだけだろうと。



 そして少し娘の事が心配性のお父さんにはうまくいっておくと言ってくれたらしい。


 だから今よりは自由が利く様になったと喜んでいた。


 「いつも達哉さんと一緒にいたいから」と


 その日は二人で近所の商店街に夕食の材料を買いに行った。そして二人で今日の夕食を作った。


 「達哉さんて何でも出来ちゃうのね。お掃除に料理も上手だし。ほんと、いいお嫁さんになるわよ」


 あきれるように沙織さんが鍋を見ながら言った。


 「そんなことないよ。それに僕は嫁さんには行けないよ。まあ、婿だったら行けるけど」


 それを聞いて沙織さんは僕の手をつかんで



 「それじゃ今から私の家に行きましょ。婿に来ますからって」



 「おいおい、それじゃ押しかけ婿じゃないか」


 ハハハ、と笑いながら「わたしだったら今すぐにでも達哉さんのお嫁さんに行くんだけどなぁ」次の瞬間。彼女は「あっ」と声を漏らして二人の唇が重なった。そっと手を後ろに回しながら。


 コンロにかけていた鍋が噴いた。慌てて火を止めて二人で笑いあった。


 二人で夕食を食べる。今日、彼女の分の茶碗やら箸なんかを買い揃えた。お揃いのにしたかってけど、今度二人で一緒に選びに行こうと約束した、だから今は当座しのげるようなものを100均で買った。その内、彼女の着替えも来るのかもしれない。置き場所も用意しておこうと思った。



 夕食を食べながら


 「それじゃ達哉さんあさっての何時くらいに行くの」


 「それがさぁ。向こう初日が早番なんだ。だから前日の夜までにはホテルに入るようにだって」


 「ホテル?すごいリッチじゃない。なんか会社勤めの出張みたいね」


 沙織さんはそういうがバイトヘルプなのに、ホテルまで用意してくれている。会社の経費であることは確かなんだろうけどちょっと気が引けてしまう。それに僕は会社員になろうとは考えてはいない。あくまでも僕の目指す仕事は作家だ。


 次の日の夕方、沙織さんは駅で僕を見送ってくれた。


 明日から知らないところでバイト業務が始まる。



 

 

 その店は、どこかの海外リゾートにありそうな、お洒落で広いオープンテラスが望める店だった。このテラスだったらさぞかし映画の撮影なんかに使われるだろうと思うほどだった。 



 朝、朝礼で僕が紹介された。そして一言と


 「初めまして、3日間の短期ヘルプですけどよろしくお願いします」と簡単に済ませた。こういうのがとても苦手だ。


 海水浴シーズン真っ只中のビーチには溢れんばかりの人が来ていた。それはこの新店も同じだった。


 それもそのはず今までこのビーチにはこんなお洒落なカフェレストランなんかなかったから。それにここはビーチの他、落ち着いた雰囲気を堪能できる独特の地域というか観光地と言うかそれなりに名の知れた所だ。海水浴以外の客もこのカフェレストランに足を向ける。


 「亜咲君、これ12番のテラスに」


 「はい、ただ今」


 その忙しさはまるで地獄の様だった。ホールもあの広いテラスも完全満員で、外には待ちの行列が延々と伸びている。


 テーブルを片付けるとすぐに次の客が座りオーダーが告げられる。挙句の果ては、サービスしている僕を捕まえて、追加注文をしてくる客もいた。



 あの綺麗で映画にでも出てきそうなリゾートオープンテラスはまるで地獄絵のようで、意味は異なるだろうが客は亜形あぎょう吽形うんぎょうが入り乱れたような感だった。



 ようやく日が陰り、ビーチの人影が少なくなってくると、ディナーの時間になりメニューが切り替わる。ここからは遅番シフトの領域だ。


 ようやく一息入れてバックで汗だくになった制服を回収籠に放り込める。早くシャワーを浴びたい、それが今僕の願いだ。


 今沙織さんはどうしているんだろう。昨日で補講は全て終わっているから、今頃は自分の部屋で本でも読んでるのかなと彼女の事を考え店長に


 「お疲れ様です」と挨拶をした。


 「お、お疲れ亜咲緒くん。明日も頼むよ」と言いながら忙しそうにホールの方へ消えていった。


 同じ店の奴も二人ほどいたが、二人とも今日は遅番だった。


 足早にホテルに向かいシャワーを目指した。


 会社が用意してくれたこのホテルも最近出来たばかりらしい。すべてに真新しさが感じられる。ただ、8月の本当の始めのこの時は平日であることも合わさってガラガラの状態だった。今ここを利用しているのは、同じ様にヘルプに来ている人しかいない様だ。


 その証拠に部屋は半分以上空室だった。


 シャワーを浴び終え、冷房の効いた部屋で煙草に火を付け、来る途中買ってきた弁当とビールを広げた。

 吸い終わり、先にビールを一口含み弁当をほお張った。缶ビール一本を飲み終わるころにはもう、眠気がさしていた。


 SNSで沙織さんに、


 「***亜咲達哉 今日はもうくたくた、ごめんもう休むから。


 お休み沙織。


 ***」


 と書いて送ってやった。何気なく疲れた体で何気なく「沙織」と。


 そのまま意識を失うように眠りについた。


 次の日、シャワーを浴びてスマホを見ると沙織さんからの返信に気が付いた。


 「***今村沙織 お仕事本当にご苦労様。大変だね、頑張って。


 それと、ようやく沙織って呼んでくれたね。待ってたよ(感謝涙の絵文字)ありがとう。私も達哉って呼ぶからいいでしょ。ね、達哉さん。いや達哉だ。美野里さんには負けたくない。大好きな達哉へ。


 ***」


 その返信を見て体全体が熱くなった。


 部屋から出る前に


 「***亜咲達哉 いいよ。ありがとう。


 ***」


 と送って店に向かった。途中、駅の立ち食い蕎麦屋で蕎麦とカップみそ汁を啜って店に入った。


 ビーチは平日でもその賑わいが衰えることはなかった。もちろん店も同じだ。昨日よりは少し勝手がわかるようになり動きやすいが忙しいことには変わりはない。そんな昼のピークタイムが抜けた、アイドルタイムの時休憩に入っていた僕は目を疑った。


 駐車場に止まったワゴン車から良く見慣れた人たちが降りて来たからだ。そして、その中に沙織の姿があった。

 僕は驚いて駆け足で駐車場へ沙織のもとへ駆け寄った。


 「沙織」僕が叫んだ声に沙織が気が付き、達哉と手を振って返してきた。



 「おお、もう名前で呼び合ってるぜ」



 その声の方を見ると宮村が運転席から降り立った。そして助手席から愛奈ちゃんが、後ろの席からナッキが、まるで狐に騙されている様だった。そして遅れる様に一台の車が入ってきた。


 そこに乗っていたのは恵梨佳さんと支配人の二人だった。


 運転席でサングラスをかけながら「ハァィ」と手を振る恵梨佳さんの姿はとてもかっこ良かった。

 

 「どうしたんですかみんな」狐につままれた様にして訊くと


 「何ぼっとしてんだよ。せっかく来てやったのに」と宮村は悪戯をついた。


 実は昨日宮村は、僕がバイトするカフェに愛奈ちゃんと立ち寄ったことから始まったようだ。


 宮村は僕がヘルプに行ってるのを知りながら店で恵梨佳さんに僕の事を訊いたらしい。 


 僕がヘルプでここに行っていると訊くと「海かぁ、いいなぁ。愛奈行ってみるか」そう言って愛奈ちゃんを誘うと彼女は当然の様に「うん」と答え、恵梨佳さんたちが明日ここに行くことを知り


 「こりゃ全員集合だな」と言ってあっという間にレンタカーの手配をして沙織に連絡した。


 沙織は初めから来たくてうずうずしていたからすぐに二つ返事で「ハイ」と答え、そこにちょうど居合わせたナッキが「私も行く行く」と手を上げたらしい。


 ナッキが鼻をヘンッとさせて「サプライズだったでしょ」と言った。


 「うん、すっごい驚いた」


 ふと、それじゃ沙織は昨日からここに来ることを知って……顔が異常に熱くなった。沙織が耳元で小さな声で「ごめんね」と囁いた、それでまた顔が熱くなる。


 その横で恵梨佳さんが「そうよねぇ、驚くわよねぇ」と笑みを浮かべた。まだ何かありそうだったが、詮索はしなかった。


 沙織がまじまじと僕を見つめ「初めて見た制服姿」と漏らすと、恵梨佳さんがちょっと意地悪そうに



 「イケメンにこの制服はかっこ良過ぎるよね」と沙織の方を見ていった。それに沙織は顔を赤くして「うん、かっこいい」とつぶやいて恥ずがしていた。



 宮村は「やってられねぇな」といって愛奈ちゃんと顔を見合わせた。


 「それじゃ、私は店長に話をしてきますから」と支配人は店に向かい。


 そして、恵梨佳さんが


 「私たちも行きますか」と沙織とナッキを店の方に連れ出した。


 宮村は愛奈ちゃんと「俺ら一足先に海に行くから」とバックを手に砂浜の方へ向かった。


 何となく不自然な気がしたが、すぐに判明した。


 今日と明日、臨時で沙織とナッキがヘルプすることだった。


 もっとも二人とも後方支援である様だ。ただ、登録をしていないからバイト代は出ない。その代わり系列のあのホテルに二泊ご招待という事だった。


 これは支配人が手配してくれた。少しでも混んでいるのを待つお客様の事を考えての事。会社幹部の役職にある支配人が提案してくれたことだった。


 店長は「こんな綺麗どころのヘルプが来てくれるとは思いもしなかった」と喜んでいた。


 そして沙織が着る制服の姿は、とても新鮮だった。他の奴らが立ち止まりながら見惚れてしまうのも分かる気がした。一番見惚れていたのはなにせ僕だったから。


 沙織とナッキの仕事ぶりは目を見張るものがある。流石教師を目指すこともあって人の扱い、お客の扱いは大したものだった。


 待ち時間がかなりかかっているお客に笑顔ですいませんとちゃんと丁寧に接している、しかも何も臆することなく時には凛として仕事をこなしていた。


 僕は僕で厨房からトレーを片手にホールからテラスから縦横無尽に動き回っている。


同じホールにいる女の子達から「亜咲さんてすごいね。かっこいいし優しいしそれに物凄く仕事で来て、ほら、今日来たチーフの恵梨佳さんとも息ぴったりじゃない」なんて言ったのを沙織が訊いていた様だった。


 それを訊いて、嫉妬するかと持ったけど不思議と、とても誇らしかったと後でそっと僕に耳打ちしてくれた。


 ようやく今日のシフトが終わった。今日も物凄く忙しかったけど昨日ほどの疲れは感じていない。恵梨佳さんがいろいろフォローしてくれたのと、沙織が傍にいる安心感からだろうか。


 店長に昨日と同じように「お疲れ様でした」とあいさつをした。沙織とナッキも今日は一緒に上がったから二人とも同じように挨拶をすると


 「いやぁ、急に来てこんなに仕事こなしてくれとは思いませんでした。本当にありがとうございます。今日は疲れたでしょう、ゆっくり休んでください。亜咲君は明日遅番でしたね」シフトの確認をされたので「はいそうです」と答えた。


 「亜咲君も今日はゆっくり休んでください。明日遅番だから少しゆっくりできまね。それとお二方は明日、中番でお願いします。えーと、そうだなぁ11時からでお願いできますか」


 沙織とナッキは声をそろえて「はい、宜しくお願いします」と答えた。

 そして、軽く会釈をして僕と一緒に店を出た。


 ホテルに向かう途中


 「沙織、仕事どうだった」と訊いた。「沙織」と自分の名前を僕が呼んだことを、今になって恥ずかしくなったようで


 「う、うんとっても新鮮で楽しかった」そしてナッキも「私もちょうどいいリフレッシュになるよ」そう言っていた。


 そして「た、達哉さ……」さんをつけようとしたが飲み込んだ。



 「達哉も、ものすごくかっこよかったよ」



 僕の前に大きく二歩前に出て髪をなびかせ振り返りながら言った。


 そんな彼女を、オレンジ色の夕日が照らしていた。






 ホテルに帰ると入り口で宮村と愛奈ちゃんが沙織とナッキの荷物を持って待っていた。


 「おっせーぞ亜咲」


 「遅いって俺らは今まで仕事だよ」


 「まーまー、高ちゃんも亜咲さんも落ち着いて落ち着いて」


 愛奈ちゃんが今日は珍しく僕らの中に入ってきた。愛奈ちゃんは宮村の事を高ちゃんと呼んでいる。当の本人は恥ずかしいようだが。


 「あ、そうそうお夕食まだでしょ。さっき高ちゃんといいお店見つけて来たんだぁ。ねぇ高ちゃん」


 「おお、さっき散歩していたら偶然な」やっぱ宮村は愛奈ちゃんには頭は上がらない。


 「え、そうなんだ行ってみようよ。私お腹ペコペコでさぁ」


 ナッキは本当に腹が減ってそうだ。僕は沙織の方を見て


 「ええ、そうね。達哉も行くでしょ」


 「もちろん」と答えた。


 「それじゃ俺らチェックインして、まずはシャワーを浴びて来るわ。もう海水でベタベタだからな」


 僕は時計を見て


 「そうだな、じゃあ7時にロビーで」


 宮村と愛奈ちゃんはさっそくフロントに行ってチェックインを済ませた。予約は恵梨佳さんが会社を通してやってくれていた。


 「美津那那月様と今村沙織様ですね。本社の方からご予約を頂いておりますね。それではこちらにサインを」


 二人はカードキーを受け取り、荷物を持って僕とエレベータで上へあがった。


 僕らみんな同じ階にまとめてくれたらしい。それぞれ各々の部屋を確認して「あれま、亜咲君から私たち続いて隣同士なんだ」そして宮村たちは向かいの二人とも隣同士の部屋だった。


 「そうみたいだね。まずはシャワー浴びようよ」


 「はーい、それじゃぁねぇ」とナッキは早々と部屋に入った。


 沙織は僕の方をじっと見ていたから「入る?」と訊いた。「うん」と頷いた。頭をクシャッとしてやって一緒に部屋に入った。


 扉を閉めるなり、我慢の限界の様に抱き合った。そして唇を重ね合わせた。たったひと晩会わなかっただけなのに。ひと晩会わない事なんていつものことなのに。


ようやく出会えた恋人の様に長く熱く慈しみながらお互いの唇を重ね合わせた。


 そして、ゆっくりと離れ、沙織の頭が僕の胸に着いた。


 「なんだかとても久しぶりに遭ったような気がする。お店でもずっと一緒だったのにね」

 僕は黙って沙織を手で包み込んだ。


 「よく来たね。ありがとう」


 沙織は「うん」といいながら頷いた。


 「とりあえずシャワー浴びよっか」沙織はクスッと笑って「そうね」と返した。


 「どうする沙織先に入る。あんまり時間ないからさっとしか浴びれないけど」


 沙織はちょっと考えて僕の耳にそっと


 「一緒にはいっちゃおうか」と照れながら言った。



 「いいの」「時間ないんでしょ」「仕方がないな」「だって時間ないんだもん」もう既に二人共シャワー室にいた。お互いに何も身に遮る物がない体で。



 二人で部屋を出ようとした時、向かいの部屋のドアが開いた。


 宮村と愛奈ちゃん。僕と沙織二組のカップルが鉢合わせた。


 宮村はフンとしていたが愛奈ちゃんは「あー沙ちゃんと亜咲さんだぁ」と小さく手を振ってきた。


 そして宮村は


 「ほんとお前ら急速過ぎんだよ。俺らみたいにゆっくり、なんだ時間ていうのをだな……」


 愛奈ちゃんが宮村の言葉を遮った。


 「高ちゃん。人はね好きになると時間なんか関係ないんだよ。二人はね、そ……そ……そうし……そ……」

 宮村が代わりに言う「相思相愛」


 「あはぁ、その相思相愛っていうやつだよ」


 「まいったなぁ。愛奈ちゃん」


 「えへっ」と言ってこぶしをコンと自分の頭に向けた。


 「でも随分沙織とも仲良くなったんだね」


 「来る途中、車の中でいろんな事話たしね」沙織が言った。


 「ナッキとも仲良しになったんだよ。面白いよねナッキって」


 「そうね」


 そんな会話を宮村は微笑ましく訊いていた。


  ガチャ、ナッキの部屋のドアが開いた。ふと僕らを見て


 「あれぇ、なんだみんな待ってたの。早く出たつもりなのになぁ」ちょっとがっかりした様に言った。


 「ねぇ、ねぇ。愛奈ちゃんお腹すいちゃった。早く行こうよ」


 愛奈ちゃんが宮村に目で訴えるようにせかす。


 「解った解った。それじゃ行こうかみんな」


 そう言って愛奈ちゃんの手を取り僕らの前を進んだ。


 そんな姿を見ながら沙織は薄っすらと涙を溜めていた。


 「どうしたの」


 彼女は軽く涙を手で拭いながら


 「なんでもない」と僕を見て微笑んだ。


 その後ろに呆れた様にぼくら四人を眺めながら後をついてくるナッキがいた。





 僕らが行ったお店は、駅からすこし離れた所にあった。そこは昔ながらの大衆食堂という趣で、一緒に民宿も経営しているところだった。


 僕らは、お勧めのお刺身定食を人数分頼もうとしたが宮村が



 「ええい、めんどくぇ。おばちゃん海鮮船盛一丁」と真顔で頼んだ。



 出てきた船盛は流石海の街にある食堂。その盛は想像を絶していた。


 「おお、すっげぇ。山盛りじゃん」


 「この船盛底上げじゃないよ。下までお刺身でびっしりだよ」


 「すっごーい、ほんとだぁ。食べきれるかなぁ」



 「ええと、イカさん、タコさん、えびさん、あの赤いのはマグロさん。んん、愛奈ちゃんいっぱいありすぎてわかんない」



 「愛奈ちゃん数えていたの」僕が訊くと


 「うん。だっていっぱいあるんだもん」


 「愛奈、いっぱい食えぇ」「うん高ちゃんに負けないもん」


 一番先に箸を付けたのは愛奈ちゃんだった。


 「みんな急げぇ。大食いの愛奈に全部食われちまうぞ」


 みんな一斉に箸を付けた。


 「うっま。幸せー」とナッキがしみじみと言った。


 サービスでご飯と味噌汁が出た。僕と宮村のご飯は丼ご飯。女性陣は程よい大きさの小鉢のような器に可愛らしく盛られていた。


 その味噌汁を軽く啜ると、そのうまさに僕は感動した。


 しっかりと効いた魚介の出汁に、つんと来る葱の風味。豆腐と具材はシンプルだったが、その甘く香る味噌の風味が絶品だった。


 やっぱりインスタントじゃこんな味は出せないな。今度ちゃんと作ってみようと思った。


 僕らはお店に悪いくらいワーワーと騒いで、あっと言う間に平らげてしまった。


 みんなで割り勘にして計算したら想いの他安く上がった。


 会計の時騒がしくて済みません。と一言添えると


 「なぁに、若い奴は近位でちょうどいい。それにあんなに美味しく食べてもらうと作り甲斐があるってもんよ」

 漁師町独特の人情を感じた。


 「あーお腹いっぱい」


 「美味しかったね」


 「あー美味かった」


 「愛奈ちゃん一番食べたもん」


 「そうだね」お店を出てから歩きながら5人が一言づつ出した言葉。


 途中、コンビニによってビールとジュース。それにおつまみを買い揃え


 「帰ったら俺の部屋でいっぱいやろうぜ」


 と宮村が、親指を立てぐいぐいとさせながら言う。 


 みんな賛成と声をそろえた。


 ホテルに着くとそのまま宮村の部屋へ直行した。


 乾杯、冷えたビールが喉を刺すようにして流れ込む。 


 「ふう、美味い」なんだか昨日からの疲れが抜けていくような気がした。


 今日は愛奈ちゃんも珍しく飲んでいる。ビールじゃなくジュースをちびちび飲んでいるナッキが


 「みんないいよなぁ。私なんかお酒弱いからそんなに飲めないし」といじけモードが入っていた。


 「あ、それ愛奈ちゃんも一緒だよ。愛奈ちゃんお酒強くないから、それにお薬飲んでいるからいっぱい飲んじゃいけないんだって。だから少し、ちびちび飲むんだよ」


 「なぁんだ、愛奈ちゃんも私と同じかぁ。仲間だね」


 「そ、仲間」二人肩を組んで笑いあった。


 「それはそうと愛奈、薬飲む時間だろ」そう言ってカップにミネラルウォーターを注いで愛奈ちゃんの前に置いた。


 鞄から薬を取り出し「あむっ」と薬を飲み込んだ。


 「大変だね」ナッキが愛奈ちゃんに言うと。


 「うん、でもね。私これ飲まないとおかしくなっちゃうんだ」


 「愛奈」


 宮村がすかさず言う



 「ううん、いいの。私ね高校3年の時精神病院に入院していたの。そのちょっと前におかしくなっちゃんだね。私は覚えていないんだけど、多分高ちゃんにはいっぱい迷惑かけたと思うよ。今、こんな話し方だけど……その前はなんていうか、高ちゃんの事……孝之って呼んでた」



 その呼び方に宮村ははっとした。あの時の、あの時の愛奈、俺を呼ぶあの愛奈の声を思い浮かべていた。

 「でもね、もうあの時の様にはどうしても呼べないの。


お薬のせいだって解っているけど、お薬止めるともっと高ちゃんを苦しめるから。もとに戻りたい、でももう戻れない。もしかしたら神様がもうあの時のように戻るんじゃないって言っているんだよ。きっと」



 「愛奈」



 宮村は愛奈ちゃんを抱き抱えた。宮村の目にうっすらと涙が浮かぶ。沙織もこの事を知っている、そしてそれを自分の何かに指し示すように目に涙を浮かべていた。僕にはそのなにかは解らない。



 「ぐしゅ」ナッキはもう涙を堪え切れず泣いていた。彼女もまた沙織への想いを断ち切れていない様に。


 「愛奈ちゃん。私、愛奈ちゃんの友達になる。ねっいいでしょ、友達なんでも話せる親友に、沙織も私の親友。だから沙織も一緒に愛奈ちゃんの親友になろ」


 「もちろん」沙織は涙を少し手の甲で抑え言った。


 宮村は愛奈ちゃんを抱き抱えたまま


 「愛奈、良かったな親友が出来て」そう言って彼女の髪を愛おしそうになでていた。


 その中で愛奈ちゃんは頷いていた。



 しんみりとした空気を換えたのはやはり宮村だった。



 「亜咲、お前いつから沙織さんを呼び捨てにしてんだ」矛先はそっちに来た



 ナッキも「そうそう、今日訊いてびっくりした。すこし会わない間に「沙織」「達哉」だって焼けちゃうね」

 「あ、いいや。今日からだよ。そう今日から」


 それを訊いた沙織は「え、違うよ。昨日からだよ」


 「え、違うよ。今日沙織と店の駐車場で会った時からだよ」



 それを沙織は真っ向から反論して「いいえ、違います」



 鞄からスマホを取り出して昨日僕が送信したSNSの記録をみんなに見せながら。



 「ほら、ここにーーお休み沙織ーーて書いてあるじゃない」



 宮村は食い入るようにしてみて「あ、ほんとだ」ナッキも「書いてあるねぇ」と笑みを浮かばせ、愛奈ちゃんは「キャッ」と言って顔を赤らめて口を手で押さえた。



 「まいったなぁ」と言って何も言えなくなった僕が、今度は顔を赤くする番だった。



 そんな事を言い合いながら、飲み物が切れたころ合いを見て、宮村と愛奈ちゃんを部屋に残して僕らは各々の部屋へ入った。


 少しして、沙織からSNSのメッセージが来た「そっちに行ってもいい」とすぐに「いいよ」と返した。


 ノックの音がする。すぐにドアを開けた。


 微笑んだいつもの沙織の顔が目に入る。 


 ベットに二人で腰かけ軽くキスをした。


 それから二人で手をつなぎ、ただそれだけ、ただそれだけでとても暖かい気持ちになった。


 いつしか手をつないだまま、眠りについていた。一つのベットで。





 朝起きると僕一人がベットにいた。


 「いってきます」と枕元に沙織のメモが置かれてあった。


 1時に店に入ると、沙織もナッキもすでに仕事をしていた。中番シフトだから僕よりも早く仕事に入る。


 そして沙織はトレーを片手にサービスまでこなしていた。


 すれ違い狭間、沙織に「大丈夫」と訊くとにこやかに「大丈夫よ」と答えた。その後ろで恵梨佳さんが


 「さすがね沙織さん。もうサービスまでこなしている。スカウトしちゃおうかな」と言ったから僕は


 「え、うそ」と漏らしてしまった。それを聞いて


 「やっぱだめかも。彼氏の方が心配し過ぎて仕事できなくなりそうだから」とふふふと笑いながら


 「それじゃ今日私オフなの。後よろしくね」と軽く流したが、実は僕が来る前支配人とひと悶着したらしい。


 「恵梨佳君、今日はオフじゃなかったですか」支配人から呼び止められ「ええ、そうですけど少しでもやることやろうと思って」


 支配人は恵梨佳さんに怪訝そうに「それではいけません」


 「どうしてですか」


 「恵梨佳さん。貴方にがんばって戴くのは本当に助かります。でもあなたが休みを度外視してまで仕事をする義務はありません。


それにあなたが休みの日まで仕事をすれば他の人も取ずらくなります。あなた一人の事ではないんですよ休日は」


 支配人からそう言われ、恵梨佳さんは下を俯いてしまった。


 そして


 「僕は、君の体が心配なんだ。もし君に何かあったら僕は自分を責めなければいけなくなる。あの時こうすればよかったと。だから僕の言うことも訊いてほしい」


 恵梨佳さんは俯いたまま「はい」と答え、顔をゆっくりと上げて彼のその顔を見つめながら「ありがとう」と答えた。


 今日もたくさんの客がこの店を利用している。テラスにいる客のほとんどがビーチから水着のまま来ている。それもこの店のコンセプトだ。


 アイドルタイム時、テラスに座る水着の女性に僕は釘付けになった。いやそれは僕だけはない様だ。ここにいる男と名乗る者たちが彼女に視線を投げかけていた。


 黒いビキニに白のパーカーをはおりサンダル履きでサングラスをかけ、その先にいる僕を見つめていた。その女性は恵梨佳さんだった。


 僕が恵梨佳さんに気が付くと、手を振って僕を呼んだ。


 「どうしたの、顔が赤いわよ」意地悪に


 「あ、いや、綺麗だなぁ」ぼっそり漏らした言葉を彼女は聞き逃さなかった。


 「ありがとう。亜咲君に行ってもらうと嬉しいよ」 


 そう言って彼女はオーダーを出した。僕はそれを受け厨房へオーダーを告げに言った。そして忙しく動き廻っている内に恵梨佳さんの姿はその席から消えていた。


 今日は週の中日。ディナーの時間になるとさすがに客の数は少なかった。それに今日でヘルプメンバーが入れ替わる。明日からは新たなヘルプメンバーが投入される。


そして9時閉店後ささやかだが、今まで居たヘルプメンバーの慰労会がこのオープンテラスで行われる。これもこの会社の意向だと店長が教えてくれた。


 もちろん、沙織もナッキも出席してほしいと店長から言われていた。そして一緒に来ている宮村と愛奈ちゃんも特別参加が許された。


 慰労会が始まると各々用意された料理を目の前にして、支配人から挨拶とヘルプメンバーへの感謝の言葉が話された。


 サービスをしてくれたのはここにいるメンバーだった。


 乾杯。僕らはみんな立ち上がりジョッキを鳴らし、ビールを流しいれた。その後はみんな一緒にこの店で、あの忙しさを乗り越えた仲間同士盛り上がりを見せた。


 そしてサプライズが用意されていた。


 恵梨佳さんが僕と沙織、ナッキを前に呼んだ。そしてマイクを片手に


 「みなさぁん。こちらを注目」と言って僕ら三人に注目を浴びさせた。


 「さて、みなさんもご存じの通り、昨日からヘルプして戴いた、 美津那那月さんと今村沙織さん。お二人とも急なお願いを快く引き受けていただき、そして素晴らしいサービスをお客様に提供して頂きました。改めて拍手を」


皆から拍手が沸く。



 「そして、何を隠そう今村沙織さんと、こちらのイケメンパーサー亜咲達哉さんはなんと恋人同士なのです」会場がどよめく。「知ってたぞぁ」なんて声も飛んできた。僕と沙織二人とも物凄く照れていた。恵梨佳さんは続けて



 「しかも、個人情報だけど暴露しちゃいます。なんとこちらの亜咲くんお誕生日今日が誕生日なんです。そしてそして、なんと今村沙織さんも今日が誕生日だったんです。なんと同じ日が誕生日の恋人同士だったったんです」



きゃぁー素敵。と女の子から叫ばれ、わーとみんなからまた拍手が沸いた。


 そして僕は驚いていた。なんと沙織と同じ誕生日だったことを。


 僕の驚きの表情から「なんだぁ恋人の誕生日知らなかったのか」と声が飛び。「罰ゲーム、罰ゲーム」とみんなから声が出た。


 罰ゲームって、そんなぁと思っていたら


 「二人とも制服姿でキスだぁ」と叫ばれた。


もうみんなが連呼し始めた「キッス、キッス……」と押し流される様に沙織と僕は制服に着替え「それでは準備いいですかぁ。ハイ」と言って僕らはお互い制服姿でキスをした。「カシャ」恵梨佳さんがその瞬間を写真に撮った。


 そして僕らは、みんなから祝福された。


 短い間だったけど、同じところで頑張ったみんなに祝福された。



 次の日、恵梨佳さんと支配人は自分の店の状態を確認する為朝にここを立った。その時恵梨佳さんが


 「亜咲君、今日は沙織さんをビーチにお誘いなさいな」と


 沙織も正直ビーチで遊びたいのは知っていた。


 「解ってますよ」と、恵梨佳さんは「あっそ」と呆れた様にして、それじゃと車を飛ばした。


 白く太陽に熱せられた砂。青い空にくっきりと白さが際立つ雲。そしてどこまでも続く海。波打ち際に幾度となく繰り返す小さな波、少し大きな波。今まで目の前でお預けされていた分楽しみたかった。


 「お待たせ」振り向くと水着姿の沙織とナッキ。色違いお揃いだった。


 「もしかして、あの時の水着」沙織に訊くと恥ずかしそうに頷いた。


 ナッキが「そっかぁ。あの時かぁ、じゃぁ私に感謝だな。急用でいけなくなった私に」


 その通りと、僕はあの時ナッキが急用で沙織とこの水着を受け取りに行けなくなったから、今沙織とこうしていられるんだと思った。 


 「綺麗だよ」と言った自分がとても恥ずかしかった。


 「キザだなぁ」と言われたが、そのビキニにも見える水着を着た沙織がとても眩しく見えたから。


 真っ赤になるのを隠そうと海に飛び込んだ。沙織もナッキもその後に続いて飛び込んできた。久しぶりに感じる夏海の解放感が僕を新たな世界へと導いてくれるような気がした。



 パラソルの下で並んでいる宮村と愛奈ちゃんは


 「愛奈、あいつらのとこ行かなくていいのかよ」


 「うん」


 「そっか」


 「だって、た、たか……孝之……と一緒がいいもぉん」 


     

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