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プロローグ   断頭台の露と消えた日、時計の針は逆回転する

【読者の皆様へ】

ご訪問ありがとうございます!

本作は「身に覚えのない罪で裏切り者の娘として追放されたヒロイン」が、時間を巻き戻す権能を駆使して未来を変えようとするものの、なぜか敵国の美貌の皇子に超絶溺愛されてしまう【時空操作×教育系ラブコメファンタジー】です。

ざまあ・スカッと展開はもちろん、甘々のすれ違いラブコメをたっぷり詰め込みました!

毎日のスキマ時間に、ニヤニヤしながらお楽しみいただけますと幸いです!

首元を撫でる風が、やけに冷たかった。


「……これより、国賊の娘であり、妖術をもって我が聖朝を惑わせた淫婦、エルシアの処刑を執り行う!」


処刑台の下を埋め尽くす群衆から、怒号と歓声が沸き起こる。投げつけられた腐った野菜や石ころが、私のボロボロの白い囚人服を汚していく。


(……淫婦、ね。身に覚えがなさすぎるわ)


冷たい木製の首枷くびかせに顎を乗せながら、私は心の中で小さくため息をついた。

私の父は、この国の最高位に位置する神殿長だった。けれど三年前、あろうことか隣国である大帝国と内通し、国家転覆の謀反を起こして処刑された。

「反逆者の血を引く娘」という烙印を押された私は、神殿の奥深くに幽閉され、ただ息を潜めて生きてきたのだ。


それなのに。

先月、我が国が帝国との戦争に敗北し、破滅の道を辿り始めると、愚かな国王と貴族たちはその責任をすべて私になすりつけた。

「彼女が父親の残した邪法で国に呪いをかけたのだ」と。

民衆もまた、うさを晴らすための都合のいい「生贄」を求めていたのだろう。


「おい、遺言はあるか?」


黒い頭巾をかぶった処刑人が、重厚な刃を握りしめながら冷淡に問いかけてくる。

私は、青く澄み渡る空を見上げた。雲ひとつない、美しい晴天だった。


「……ひとつだけ」


「言ってみろ」


「私を殺しても、この国に明日は来ないわよ。帝国はもう、目と鼻の先まで攻めてきているんだから」


「黙れ、悪女が!」


処刑人が顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。

ふっ、と自嘲の笑みが漏れた。事実を言っただけなのに。

もしも。もしも、時間をやり直せるのなら。

父が反逆を起こす前……私がまだ何者でもなかったあの頃に戻れるなら、こんな下らない国の政治になんて巻き込まれず、自分の人生を自由に生きてみたかった。


ギィ……と、処刑台の刃を吊り上げる鎖が嫌な音を立てる。


「執行!」


合図とともに、重い刃が勢いよく落ちてくる。

風を切る刃の輝きが、私の視界を覆い尽くした。


(——あぁ、私の人生、本当に惨めだったな)


首筋に、刃のひやりとした鉄の冷たさが触れた、その瞬間。


『——求めるか?』


頭の中に、澄んだ鈴の鳴るような、けれど重厚な声が響き渡った。


『時を還し、運命を編み直す権能を。我が血を引く者よ』


(誰……? 権能……?)


『命の灯火が消えしとき、刻の歯車は逆流する。望むままに往くがよい。お前を縛るあらゆる破滅を蹴散らすために』


ドクン!!


心臓が爆発したかのような激痛が走った。

首を切られた痛みではない。胸の奥底で、固く封印されていた「何か」が弾け飛び、全身の血管を駆け巡る感覚。


カチ、コチ。


世界からすべての音が消えた。

群衆の怒号も、風の音も、落ちてくる刃の衝撃すらも。

見上げれば、空を飛んでいた鳥が静止し、私の首に届く寸前の断頭台の刃がピタリと止まっている。


カチ、コチ、カチ、コチ——!!


逆回転を始める、世界。

目の前の景色が、まるで水に溶けた絵の具のようにドロドロと崩れ去り、光の渦となって過去へと巻き戻されていく。


落ちた涙が空へと昇り、投げつけられた石が群衆の手元へと戻り、そして——。


「——っ……はぁっ!!?」


激しい息切れとともに、私は飛び起きた。


冷や汗が全身から噴き出している。自分の首元を手で擦る。

繋がっている。切れていない。痛くもない。


「はぁ……はぁ……、夢……? うそ、あんなリアルな夢……」


荒い息を整えながら周囲を見回し、私は息をのんだ。


そこは、処刑場の冷たい石畳の上ではなかった。

やわらかな陽光が差し込む、見覚えのある広い部屋。高級な調度品、柔らかなシルクのベッド、そして壁に掛けられた大きな全身鏡。


鏡の中に映っているのは——ボロボロの囚人服を着た女ではない。

艶やかな漆黒の髪に、吸い込まれそうな紫水晶アメジスト色の瞳。絹のような肌をした、まだ幼さの残る綺麗な少女の姿だった。


「これ……私? でも、まるで……十七歳くらいの頃の……」


わけが分からず呆然としていると、部屋の扉がノックもなしに勢いよく開け放たれた。


「エルシア様! 大変です、いつまで寝ていらっしゃるのですか!」


飛び込んできたのは、幼少期から私に仕えてくれていた侍女のフィナだった。

彼女は三年前に、父の謀反に巻き込まれて命を落としたはずでは——。


「フィナ……? あなた、生きて……」


「何を寝ぼけたことを言っているのですか! 今日は神殿長様——お父様が、大帝国への親善大使として旅立つ日ですよ! 早くお見送りに出ないと、またお叱りを受けます!」


父様が、親善大使として大帝国へ行く日……?


私の脳内で、記憶のピースが一瞬で合致した。

歴史が狂ったのは、まさに今日だ。

父はこの大帝国への訪問をきっかけに、敵国の暗部と繋がり、三年後の謀反へと突き進んでいったのだから。


(本当に……戻ったの? 三年前の、すべての悲劇が始まる前の『あの日』に……!?)


自分の手に視線を落とす。

ふと意識を集中させると、右手のひらに、小さな黄金色の光の歯車が浮かび上がり、チクタクと音を立てて静かに回っていた。


『命の灯火が消えしとき、刻の歯車は逆流する』


あの断頭台で聞こえた声が、現実のものだったのだと悟る。

私には、時間を巻き戻す「時空の権能」が目覚めたのだ。


(神様がくれたチャンス……ううん、神様なんて信じない。これは私が掴み取った二度目の人生だわ)


私はベッドから跳ね起きると、侍女のフィナの手を力強く握りしめた。


「エルシア様……?」


「フィナ。私、もう二度と……誰かの身代わりになって死ぬのはごめんだわ」


このままこの国にいたら、父の謀反に巻き込まれ、またあの断頭台に送られる。

国を救う? 知ったことではない。私を裏切り、見捨てた愚かな国だ。

私がすべきことはただ一つ。


この滅びゆく国を捨て、自分の手で『絶対に死なない未来』を切り拓くこと!


そのためには——今すぐ身分を偽り、あの「大帝国」の懐へと飛び込むしかない。


「フィナ、着替えの手伝いをして! 大至急よ!」


運命の歯車が、音を立てて逆回転を始めた。

私を殺した世界への、これが最高の叛逆はんぎゃくだ。


©2026 [インフィニティ・G・イプシロン]. All rights reserved.

【作者より】

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

断頭台からのやり直し、そして敵国への潜入……!

果たしてエルシアは無事に逃げ切り、破滅の運命を変えることができるのか!?

「面白い!」「続きが気になる!」と思ってくださった方は、

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