妹に振り回される人生
「アウレリアお姉様ばかりずるいわ!!」
それは妹カーリンの口癖だった。
「私のほうが、大公の花嫁として相応しいはずよ!」
いつもの展開に、大きなため息を吐く。
ただ、ブランデンブルグ大公の花嫁の座は、譲れるものではなかった。
◇◇◇
アウテンブルク侯爵家の長女として生まれ、アウレリアと名付けられた私には、ある役割があった。
それは、王族の血を引く名家ブランデンブルグ大公家の嫡男オリヴァーと結婚すること。
父は私に対してどこに出しても恥ずかしくない娘になるよう、厳しい教育を叩き込んだ。
社交に必要な礼儀作法だけでなく、古代語をはじめとする十カ国語に加え、統治機構や法律、官僚制度に外交、軍事戦略など、国家運営レベルの知識を学んだ。
すべては大公となる夫を支えるため。
父はいつもそう話していた。
私を一人前の淑女として育てるために、父は金を惜しまなかった。
一流の教師を迎え、朝から夜遅くまで勉強することが私にとっての日常だったわけである。
一方、後妻の連れ子だった妹カーリンは違った。
私が八歳の頃、後妻となった継母と共にやってきた彼女は明るく天真爛漫、愛嬌があって誰からも愛されるような少女だった。
何を考えているのかわからない、なんて言われる私とは真逆の存在だったのである。
カーリンは私が学んだような教育計画は立てられず、自由気ままに育てられていた。
彼女は特に、名家に嫁ぐ予定などなかったからである。
ただ、それだけ。
けれどもカーリンにとっては、酷い贔屓に映ったらしい。
朝から晩まで勉強漬けの毎日を、カーリンは「ずるい!」と言って妬んだのだ。
それが初めての「ずるい」だったような気がする。
私にとっては一日中遊んでも怒られず、何か失敗してもにこっと笑ったら許されるカーリンのほうが羨ましく思っていた。
私が何か失敗しようものならば、教師は私を叩き、父は厳しく叱咤する。
カーリンはそんな裏側を知らずに、「ずるい」なんて言うのだろう。
しだいにカーリンは癇癪を起こすようになり、周囲の大人達の手に負えなくなる。
その結果、カーリンも勉強に参加することとなった。
ただ、彼女の集中力は一時間と続かず遊び始める。
当然、教師は怒ってカーリンが泣く。
集中できる環境はあっという間に崩れ去った。
その後、私は父の判断で全寮制のアカデミーに入学した。
十歳から十六歳になるまで、カーリンと離れて暮らすことができたのである。
カーリンから「ずるい」と言われず、何をするにも邪魔されない毎日は、本当に充実していた。
アカデミーを卒業したあとの実家は、大きく変化していた。
私の部屋はカーリンに乗っ取られており、宝飾品を始めとする私物も奪われていたのだ。
母の形見である真珠の髪飾りだけは、手元にあったので彼女の物にならずに済んだ。
さらに使用人の顔ぶれも大きく変わり、父に代わって継母が大きな顔をするようになっていたのである。
使用人達は私をあとからやってきた継子のように扱い、カーリンを長女のように扱っていた。
カーリンはそんな私を見て、惨めだとあざ笑っていた。
せっかく美しく成長していたのに、カーリンの性格は幼少期とまったく変わっていなかったのである。
いったいどうしてこのような事態になったのか。
父に事情を聞こうにも数年前から病に倒れ、寝たきりとなっていた。
それすら私には知らされず、大きなショックを受けてしまう。
厳格だった父はすっかり小さくなり、威厳の欠片もなくなっていたのである。
たった五年で、人はこうも変わってしまうものなのか。
病気というものは恐ろしい。
このときの私はそういうふうに考えていた。
十七歳を迎えた私は、社交界でビューを果たす。
父はすでにドレスや宝飾品を手配していたようで、恥ずかしくない装いで迎えることができたのだ。
そんな私を見て、カーリンは久しぶりに「ずるい!」と言った。
またそれか、と心の奥底から呆れてしまう。
カーリンも社交界デビューを迎える年には、豪勢なドレスと宝飾品が与えられるというのに。
継母はカーリンが可哀想だから、譲るように言ってきた。
私に選択権などなく、翌日には社交界デビューのドレスと宝飾品はカーリンの物となっていたのだ。
ドレスの流行なんて毎年変わるというのに、呆れて言葉も出てこない。
社交界デビューのドレスと宝飾品を売って新しいものを仕立てようとしていたのに、計画が頓挫してしまった。
これから社交期になるというのにどうしたものか、なんて思い悩むも杞憂に終わる。
父は事前に、私のためのドレスを発注していたようだ。
ただそれも、カーリンに「ずるい! ずるい!」と言われて奪われてしまった。
最終的には私が受けた招待すら、カーリンのものになっていたのだ。
結局私は、結婚するまでまともに社交を行うことができなかったのである。
◇◇◇
ブランデンブルグ大公家の嫡男オリヴァーのもとに嫁ぐことは、生まれた瞬間から決まっていた。
誰も変えることなどできない、決められた未来である。
私はオリヴァーの妻になるために、厳しい教育を叩き込まれたのだ。
十八歳の春――嫁入りを目前に控えた私に、カーリンは言った。
「アウレリアお姉様ばかりずるいわ!!」
またか、と思った。




