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不器用な魔女

「なんだ、師匠がいるなら迷うことなく、最初からお願いすればよかったじゃないか」



 翡翠のいるホームタウンに戻りながら、瑠璃はアナトの至極真っ当な指摘を受ける。しかし、彼女には彼女の言い分があった。



「今回の件は私一人で解決するって豪語してから出てきちゃったんだもん。その手前、すぐに戻って翡翠に協力をお願いするって……格好悪いじゃない」


「そうかな? 一条は既に十分かっこいいけど」


「な、な……」



 なんでそんなことを当然のように言えるのだ。瑠璃は何とか動揺を押し込む。魔女たるもの常に冷静であれ、と。



「そりゃあそうよ。私はかっこいいけど、だからこそ、何でも一人で解決したいの」


「なるほど。一条は強情で意地っ張りなんだな」


「……あんた、褒めるか(けな)すか、どっちかにしてくれる?」



 こいつといると感情が忙しくなる。これだけ乱される経験は初めてなので、対処に困る瑠璃だった。それから、山を降りて、しばらくは農地を歩いた。そこで働く人々は瑠璃に気付くと手を振り、野菜を分けようとする人もいる。その様子を見たアナトは笑顔で言うのだった。



「これだけ人に好かれているってことは、やっぱり一条はいいやつなんだな」


「そ、そうよ。私はかっこよくていいやつなの。でも……あんた、いちいち思ったことを口にしなくていいんだからね?」


「なぜだ? 変なことを言ったつもりはないが?」


「…………」



 なんだかやりづらい。褒められているはずなのに、なぜか仏頂面で無口になる瑠璃に、さすがのアナトも口を噤んだようだった。


 しかし、しばらく歩くと、またもアナトは疑問が浮かんだようだ。



「そう言えば、さっきのアンドロイドは、なぜ一条を襲ったんだ?」



 廃墟群に突然現れた謎のアンドロイド。彼は明らかに瑠璃を狙っていた。あのときは突然すぎて、アナトは状況を理解できなかったようだ。



「マーユリー教は、正しくない祈りを成就させるために、暗躍しているの。正しくない祈りや正しくない教えを広めるマーユリーのためにね」


「なぜ、そんなことを?」


「その目的は詳しくは分かっていないわ。だから、不気味ってところはあるのだけれど、コーラルにとって危険な存在であることは間違いない。そして、そんな彼らにとって、正しくない祈りの成就を阻止しようとする私みたいなものは、邪魔者になるから、ときに彼らから狙われてしまう、ってわけ」


「じゃあ、一条は危険であるにも関わらず、大地の腐敗を防ぐために戦っているのか」


「まぁ、そんなところね」



 どう思ったのか、アナトは神妙な顔で、何やら考込むようだった。きっと、物珍しく思ったのだろう。汚染犯を追うなんて危険な行為を率先するなんて、この辺では瑠璃と彼女の師くらいなのだから。さらに進むと、瑠璃が突然立ち止まった。



「……噂をすれば何とかって言うけど、まさか一日に二度も邪教徒の相手をするなんてね」


 廃墟群から離れ、緑の景色が見え始めると、木の影からアンドロイドと思われる男が二人の道を阻んだ。


「キーを渡してもらおう」



 死を恐れぬような無表情で、真っ直ぐと二人の方へ向かってくるため、アナトは恐怖心を抱いたようだ。



「一条、さっきのやつより強そうだぞ。今度こそ逃げた方がいいんじゃないのか?」


「大丈夫よ。さっきと同じタイプのアンドロイドなんだから、軽く捻ってあげるわ」



 強気な瑠璃にアナトは、逆に恐怖を覚えたらしい。



「軽く捻るって……好戦的なんだな、一条は」


「売られた喧嘩を買うだけよ。戦うことを避けるって言うのなら、貴方はどうするの? 降参してキーをあいつに渡す?」



 意地悪な笑みを浮かべながら質問すると、アナトがぐっと眉を寄せた。困っているらしい。



「ほら、戦うしかないでしょ!」



 そう言って、右手に黒いグローブを装着すると、瑠璃はアンドロイドの方へ飛び出す。走る勢いに乗って跳躍し、間合いを一気に詰めると、そのまま空中から回し蹴りを叩き込む。青い軌道を残す爪先による一撃は、ガードしたアンドロイドの左腕をへし折ってしまう。その威力に脅威を感じたのか、目を見開いたアンドロイドは反撃を試みようとするが、着地した瑠璃は次なる攻撃に入っていた。



「遅い!」



 至近距離から、アンドロイドの胸板に肘を突き刺すと、一回り以上も大きい巨体が後退った。だが、彼も一方的にやられるつもりはないらしい。左手を瑠璃に向けたかと思うと、腕の辺りから筒状の物体が突き出た。その形状から、瑠璃はどのような性質の攻撃なのか察知する。



「木の影に隠れて!」



 アナトに指示を出しながら、瑠璃もアンドロイドの正面から退避すると、耳を叩くような音が連続した。木の後ろに隠れた瑠璃は、アンドロイドの左腕から放たれる攻撃を見て、驚きを覚える。



「実弾兵器って……どれくらい旧式なのかしら」



 原始的な武器は魔力と違って、魔法では防ぎにくい部分がある。動きは鈍い旧式アンドロイドだが、意外に脅威的な存在かもしれない。身の安全を確信したところで、後方にいたはずのアナトを探すと、彼もしっかりと隠れていたようで、木の後ろでこちらの様子を窺ってたが、その顔は不安に歪んでいる。



「これ以上、不安にさせたら可愛そうか。……すぐに決着付けてあげるわよ!」



 瑠璃は木の影から身を乗り出しつつ、手の平をアンドロイドに向かって突き出した。すると、彼女が右手に装着するグローブが輝きを放つ。ちょうどの手の平の辺りにある、青い宝玉が瑠璃の魔力を集中させていたのだ。


 そして、放たれる青い閃光。瑠璃の手の平から、真っ直ぐと伸びた青い一撃は、アンドロイドの胸を貫通し、後方にあった木々をいくつか切り裂いた。



「ま、マーユリー、様……」



 アンドロイドは最後に何を願ったのか。信仰する魔女の名を口にすると、崩れるように倒れるのだった。



「……凄いな」



 安全を確認したアナトは、破壊されたアンドロイドを触りながら呟くと、傍らで得意げな顔を見せる瑠璃に質問した。



「触ってみた感じ、このアンドロイドはかなり丈夫だぞ。それなのに、蹴りだけでこいつの腕を破壊する一条って……どれだけパワーがあるんだ??」


「ねぇ、馬鹿力で壊したとでも思っている? そんなわけないでしょ。魔力を込めたキックなんだから、普通より何倍も威力が上がっただけ。身体能力の強化は魔女にとって基本よ」


「じゃあ、その右手は?」



 アナトが気になっているのは、瑠璃が右手に装着するグローブのことだ。



「ああ、これは魔力の放出を補助してくれるアイテムよ。私、魔力放出の調整が苦手だから、戦うときはこれに頼っているの。言わば補助輪みたいなものね」



 その例えば伝わったかどうか分からないが、アナトは納得したようだった。



「じゃあ、魔女にとって必要な武器ってわけじゃないんだな」


「そう。こんなの使っている不器用な魔女は、私くらいのものよ」



 瑠璃の弱点をどう思ったのか、アナトは破壊されたアンドロイドを同情するように眺めながら、低く唸るのだった。

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