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笑木屋の夜ご飯  作者: NiO
6/6

Dessert ~デザート~

 国王が死亡し王子が行方不明となったカーニヴァル王国は、国王の弟というゲームに出てこないキャラクターが王位を継承するという形で、何とかその騒乱を収めようとしていた。


 王と王子の失脚の原因ともなる無罪の少女はその後、戯曲や物語となり、全世界に喧伝されることになる。


「うーん、ここまで大袈裟にするつもりじゃ無かったんだけど。

 ま、僕の野望を助ける形になってるし、放置でいいでしょ」

 

 少女は台所で何やらコトコト温めている。


 時刻は勿論(・・)、夜の2時。


 鍋の中身の味を何度か確かめて、ミルクや砂糖を継ぎ足し。

 更には炒ったコーヒー豆なんかも擂り潰して鍋の中にパラパラ落としている。

 病的なまでに白い肌と、闇と見紛う程に黒々とした長髪と瞳。

 目の下には縁どりした様な隈が出来ている少女……ヴァルギリア・ボトムレスブラックは自分が主人公になっている物語をパラパラとめくって、苦笑いをした。

 彼女はクライマックスの処刑シーンを少し目で追った後、鍋の中で甘い香りを漂わせる黒い液体を、スプーン一杯だけ味見をする。


「ん、よし。

 ショコラを溶かしたヤツ完成、と」


 炎を落とすと、鍋を片手に待ち合わせ場所へと歩き出す。


「さあ、いよいよ、最終決戦だね。

 待ってなよ、ショコラ・ホーリーシット」


 ヒロインの名前を口にする少女は、本当に嬉しそうに笑った。


美味しい夜食も(・・・・・・・)用意してあるから(・・・・・・・・)()


#####################################


 真夜中の3時、とある畑の脇にあるベンチに、『ごちそうさまが聞こえないっ!』のヒロイン、ショコラ・ホーリーシットは座っていた。

 栗色のショートボブに、リスを思わせる可愛らしい同じく栗色の瞳。

 

「……あら、来ましたわね」


 ヒロインが闇夜に目を向けると、何度か間接的に衝突した敵役である少女……ヴァルギリア・ボトムレスブラックが現れる。



「……始めまして、ショコラ・ホーリーシットさん。

 知ってると思うけど、僕の名前はヴァルギリア・ボトムレスブラック。

 転生者(ごちなイスト)だよ」


「……こちらこそ始めまして、ショコラ・ホーリーシットです。

 同じく、転生者(ごちなイスト)ですわ。


 ……それにしても、どうしてこんな汚い所を待ち合わせ場所に?」


「だから、だよ。

 こんな時間のこんな場所。

 誰も、通らないからね」


「……そうですか。

 まあ、いいでしょう。

 今日は、話し合いに来ました」


 ショコラはヴァルギリアの持つ鍋に、特別注意を払わなかった。

 敵役(ヴァルギリア)の能力を知っており、けしかけた仲間たちが全員再起不能にされたにも関わらず、彼女は何故そうなったのかを理解していなかったのだ。

 おめでたい、と言われても仕方ないかもしれない。

 ただし、それら全てをひっくり返すだけの切り札を持ってきてはいた、のだが。


「結論から言います。


 これからはお互い不干渉、ということで手を打ちませんか?」


「……それ、本気で言ってるの?

 大分私に譲歩を強いてるよね、それ」


「……と言うと?」


「君、魔王様とくっつくつもりだろ?

 魔王様エンドになっちゃうと、私、木端微塵にされちゃうじゃん」


 ヴァルギリアは楽しそうに笑いながら、そんな言葉を交わす。


「アレは、貴女が魔王様に盾突くからでしょう?

 貴女が私と会わないようにして、私からも魔王様に忠告しておけば回避は可能ですわ」


「どうかなあ。

 そうやって回避したとして、なんやかんやで最終的には木端微塵になる気がするけど」


「……そうですか。

 出来れば穏便に済ませたかったのだけれど、そういう態度をされるのであれば、私から言うことはもうありませんわ」


 ベンチから立ち上がろうとするヒロインを、悪役令嬢が止める。


「待ってよ。

 君だけ一方的に話して、もうさよなら、かい?

 話し合いってのは、お互いに話すから『話し合い』なんだろ?」


「……まあ、そうね」


「……それにしても、君の能力、『(スウィート)』は凄いねえ。

 君の言っていること、結構むちゃくちゃだけど、君を憎む気が全然起きないよ。

 辛うじて君と対立出来ているのは、僕が君と敵だっていう設定があるおかげだろうね」


「……これ、パッシブスキルだから自分ではわからないんだけど、そうなのかしら。

 貴女の能力は……確か『(ヤミー)』、だったわね。

 ゲームでは使えないスキルだったけど、現実となった今は、結構羨ましいスキルよね」


「ふふ、ありがと。


 ……僕には二つの夢があるんだ。


 一つは勿論、この世界でまともに生き抜いていくこと。

 これは、君が攻略キャラの誰ともくっつかなければ済む。


 そして、もう一つ。


 この世界の職業全てを(・・・・・・・・・・)総ブラック化して(・・・・・・・・)前世の日本みたいな(・・・・・・・・・)夜の無い(・・・・)社会を作り上げたい(・・・・・・・・・)んだ(・・)


 ヴァルギリアは、うっとりと、そんな言葉をこぼした。

 ショコラは、そのあまりにも気持ちの悪い夢に総毛立つ。

 コイツは、何を言っているんだ?

 頭が、おかしいのか?

 いや、頭が、おかしいのだろう。

 

 モノクロから切り取られた様な少女の姿は、月夜ですら目立っていた。

 なにしろ彼女は黒闇よりも更に黒い、笑木屋の巫女……底なしの黒(ボトムレスブラック)なのだから。


「というわけで、僕からのお願いは2つ。


 攻略キャラとくっつくのは諦めること。

 そして、私の野望のお手伝いをしてもらうこと。


 ね、転生者(ごちなイスト)(よしみ)じゃん。


 僕に(・・)つけよ(・・・)


絶対にイヤ(・・・・・)!」


 もはや生理的に受け付けなくなってしまった、彼女の塗りつぶされた様な瞳に嘔気を覚えながら、ショコラは何とか言葉だけを吐き出すことに成功した。

 もしも失敗していたら、胃液も一緒に吐き出していたかもしれない。


「そうか、そうか。


 じゃあ、残念だけど……一生(・・)家の中だ(・・・・)


 ヴァルギリアは、笑顔を絶やすことなく立ち上がると、今まで持っていた鍋の蓋を持ち上げる。


「ふふふふうH、ふにゃあああああああ!?」


 その匂いを嗅いだだけで、ショコラは思わず絶頂に達した。


「おやおや。

 まだ作成途中なのに、食いしん坊さんだなあ」


「しゃ、しゃくせいとちゅー?

 しょ、しょれでわたしをばいしゅーするちゅもりいいいいい?」


 脳味噌が蕩ける香りで口元からは無限に涎が溢れ出てくるショコラは、もはやまともに喋ることすら出来ない。


「買収?

 しないよ。

 君には……社会的に(・・・・)終わってもらう(・・・・・・・)


 ヴァルギリア・ボトムレスブラックは、口元に三日月を浮かべると。




 畑の横にある肥溜めに(・・・・・・・・・・)鍋の中身をぶちまけた(・・・・・・・・・・)



 途端に辺り一面にあった腐った動物の匂いが、芳しく甘い香りへ変貌を遂げる。



「糞とショコラの甘酸っぱい出会い、です。


 (ほっぺた)が落っこちるくらい美味しいよ」


「な、な、なじぇこんにゃことを……こ、このままじゃあ、まおうしゃまに、こ、ころしゃれる……」


 ヒロインが、かろうじて最後の切り札を切った。

 既に彼女が進めている魔王様ルートは、トゥルーエンドを迎えない場合、激怒した魔王様によって人類が全滅する。

 それにボトムレスブラックが気づけば、まさか自分(ショコラ)に危害を加えるはずがない、と踏んでいたのだ。


「うん、知ってる。

 でも、良いんだよ、貴女はもうそんな事を気にしなくても」


「へ、へあ?」


「僕の能力を使えば、魔王様なんて、朝飯前……。


 いや(・・)正確に言えば前菜に(・・・・・・・・・)過ぎないんだから(・・・・・・・・)


 ヴァルギリアの笑顔に、ショコラは青ざめる。

 ルートに入っているはずなのに、いつまでも現れない魔王様。


 コイツ……まさか……既に(・・)!?


 しかしそんな絶望も、ずり、ずり、と肥溜めに近づくに従って幸せいっぱいになり、どうでもよくなってきた。


「これだけの量だ、食いしん坊の君でも全部食べきるのに一週間はかかるだろうね。


 一生懸命うんちを食べる君を見て、町の皆はどう思うかなあ」


「ふ、ふ、うふふふふふH」


 ショコラにとっては、もう、そんなことはどうでも良くなっていた。



 なにしろ(・・・・)お風呂一杯の(・・・・・・)ショコラケーキを(・・・・・・・・)食べるという(・・・・・・)小さいころからの夢が(・・・・・・・・・・)叶うのだから(・・・・・・)



 静かに肥溜めに沈んでいくヒロインに、悪役令嬢は言葉を続けた。



「あ、それと、町の中にある肥溜めは、全部君好みの味にしておくよ。

 お代わりが(・・・・・)食べたくなったら(・・・・・・・・)いつでも食べてね(・・・・・・・・)


「にょ、にょにょにょにょにょにょほほほほおおお^^^^!!」


 美味しそうに夜食を頬張る少女を慈しむような眼でしばらく眺めたヴァルギリアは。


 くるりと振り向いて、静かに、闇の中へ消えていった。





 ……これは少女の物語である。

 これは少女の夢を叶える物語である。

 これは少女の、大量の犠牲と引き換えに自身の夢を叶える物語である。


 そして、今回紹介した一連の大事件ですら。

 少女にとっては一食分の(・・・・)フルコース料理(・・・・・・・)

 


 10年後に訪れる、夜のない世界へと繋がる……たった一食分の夜御飯(・・・・・・・・・・)に過ぎないのであった……。

くぅ疲これ完ファサ。


さて。

文章力を付けるために書き始めた当作品ですが、終わってみると変な文章だらけ&書き直す気も起きないというていたらく。

最後の食糞もリアルに書くつもりでしたが、へたれました。


でもまあ、せっかく完結したのでフェアリーキス大賞に提出することにします。


※フェアリーキス大賞とは※

「異世界で恋をする♥ときめく女の子のためのSWEETラブファンタジー」をテーマに刊行を続けるフェアリーキスが、創刊1周年を記念して「小説家になろう」とタイアップし、良質な女性向け恋愛作品を募集するために開催しているコンテストのこと。

異世界(架空世界)を舞台にした女性向けの恋愛作品を募集してる。



はい、来ました。

こんなの、NIOさんの作品が大賞取っちゃうに決まってるだろ……jk……。


さて、それでは最後に。

NIOさんの薄暗い嗜好に着いてきて下さった35人のごちなイストの皆様。

そして、拙作に連日感想&レビューまで下さった石川様。

本作が完結できたのは皆様のおかげでごさいます。

最後まで読んでくださった皆様、誠に有難う御座いました~!


~おまけ~


「フルコースは完成したかいNiOさん?

 四天王一の優男よ」


「あと2つかな。

 虜、お前は?」ドヤァ


オードブル(前菜)…豚公爵と猛毒姫のマリアージュ(捕獲レベル21)

スープ…濃硫酸とマグマのスープ(捕獲レベル18)

魚料理…トラフグのポワレ~ソースは卵巣と肝臓をベースに~(捕獲レベル25)

肉料理…王家サラブレッドの塩揉み肉(捕獲レベル20)

主菜メイン…□

サラダ…待ち針とギンピ・ギンピの生野菜サラダ(捕獲レベル12)

デザート…糞とショコラの甘酸っぱい出会い(捕獲レベル30)

ドリンク…□

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