防衛戦後
1. 戦闘の終結、そして続く空白
正面での交戦は、ベッリーニ艦隊の撤退をもって、ひとまずの決着を見た。並行して展開していた機動巡洋艦部隊も、複数の宙域でシノたちの小型艦隊を退け、それぞれの持ち場を確保し続けていた。
戦闘そのものは収束した。だが、破壊された中継ステーションの復旧には、なお時間がかかっていた。
「総統府への報告は」
クラウゼの問いに、通信担当官は渋い顔で答えた。
「まだ、繋がりません。復旧作業自体は進んでいますが、あとしばらくかかるかと」
クラウゼは、戦果をまとめた報告書を手元に置いたまま、送る術のないもどかしい時間を過ごすことになった。
(こちらの状況が、まったく伝わらない)
戦いには勝った。それでも、この空白そのものが、まだ、終わっていなかった。
2. 三日後
中継ステーションの応急復旧に、都合、三日を要した。
ようやく繋がった回線を通じ、クラウゼは、総統府に向けてこれまでの経緯をまとめて報告した。
「総統。ご報告いたします」
クラウゼの声には、これまでの緊張が、僅かに滲んでいた。
「ソン司令官の艦隊、単独でベッリーニ艦隊と対峙。当方の主力到着まで持ちこたえました。合流後、戦況は好転し、敵艦、戦艦一隻、巡洋艦二隻を撃沈。当方も、巡洋艦一隻大破、二隻中破、戦艦一隻中破の被害を受けております。並行して展開した機動巡洋艦部隊も、各所で、小型艦隊を撃退しております」
「深追いは」
ヘルガの問いに、クラウゼははっきりと答えた。
「あえて行いませんでした。ソン司令官への負担を考慮しての判断です」
その報告を、ヘルガはしばらく無言で聞いていた。
「よく、持ちこたえた」
そう告げるヘルガの声には、率直なねぎらいがあった。結果の是非を、細かく問い詰めるより先に、まずその労をねぎらう――軍事行動開始以来、変わらずに続けてきた姿勢だった。
「ソン司令官にも、その旨、伝えておけ。よくやった、と」
「承知いたしました」
3. アンティカ反攻の検討
報告を受けた総統府では、この戦果を踏まえ、一つの議論が持ち上がっていた。
「総統。この機に、アンティカの奪還も視野に入れてはいかがでしょうか」
参謀の一人が、そう進言した。
「敵は、明らかに消耗しています。今なら、押し返せるのではないかと」
ヘルガは、その進言に即座には答えなかった。手元の被害報告書を、改めてじっくりと見直していく。
巡洋艦一隻大破。二隻中破。戦艦一隻中破。数字だけを見れば、決して無視できる規模ではなかった。
「この艦隊で、さらにアンティカにまで手を伸ばすのは、現実的ではない」
ヘルガはそう結論づけた。
「戦果に浮かれて、艦隊の実情を見誤れば、次に痛い目を見るのはこちらだ」
目先の勝利に引きずられることなく、艦隊の現状を、冷静に見極めた判断だった。
4. 講和という選択肢
アンティカの奪還を諦める一方で、ヘルガの中には、もう一つの考えが静かに浮かび上がっていた。
(テラという中心星系の確保は、もう、揺るがないものになっている)
これ以上、消耗を重ねてまで、アンティカに固執する必要が本当にあるのか。
「向こうにも、これ以上、戦い続けるだけの余力はそう残っていないはずだ」
ヘルガは、そう呟いた。これまでの戦況の推移――アヴァロン側もまた、艦隊を幾度となく消耗させ続けてきたという事実――を、頭の中で、改めて整理していく。
「今、こちらが優位にあるうちに、有利な条件で、矛を収める。それも、一つの手だ」
5. 結論
執務室で、一人、ヘルガは、この防衛戦の結果を、静かに総括していた。
統制と権限委譲。その両方を状況に応じて使い分けるという、新しいやり方がここで確かな実証を得た。テラの確保は、もはや揺るがないものとなっている。
その一方で、これ以上の軍事的拡大には、明確な限界があることもはっきりと見えていた。
(ならば、今、持っている優位のうちに)
ヘルガの中で、一つの方針が、静かに固まっていった。
「レイモンド・クラーク、か」
窓の外、灰色の空を見上げながら、ヘルガは、次に取るべき一手を静かに思い描き始めていた。
あと一話で三部作も終わりを迎えます。
最後の最後までお楽しみください




