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アンティカ攻防戦

1. 正体不明の艦隊出現、ヘルガの出撃許可

総統府の執務室にクラウゼからの緊急通信が飛び込んできたのは、

いつもと変わらない静かな午後のことだった。


「総統。正体不明の小型艦隊多数を、

 アンティカ星系で確認しました。

 交戦の許可を求めます」


ヘルガは報告に目を通しながら、

 一瞬思考を巡らせた。


(正体不明の小型艦隊……)


先に聞いた報告が、脳裏をよぎる。

テラの査察艦隊を幾度となく足止めしていたという、

あの得体の知れない存在。

もしや、同じ連中か――そんな考えが、頭の隅をかすめた。


だが、今、それを詮索している場合ではない。


「排除せよ」


ヘルガは、迷わず、そう命じた。


2. 誘導

出撃したクラウゼの艦隊が正体不明の小型艦隊を追う様子は、

逐一、総統府へ報告されてきた。


「敵艦隊、恒星の裏側方向へ、退避行動を継続中」


ヘルガは、届く報告に、目を通し続けた。

この段階では、まだヴァリアント側に、

これといった被害は出ていなかった。


だが、報告を追ううちに、

ヘルガの中に次第に小さな引っかかりが積み重なっていった。


(逃げているにしては、動きが妙だ)


正体不明の艦隊は決して我武者羅に逃げ切ろうとはしていなかった。

むしろ絶妙な距離を保ちながら特定の方向へと、

クラウゼの艦隊をじわじわと誘い込んでいるようにも見えた。


「何を、狙っている……」


誰に言うでもなく、ヘルガは、そう呟いた。

だが、その先を、はっきりとした形で言い当てることは、

まだできなかった。


3. 挟撃

その答えは、間もなく、明らかになった。


「総統、緊急報告!

  元査察艦隊出現!正体不明艦隊と連携し、

 当方を挟撃しています!」


その一文に、ヘルガは、思わず息を呑んだ。


(元査察艦隊……。アヴァロンへ向かったはずの、

 あの艦隊が、あちら側に回っていたというのか)


これまでの誘導の意味が、

ようやくはっきりとした形を結んだ。

想定していなかった連携。

ヘルガの中に、確かな動揺が走った。

だが、それを表に出す間もなく、

次々と被害の報告が届き始めた。


「巡洋艦一隻、損傷!」


「巡洋艦、さらに一隻、被弾!」


これまで、静かだった戦況が、

一気に緊迫したものへと変わっていった。


4. 撤退許可、間に合わない損害

「総統! 損害拡大中です!

 撤退の許可を求めます!」


クラウゼからの報告に、

ヘルガは即座に答えた。


「撤退を許可する。

 損害の最小化を優先せよ」


その判断に迷いはなかった。

だが、許可が届くまでの、わずかな間にも、

戦闘は、止まることなく進み続けていた。


「巡洋艦、一隻、撃沈確認」


「もう一隻、航行不能……!」


ドックに残していた艦

――整備中だった戦艦一隻、巡洋艦一隻も、

撤退が間に合わず、そのまま、敵の手に落ちた。


報告が届くたび、ヘルガは、

ただその一つ一つを、

無言で受け止めるしかなかった。


5. 敗報


その日のうちに、

最終的な被害状況が、総統府に届けられた。


巡洋艦の喪失。ドックで拿捕された艦。

そして、アンティカという要衝そのものの喪失。


テラ占領以来、初めて味わう明確な敗北だった。


ヘルガは、執務室の椅子に深く腰掛けたまま、

しばらく動かなかった。


(統制の仕組みは、機能していた)


出撃の判断も、撤退の判断も、

迷いなく速やかに下すことができた。

命令系統に、乱れはなかった。

それでも――負けた。


(なぜ、負けた)


ヘルガの中に残ったのは、

統制そのものへの疑念ではなかった。

もっと、根本的な、敵の戦術そのものへの理解の及ばなさだった。


正体不明の小型艦隊と、元査察艦隊。

本来であれば、結びつくはずのない者同士が、

まるで示し合わせたかのように連携し、

こちらを罠へと誘い込んだ。

これまでヘルガが学び、実践してきた軍事の常識では、

到底、想定していなかった戦い方だった。


(あの連中の正体を、今、深追いしている余裕はない)


だが、この負け方の意味だけは、

きちんと見極めておかねばならない

――そう、ヘルガは静かに、自分に言い聞かせた。


「クラウゼに伝えろ」


ヘルガは、傍に控えていた副官に、命じた。


「今回の戦闘について詳細な報告書を提出させろ。

 何が起きたのか正確に知る必要がある」


窓の外、灰色の空を見上げながら、

ヘルガはこれまでにない種類の焦りを、

静かに胸の奥に感じていた。


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