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アンティカ進出

1. アンティカへの配置

テラ占領作戦を成功させたクラウゼに、新たな任務が下された。


「テラ駐留艦隊を資源星系アンティカに進出させる」


ヘルガの通達に、クラウゼは、迷わず頭を下げた。


「承知いたしました」


アンティカは、テラの管轄下にある星系で、

大規模な定住人口こそないものの、採掘施設と精錬プラント、

そして補給ドックを備えた、この方面における重要な拠点だった。

遠征を続けてきた艦隊にとって、

整備と補給を行える設備が揃っているという事実は、

何より貴重だった。


さらに、その重要性は、資源だけに留まらなかった。


「アンティカは、テラからアヴァロン方面へ抜ける航路上、

 避けて通れない位置にある」


総統府からの通達には、そう記されていた。


「レアメタルの供給拠点であると同時に、

 この方面の交通の要衝でもある。

 ここを押さえておけば、テラとアヴァロンを分断できる」


クラウゼにとって、それは、単なる後方の補給拠点ではなく、

この方面全体を睨む、戦略上の要石でもあった。


「艦の消耗は」


着任にあたって、クラウゼは、副官に確認した。


「テラまでの長距離ワープ、そして占領戦の一連の行動で、

 いずれの艦も、相応の負荷がかかっています。

 ドックが使えるのは、正直、助かります」


「よし。まずは、艦隊の立て直しを優先する」


2. 現地業者との腹の探り合い

補給と整備を進める傍ら、

クラウゼは現地の商人や作業員たちへの聞き取りを、

実務の一環として進めさせた。


「アヴァロン方面との取引について、知っていることを話せ」


担当官の問いに、現地の作業員たちは、一様に、言葉を濁した。


「さあ……。

 うちらは、テラの言う通りに、

 荷を右から左に流してただけですから」


「詳しいことは、上の連中に聞いてもらわねえと」


どこか示し合わせたような、そっけない返答が続いた。


記録と実際の在庫・流通量の間にも、

細かな食い違いがいくつか見つかった。

だが、それを追及しようにも、決定的な証拠には至らない。

担当官が報告書にまとめたのは、

「一部、帳簿と実態に不一致あり。

ただし、悪質性を裏付ける証拠は確認できず」

という、曖昧な一文だった。


「昔からの緩みだろう」


クラウゼは、その報告に、さほど時間をかけなかった。


「辺境の資源星系には、多かれ少なかれこういう話がついて回る。

 統制をもう少し強めれば、いずれ収まるだろう」


その燻りが、実は何を意味するのか――

この時点では、誰も、正確には掴めていなかった。


3. アヴァロンとの交渉

同じ頃、ヴァリアント総統府では、

ヘルガがアヴァロン星系代表レイモンド・クラークへの

通信を開いていた。


「アヴァロン星系代表、レイモンド・クラーク殿か。

 ヴァリアント星系総統、ヘルガ・シュヴァルツコップだ」


「あ、はい、クラークです」


「単刀直入に申し上げる」


ヘルガは、前置きなく本題に入った。


「貴星系には現在、テラの残存戦力である旧査察艦隊が、

 補給ドックの使用許可を得て滞在していると聞いている。

 これを、即時、我が方へ引き渡していただきたい」


「い、いや、待ってください。

 あれは、人道的な理由で、一時的に」


「テラという後ろ盾を失った戦力を、

 貴星系が抱え続ける。

 それがどのような意味を持つか、

 貴殿ならお分かりだろう」


レイモンドは、明確な返答を避け、

「議会にかけて、改めて回答する」とだけ答えた。

ヘルガは、それを了承し、一度、通信を切った。


数日後、ヘルガは、再び通信を開いた。


「貴星系からの回答が、未だないようだが」


「あ、いや、その、議会内でも意見が分かれておりまして」


「結構。そちらは時間がかかるとして別の話を進めよう」


ヘルガは、続けた。


「食料の供出をお願いしたい。

 加えて、供出の実施にあたっては、

 民間の流通を、当面、

 我々の管理下に置くことにしたい」


4. 決裂

「ちょっと、待ってください」


レイモンドの声が、明確に強張った。


「民間の流通を管理下に置く、って、

 それ、うちの屋台とか、個人でやってる漁とか、農園とか、

 全部あなた方の指示に従えってことですよね」


「一時的な措置だ。協調のための必要な調整と考えていただきたい」


「それ、住民が納得するわけないです」


レイモンドの声は、これまでとは違う、

はっきりとした強さを持っていた。


「艦隊の件は持ち帰って、ちゃんと議会にかけます。

 でも、食料に関しては応じられません」


画面の向こうで、ヘルガは、しばらく無言だった。


「そうか。

 それが、貴星系の総意ということで、よろしいか」


「い、いや、総意っていうか、俺個人の」


「代表の発言は、星系の意思と見做す」


その一言で、通信は切れた。


5. ヘルガの受け止め方

通信を終えたヘルガは、

その決裂をさほど深刻には捉えていなかった。


「艦隊も持たない星系が、

 強気に出たところで何ができる」


傍にいた古参の一人に、そう漏らした。


「そもそも、あの旧査察艦隊は、

 アヴァロンへ向かう道中でさえ、

 補給や整備でまともに機能していなかったと聞いている。

 あの体たらくの艦隊が、

 今度は攻め手に回るなど考えにくい」


「確かに、報告によれば、

 進軍の遅延が、

 かなりの回数、発生していたようですな」


「加えて」


ヘルガは、続けた。


「アヴァロンの議会は、これまでの情報を見る限り、

 常に意見が割れ、まとまった決定を下せずにいる。

 艦隊派遣などという重大な決断を、

 あの議会が迅速に下せるとは思えん」


その分析には、確かな論理があった。

艦隊もなく、決断力もない星系が、

実際に牙を剥いてくる可能性は、低いと言ってよかった。


「念のため、

 アンティカの警戒レベルを一段引き上げておけ」


ヘルガは、そう指示を下したが、

その口調は、あくまで「念のため」の域を

出るものではなかった。


6. 締め

アンティカでは、変わらず、艦隊の補給と整備が、

粛々と進められていた。

現地業者たちの燻りも、総統府からの警戒指示も、

何か大きな出来事の予兆としては誰の目にも映ってはいなかった。


クラウゼは、整備の進捗を示す報告書に目を通しながら、静かに呟いた。


「この調子なら、じきに、艦隊も元通りだな」


その言葉には、何の不安も滲んでいなかった。

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