第2話
綱:「にしても、俺らの時は指導役に恵まれていたんだな。
ほとんどが、中堅と認められたばかりのやつじゃないか」
静:「私達の時は特別じゃない。
私達の苗字と上の遊び心で、Ωコアの立ち上げメンバーの源さんがつけられたんだから。
そもそも、誰かが歴史上の人物と同姓同名だったのが原因で"四天王"なんてあだ名で呼ばれるようになったんだし」
綱:「渡辺、卜部、碓井、坂田。
源頼光四天王の苗字が揃ってて源さんが指導役につけられたなら、俺の名前関係なく四天王だろ。
それに俺は、[わたなべ "の" つな]じゃなく、[わたなべ つな]だからな。
そもそも、お前の卜部が一番珍しいだろ」
静:「…ところで、そんな雑談をしにわざわざ研修会場まで来たの?
別に、いつもみたいに食堂で話せばいいじゃない」
綱が耳に着けたイヤーカフ型のインターフェイスのスイッチを切るのを見て、怪訝な顔をしながらも、察した静が自分のインターフェイスの電源を落とす。
綱:「お前が、知り合いと離れて確実に職場以外にいるタイミングだからな。
今晩、飲み屋で少し話せないか?
前に行った、駅前の個室の居酒屋で待ってる」
静は動揺を隠すように、ロングヘアの毛先をいじりながら答える。
静:「なによ、急にあらたまっちゃって。
インターフェイスのスイッチまで切って何の話かと思ったら、普通に連絡してくればいいじゃない」
綱:「インターフェイスが入ってたら、雑談でも一時的とはいえ、アーカイブに残るからな。
じゃあ定時後、先に行ってるからな」
インターフェイスのスイッチを入れながら、綱が去っていった。
静は近くの窓に反射する自分に目を留める。
前髪を少し直して冷静になると、自分の顔の火照りに気づき、両手でパタパタとあおいで顔を冷ましてから、インターフェイスの電源を入れて職場へ戻って行った。
思えば、綱とは運命を感じる出会いだった。
最初は、大学へ通うバスだった。
自動運転バスの遅延時や、自身の準備の遅れ等で1本遅いバスに乗った時に見かける顔。
次の印象は遠出をする時の電車の駅構内。
前を歩いていた人が改札のエラーで急に立ち止まった時、後ろからぶつかってしまい、謝罪しあったのが名前を知らないあの人だった。
それからも、当選した映画の試写会で隣の席に座っていたり、百貨店のエレベーターが故障し、少しの間一緒に閉じ込められたこともあった。
"偶然"の遭遇を重ね、次第に、見かけたら会釈をする仲になった。
ターミナルテックの内定を貰って気分が晴れた日、素直になれない性格だったけれど、次に"偶然"があったら名前を聞いてみようと決意した。
しかしそんな時、病気が見つかった。
昔なら難病と言われ、悲観するものだった。
でも、今では医療と制度が発達し、完治する病気だった。
治療とリハビリで、1年の留年が決まった。
幸い、ターミナルテック社は1年遅れの入社を提案してくれた。
でも、あの人との"偶然"はなくなった。
さすがに私のいる病棟へ、たまたま知人のお見舞いで来るなどの"偶然"はなかった。
『運命』という言葉を信じかけていたけれど、ただ生活圏が重なっていただけの人だった。
闘病とリハビリを終えて退院したあと、"偶然"が起こらない日常を過ごし、後輩達と共に大学を卒業して1年遅れの入社式に参加した時、確かに『運命』はあるのだと思った。
入社式に、名前も知らないあの知人がいた。
しかもその日の終わり、4人のグループで指導役社員のもとに集まった中に、その人はいた。
名前は渡辺綱。
『運命』を感じたその日から、その男の鈍感さに振り回される、苦悩の日々が始まった。
【ARデバイスの設定】
ARデバイスにはコンタクトタイプとメガネタイプがあり、別体のインターフェイスを通してオンラインでΩコアに接続されている。
コンタクトタイプは生体電気を利用し、メガネタイプは充電タイプが一般的。
ARレベルならインターフェイスはイヤーカフタイプが主流。
業務で使用するMRデバイスはメガネタイプが多く、インターフェイスもポケットに入れるモバイルバッテリーぐらいのサイズから、デスク上に置くタイプがある。
演算はインターフェイス内で行われたり、足りなければΩコアの演算補助を受け、余裕がある時はΩコアに演算能力を貸したりする。
全てのデバイスが統合されて、Ωコアの演算能力を作っている。




