【番外】とある夜会にて
そこでは、幾人かの紳士たちが意見交換に勤しんでいた。
さながら社交クラブのようなその空間で、今夜もまた新たな縁が生まれたようだ。
「どうも初めまして、ヴァルノー男爵。ロランツ・ケイブと申します」
「あなたは確か、前任の国史編纂室長でしたかな」
「お見知りおきいただけて光栄です。『イアン君の元上司』と自己紹介しようかと思っていたのですが、その必要はありませんでしたね」
イアンの名を聞き、男爵の笑みに気まずさが混じる。
「もしやいつかの言動を見られてしまいましたかな。少々やりすぎた自覚はあるのですよ、これでも」
「あなたは、彼女をイアン君から守りたかったんですか?」
ロランツの言葉に、男爵は笑みを消した。
「さあ、どうですかな。彼女を娘と重ねていたのかもしれません」
「娘さん、ですか」
「十年前に家を出ましてね。行方知れずで、親の庇護もなくどれだけの苦労をしたかと思うと……娘を、もっと守ってやりたかった」
男爵は重く息を吐いた。その横顔には後悔が滲んでいる。
「どうして娘さんが家を出たのか、お聞きしても?」
ロランツが問うと、しばらくの間をおいて男爵が口を開いた。
「結婚に反対したのですよ、私が。隣国の、仕事もしていない男との結婚など認められないと」
それから「ああ、そうか」と自嘲含みのつぶやきをこぼす。
「庇護は押しつけるものではない。そういうことかもしれませんな」
◇
「おや、いけない。こんな時間だ」
夜会が始まってからまだ一時間も経っていないのにと、ロランツはそそくさと懐中時計をしまう男爵に声をかける。
「次のお約束があったんですね」
「いや、明日が早いのでね。なんと、娘が婿と孫まで連れて帰国するのですよ」
男爵は普段の紳士の表情ではない、笑み崩れた顔でいとまを告げた。
「食えないお人だ」
残されたロランツは苦笑しながらひとりごちる。
「イアン君も、あの人にはさぞ骨が折れただろうな」
番外編をお読みいただきまして、ありがとうございました。
セドリックのお話『春を蒔く』を投稿します。
真面目で優秀な彼が八年かけて結婚した相手は、少し(だいぶ)元気すぎるヒロインでした。よろしければ覗いてみてください。




