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【番外】とある夜会にて

 そこでは、幾人かの紳士たちが意見交換に勤しんでいた。


 さながら社交クラブのようなその空間で、今夜もまた新たな縁が生まれたようだ。



「どうも初めまして、ヴァルノー男爵。ロランツ・ケイブと申します」


「あなたは確か、前任の国史編纂室長でしたかな」


「お見知りおきいただけて光栄です。『イアン君の元上司』と自己紹介しようかと思っていたのですが、その必要はありませんでしたね」


 イアンの名を聞き、男爵の笑みに気まずさが混じる。


「もしやいつかの言動を見られてしまいましたかな。少々やりすぎた自覚はあるのですよ、これでも」


「あなたは、彼女をイアン君から守りたかったんですか?」


 ロランツの言葉に、男爵は笑みを消した。


「さあ、どうですかな。彼女を娘と重ねていたのかもしれません」


「娘さん、ですか」


「十年前に家を出ましてね。行方知れずで、親の庇護もなくどれだけの苦労をしたかと思うと……娘を、もっと守ってやりたかった」


 男爵は重く息を吐いた。その横顔には後悔が滲んでいる。


「どうして娘さんが家を出たのか、お聞きしても?」


 ロランツが問うと、しばらくの間をおいて男爵が口を開いた。


「結婚に反対したのですよ、私が。隣国の、仕事もしていない男との結婚など認められないと」


 それから「ああ、そうか」と自嘲含みのつぶやきをこぼす。


「庇護は押しつけるものではない。そういうことかもしれませんな」



「おや、いけない。こんな時間だ」


 夜会が始まってからまだ一時間も経っていないのにと、ロランツはそそくさと懐中時計をしまう男爵に声をかける。


「次のお約束があったんですね」


「いや、明日が早いのでね。なんと、娘が婿と孫まで連れて帰国するのですよ」


 男爵は普段の紳士の表情ではない、笑み崩れた顔でいとまを告げた。




「食えないお人だ」


 残されたロランツは苦笑しながらひとりごちる。


「イアン君も、あの人にはさぞ骨が折れただろうな」


番外編をお読みいただきまして、ありがとうございました。


セドリックのお話『春を蒔く』を投稿します。

真面目で優秀な彼が八年かけて結婚した相手は、少し(だいぶ)元気すぎるヒロインでした。よろしければ覗いてみてください。

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